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「そんな筈はありませんね。今一番の活性化アイテムですよ。そもそもワクチンがいくらするとお思いですか。シャトル並みの金額です。ハッカー一人程度じゃ割りに合いません。ありえません」
「ならばお前に感染させて確かめてみてもいいんだぞ。ガンジスを罠にかけたようにな」
エルメルは顔をモンティアーナに近づける。
表情がゆっくりと凹凸を持ち始め、皮膚に毛がゆっくりと生え始める。おぞましく口先が尖り始め、獣の呼気がモンティアーナの鼻先へ吹き掛かる。
「ちょ、ちょっと・・たっ、確かに、確かにガンジスはコーラマバードの後継者候補に名を連ねていますが唯のハッカーです。将来性も未知数とくりゃ国防会議も重要視しちゃいません。確かに少し効きの悪いウィルスだったようですね。は・・はは」
モンティアーナはあらためて冷たい汗が頬を伝う。
「・・・」エルメルの闇のような沈黙が更にモンティアーナを追い詰める。
「そっ、それで大事な角を一本置いて来たのですか。おか・・可笑しいですね。はっ、ははは・・・」
追い詰められた男は饒舌にならざるおえない。心を折られながらも精いっぱいの抵抗を見せる。
「まあ、さすがガンジスですね。国防会議は重要視しちゃいませんが私個人的には彼のファンでね。彼はいい仕事をする」
「後継者候補はもう2人しか残っていない。その2人を殺せば晴れて財団が相続できる筋書きだ。国防会議が邪魔をする可能性は十分に有りうる」
「彼のコラージュは芸術品だ。ソウルがこもってる。政府の要人にもコアなファンが多いと聞きます。本当は忍びないんですよ。個人的には・・彼を殺すことは」
「もういい。とにかく貴様のミスだ。これは償ってもらう」
「償うって、どうする気ですか。私を殺す気ですか。八つ当たりもいいとこですね。さー、おやりなさい。財団が黙っていませんよ」
「いや、貴様なぞ殺す価値もない。貴様の命など財団は重要視していない。金を倍もらう」
「それはボリ過ぎですね。今時マフィアや自警団でもそこまで強気じゃないですよ」
「あと子飼いの兵隊を30人貰う。ガンジスを殺したら返してやる」
「30人?30人も・・・あなたに着いていく兵隊がいればいいのですがねー」
「インスタンスで十分だ」
モンティアーナはまだ首を擦りながらしばらく考え込んだ。
「仕方ありませんね、手荒な事は無しですよ。訓練もただじゃありませんから」
「賢明な判断だ。命拾いしたな」
「本当に返してくれるんでしょうねえ」
「働き次第だ・・・」
エルメルは何事もなかったように帽子を拾い上げる。そしてスチール扉からゆっくりと出ていった。
「賢明な判断だ。あー賢明だ」モンティアーナは床に転がる黒服に目を遣りながら高くついた仕事に苦虫を噛みつぶす。
「くそっ」
深いため息を付きながらビンテージアロハの襟を思い出したように整えた。
(あ~あ、もう少しまともな用心棒でも雇わなきゃいずれ死んじまうわな。今度のボディガードはレスラー上がりにするか・・・)




