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新次元紀行  作者: 木戸攘夷
第15章 終末兵器の実験場 
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(3)

 「いらっしゃい。観光かい。裏で鶏を捌いてたもんだから」


 物音もなくカウンターの奥から姿を現した太めの婦人。エプロンには血糊が大量についていた。

 「あら、ごめんなさい。誰もいないと思ったから」


 「すまないね、こんな格好で。最近は観光客もめっきり減ってしまってね。ちょっと前は映画撮影やらツアーやらで盛り上がったんだがねえ」


 この地で隠蔽されたとされる近代負の世界遺産がフューチャーされ、映画化されたのは十数年前のことだ。


 「人を探しに来たんです」

 「そういえばこの前も来て行ったね。人探しが。流行ってるのかい。今度はなんのドラマだい」

 「そうじゃなくて・・どういう人ですか。その来たって人は」


 「薄気味悪い男だったよ。この町で昼間っから帽子とコートを羽織ってさ。ありゃ自警団の一味か薬物中毒者さ」

 サルナとトルクが一瞬緊張する。


 太めの婦人は一瞬、ほんの僅かだけ左右に拡散し、離れるように薄れ歪む。そしてまた元に戻る。瞬きするほどの時間。


 それをトルクは見逃さなかった。

 近くで話すサルナは恐らく気づいていない。疲れ目と間違える程度。

 少し離れた位置から見なければそれは判らない。


 それはイベントを持ったキャラクター特有のノイズ。


 ノイズが混じるのは非常態的な問題を抱えている証拠。本当は疲れ目ではない。


 「その人ってコーラとか飲むのかしら。それともハンバーガー」

 両手を広げて見せるサルナ。


 「誰を探してたのさ。そのジャンキーは」

 トルクが割ってはいる。


 その時サルナは気づいた。

 ピンボールにかじりつきながらもトルクはピンボールも、婦人も見ていないで話していることを。


 トルクはバックヤードを注視している。


 トルクの視線の先には恐らくは人の足が4人分ぐらい見えていた。

 いや、トルクの位置からはもう少し生々しく見えている筈だ。大小交え、積まれた感じで。

 トルクの視線を追ったサルナは鳥肌が立ち、右手で左腕を握りしめる。


 「なんて言ってたっけね、聞いたことのない名前さ。忘れちゃったよ」


 「・・・あなたももう殺されてるね」唐突にトルクが問いかける。

 ボールがスローモーションでフリッパーをすり抜け、低い音を発てる。

 トルクはもうバックヤードの方を見ていなかった。

 薄暗いバーが緊張で満たされる。


 「そうさ、スタンドも、モーテルもここの人間も全部殺されちまった。なぜか私だけ平気だったのさ。殺されたと思ったのに。埋葬が間に合わなくてね。不思議なもんさ、全然悲しくないんだよ」


 それはそうだ。イベントを持ったキャラクターはある瞬間から感情と時間の観念を失ってしまう。


 そういうプログラムをされているのだ。

 普通の精神状態ならば心身を喪失してしまうはずだ。


 「そのジャンキーはアンダー・ザ・ルールを探してるって言ってなかったかい」


 ドナウが運んだ結論、クロスワードの結果が99.9%の確率でトルクの予想通り『アンダー・ザ・ルール』だった。


 そしてその存在確率は今いる田舎町で10%。

 単純に年間36日は存在する確率。だがそれは普通の人の場合。

 10%という数字を深読みし、尚且つアンダー・ザ・ルールに悪意があるならば既に何らかの罠に落ちていてもおかしくはない。


 アンダー・ザ・ルールはひどい変わり者でほとんど他人と接触しない。

 どんなに存在確立を積算しても10%を超えない。

 通常ならば存在そのものが疑わしいところだ。恐ろしいほどのスキルを持つことをトルクは知っている。


 ちなみにアンダー・ザ・ルールという名だが、一世紀も前に地下ノートで流行った言葉で予想外の行動を取ることを意味する。あまり良い意味では使われていない。

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