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新次元紀行  作者: 木戸攘夷
第15章 終末兵器の実験場 
48/95

(1)

 エルメルが脱走したことを聞いたのは脱走してから丸3日も経った後だった。


 何時何処の世界でも役人の情報伝達はゆっくりしている。

 内務省のラボでは2度大騒ぎになっていた。

 1度目は稀代の殺人者を拘束したこと、2度目は脱走したことだった。


 「しかし暑いな」

 トルクは相変わらずジャンパーを着ている


 「この辺はね。まだ毎年平均気温が上がってるのよね。創風プラントでも気温の上昇を抑えきれていないのね。エアーコンディショナーを併設して湿った空気を定期的に送り込んで砂漠化だけは何とか抑えているみたいよ」


 サルナはパーカーのフードを深く被っていた。

 MAVが離陸する姿を見送るトルクとサルナ。国道に沿ってというか国道の真ん中を歩き始める。車通りは全くない。


 見渡せど見知らぬ荒野。

 ブッシュと低木が疎らに散在し、見渡す限り人工物の殆んどない土地。遮蔽物も無く、太陽は真上。

 舗装で玉子焼きが焼ける温度。


 一本に伸びた舗装が白線に導かれ延びている。

 左右道路脇には所々錆びて朽ちた有刺鉄線。その昔国がまだ栄えていたころこの広大な土地を所有していた軍隊が張り巡らせたもの。


 ウェルカム標識が二人を出迎える。

 『Welcome to the man cave of tragedy. To New Lawsons , where even the grass doesn't grow.』


 「なんか物騒だな」

 「翻訳機は直ぐに翻訳諦めたわね。所々掠れてスキャンできないけど。センシティブ判定ね」サルナがブックタブを翳して答える。


 「歓迎されてるな。俺たちをじゃないけどな」

 「そうね、歓迎されてるわね、熱烈に」

 「いわくつきの土地だけど」


 「一世紀前くらいまで終末兵器の実験場だったっていう噂は昔からあるけれどその場所が見つからない。時の強国が何世紀にも渡り暴走し続けたって教科書にも書いてあるしね」


 「あの国だろ。この辺は」

 「今じゃ見る影も無くなっちゃったけどね。もう国家なんて任意団体の承認とコンセンサスの為の機関になり果てているわ」


 「まあ、未だに公表されていない事実もかなりあるってことだし」

 「それも地下ノートかしら」


 「一時期盛り上がったこともあったなあ。でもなあ・・・陰謀論って直ぐ飽きられるんだよ。事実であれば尚更」

 「へー、なんか深いわね」


 赤い荒野が広がり、繰り返す小さな丘。遠くにかさぶたのような白い建物が僅かに見えるだけ。鳥さえ飛んでいない。


 暑さを堪えて歩くこと一時間程。


 「もっと近くにアプローチしたんじゃダメだったのか。うーしんどい」

 「まあ、まあ、そう言わないで。大きなMAVが突然やってきて万が一にも住人に変なストレス与えたくないしね」

 「住人なんて居そうもないけどな」

 「兎やリスも含めて住人よ」

 「なるほど」


 そこには人の気配の無いガソリンスタンドと併設するバーとモーテル。

 バー駐車場には窓ガラスが割れている錆びた古い車が一台のみ。車がもう何年も動いていないのは見ればわかる。


 腰高の柵の木質は全て年輪が浮き出て風化すらしない。古タイヤが積まれている。

 金属は全てが薄くなり、ゴム質は溶けて流れ、荒廃と呼ぶ他には何もない。

 ここにも終末兵器の見えない影があるのか。


「ちょっと待ってね。今クリップポイント作るから」

 取り出したスプレーを右手に吹きかけていく。そして右手を太陽で溶け出しそうなスファルトにつける。


 クリップポイント、それは衛星追尾マークだ。暫く衛星追尾から免れる場合や音信不通時にそこから探して欲しいポイントになる。


 不思議なスプレーは手についても何も発色しないもののアスファルトではとたんに真っ赤に発色し始めた。

 だが15秒まで。15秒経つと何事もなかったように見えなくなる。

 想定任務時間が過ぎると徐々に彩色を取り戻す。

 それ用のスプレーなのだ。


 何でも良いのだ。手、もしくは足型をその場所に消えないように描く。”今は”それだけの意味しか持たない。


 「役人の割には信心深いね」

 「信心深い?・・・慎重といってほしいわね」


 サルナにはその信心の意味が通じていない。

 行為が意味を失ってしまい、細々と三千世界の都市伝説としてしか引き継がれていないことについて。


 その昔人はログインした新世界に宗教的な拠り所を求めた。余りに古すぎるためサルナは謂れを教わっていない。


 新世界に旅立つフリーログインポイントの名残の神聖さを。

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