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新次元紀行  作者: 木戸攘夷
第19章 ダンシングフラワーは踊り狂って弾け飛んだ
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(2)

 そしてサルナの胸の中でトルクがゆっくりと目を覚ます。


 トルクはまだ状況が飲み込めていない。なぜか今、サルナの柔らかい胸に顔をうずめている。

 そして脇腹に激痛が走る。エルメルの角に叩かれ、アバラにヒビが入っていた。


 激痛がトルクを現実に引き戻す。首をもたげて周りを見回すトルクがサルナを徐々に認識する。あり得ない距離のサルナの顔に事態が飲み込めない。

 そして次第に視野が開けてくる。


 「痛い・・・痛い。わかった。わかったから放してくれ」

 サルナの胸の中でトルクが呻いた。

 「ごめんなさい。そうだ、後遺症は無い?自分の名前は言える。今何してたか覚えてる?」


 サルナは慌ててトルクを引き放す。そして質問を浴びせる。

 「判ってるよ。名前は・・・何だったっけ。何してたんだったけ。締め切りは・・・」

 「・・・締め切りってなんの締め切りよ。また、変な画像のことね。こんな時に」

 「・・・・・・そっか・・・くそっ・・あっっ」

 健在をアピールしたかったのだが満身創痍はいかんともしがたい。


 「でも、よかった。ほんとに・・・」

 サルナは微笑みながら涙を拭った。

 トルクの頬にはサルナの胸の感触が残っていた。


 (もう少し、胸の中で気を失っててもよかったな。失敗した・・・・)


 奇跡の正体はUSW017α5ウィルスとワクチンだった。


 ウィルスによって追い詰められ壊死寸前だった脳と肉体は、ワクチンによって強化され、凄まじい勢いで健全さを回復していた最中だった。


 酸素がほとんど供給されない状況下でさえ再生が続いていた。まったくの偶然といえる。トルクがもう少し回復していたならばワクチンの効力も薄れ、何かしらの後遺症は免れなかっただろう。


 「酷くやられたもんだな」

 血だらけのサルナの足を見てトルクは言った。トルクの意識ははっきりしている。


 「本当、ぼろぼろね」

 煤と埃で汚れたトルクの顔を見てサルナがまた微笑んだ。


 「奴はどうした」

 「アンダー・ザ・ルールを探しに行ったわ、多分。でもいいわ、もうエルメルはあきらめましょ。危険すぎる」

 その実、一番煮え切っていないのはサルナだった。火のついた闘争心をむりやり冷静に収めようとする。


 「どうするのさ」

 「内務省に特殊部隊を要請するわ。UMA対策室だけでは厳しいわね」

 現実を考えれば止む負えない判断だった。


 「いや、アンダー・ザ・ルールに会わなければコーラマバードを探すことはできっこない。何よりエルメルと決着をつける」

 「勝算があるの?」

 「あの情報だけじゃ簡単にはアンダー・ザ・ルールには辿り着かないし、特殊部隊はコーラマバードもアンダー・ザ・ルールも探し出せない」


 「エルメルの駆除要請をしたほうがいいわ」

 UMAは害獣扱い。駆除するものとされている。


 「内務省はエルメルを見つけることは出来ないよ。エルメルの殺すリストに俺が載ってるから姿を見せるだけ。もともとエルメルは姿を晒して仕事するタイプじゃないのさ」


 「それでもエルメルは任せてアンダー・ザ・ルールを探しましょ。80キロ先へ行けば鉱山跡地があるんでしょ。すんなり遭えないのかしら」


 「俺の把握しているアンダー・ザ・ルール、いやアルバドアンザールだとしたらすんなり姿を見せるとは考えずらい。そもそも殺し屋なんかに簡単に殺されるような奴じゃない」

 存在確率が10%以下のアンダー・ザ・ルールをとてもよく知っているような言い回しだった


 「わかったわ。でも一度チャネルローズで体勢を整えるわね。一勝一敗だしねっ」

 「いや、一勝二敗さ。ウィルスで殺されかけてるからね。イーブンにしてケリをつける」

 トルクの目はまだ死んでいない。


 サルナはトルクを信じ切れていなかったことを少しだけ後悔した。

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