(1)
サルナは炎と煙でやっと我に帰ると右の太腿に激痛が走った。
夥しい血が流れている。激痛とテーブルで身動きが取れない。
噴出した脂汗が頬を伝う。
ようやくテーブルを退けると思わずサルナはその場にへたり込んだ。煙が舞い込み咳き込んでしまう。
咳き込みながらバンダナをショルダーバックから出すと太腿をきつく縛って止血した。
(早くしなきゃ。早く逃げださなきゃ。死んじゃう。死んじゃうってば。そうだっ、トルクは)
対面の窓際にぼろ雑巾のようになったトルクを認めるとサルナは足を引きずりながらトルクの元へ辿り着いた。
思い切りトルクの頬を張る。呼吸もしていない。
(きゃっ、死んでる・・・うそっ、死んじゃう。死んじゃうってばっ)
炎はあっという間に屋根まで包んでしまった。
サルナはトルクのジャンパーの首を引きずる。途中でトルクの特殊警棒を拾い、カウンターへ何とか避難する。
そしてショルダーバックから今度は普通の音響炸裂弾を取り出した。窓際に投げる。
轟音とともに炎に大きな穴が開く。
ダンシングフラワーが踊り狂って弾け飛んだ。そしてトルクを抱え転がり飛び出す。
男とはいえ少し前まではウィルスで死に掛けていた。ワクチンで回復しつつあってもトルクはまだまだ華奢だった。サルナがらくらくと抱え上げられるほどに。
音響炸裂弾の振動がまだ大地を微細に揺らしている。
「トルク、トルクっ。起きてっ、トルクっ」
サルナはトルクの胸を力いっぱい叩く。叩く。叩く・・・
しかし、動くはずもない。
もう呼吸が止まってから10分、いや、20分は経過しているだろうか。
絶望的ともいえる時間が過ぎている。
(そうだ、もしかしたら・・・)
立ち上がり特殊警棒を構えるとサルナは電流をマックスまで上げるとトルクの胸に突き立てた。
電流がトルクの体にショックを与え、更に迷走した電流がサルナの体を貫いた。一瞬失神しかけたサルナは自分の胸を叩いて何とか正気を保つ。常人なら失神している衝撃だ。
(お願いっ、生き返って)
再度特殊警棒を突き立てる。同じ衝撃がサルナにもまた伝わった。
サルナは足から多量に出血し、意識をかろうじて繋ぎ止めておくぐらいが限界だった。
その場に力なくサルナはシリモチをついた。
サルナは諦めかけた。
(こんなことなら特殊部隊でも率いて来ればよかった。少なくともトルクを保護できた筈だった。たとえ任務をしくじったとしても・・・)
・・・・・・
だが、奇跡が起こった・・・。
迷走電流で錆びた古い車のセルが回る。ライトが点く。ラジオが大音量で音楽を鳴らす。
奇跡が起こった。
普通ならばあり得ないような奇跡が。ラジオの大音量に呼応するようにトルクの胸が静かに波打ち始める。
呼吸がある。
「よかった・・・・。よかった・・・」
大粒の涙を流しながらサルナはトルクを抱きしめた。
トルクを抱きしめながらいつか長官に忠告された感情移入しすぎるなという言葉を思い出す。
(むりよ。ムリムリ。わたしはわたし。フリスビーだしね)
ここにきてなにかを諦めてしまったサルナだった。




