(5)
「生きてるかしら」
「スタンガンぐらいじゃ死なないよ。丈夫そうだし。恨みもあるな。正気を取り戻して怒りに任せて暴れられる前に拘束したほうがいい」
トルクは路辺にへたり込んでいた。
サルナはトルクの隣に一緒に座り込む。
二人は肩の力が抜けて足を投げ出した。サルナは手やら足やら擦り傷だらけになっていた。
「なかなかやるじゃない。驚いたわ」
サルナがトルクの顔を覗き込む。
胸が強調されトルクは目のやり場に困る。
「まあな。昔から・そ・こ・そ・こ・やるって言われてたぜ」
トルクは顔を赤くし、とりあえず目を反らした。
「そのソードあげるわ。あなた丸腰じゃ困るものね。ただのスタンガンじゃないのよ。5段階伸張、最長尺で3mの内務省特注品。かなりの電流も流れように調整可能」
「これだろ、運が悪くなくても死んじまう」
グリップにはスイッチと電圧と電流のボリュームがついていた。
「うおっ」
トルクがダイヤルを適当に回すと予想外の放電が走る。思わず放りだす。
「グリップの位置も両端と真ん中に移動可能よ。太さも先と端で変わらないから使いやすいわ。マーシャルアーツ向けね。普通は絶縁グローブ着けて使うわね」
サルナはソードを拾うと限界まで伸ばしてみせた。スイッチを押し直す。
「うおっ」
放電が樹木のように広がりトルクの足元のコンクリート片が粉々に飛び散った。
「ご、ごめんなさい。電流も流れてたわね」
「なるほど・・・。危険だってことだけは十分に分かったよ」
「それから今連絡したから直に警察が来るわ。中途半端な拘束は危険すぎる。サルバドール財団との繋がりがはっきりすればいいんだけれど。普通にしゃべるような感じじゃないわよね。困ったわね」
「いや、その必要はないよ。他にもう一人狙ってたって言ってたからね。先にそっちを押さえれば何とかなる・・・かな」
トルクは空に向かって人差し指をくるくると回した。
「誰だか判るのね」
トルクにはその人物が誰なのかはっきりと見えていた。
「まあ、大体ね、コーラマバードに最も近い人間さ。一石二鳥。後はうちの優秀なエージェントに探させる。でも居場所までは多分見つからないな」
トルクは月明かりに向かってドナウを呼び始めた。
「ドナウ、ドナウ、聞こえてるかい」
「ドナウ?ってあの猫のこと?。まさかね。連れて来てないのにいるわけないじゃない。ここはファントンよ」
しばらくすると小さなつむじ風と共に高い鈴の音が裏路地に響く。
もう一度響いた時にはすぐそこまで来ていることがわかった。
トルクはビルと商店の隙間の暗闇に向かい、しゃがんでドナウを呼び始める。
「ドナウ、ここまでおいでドナウ。おいで」
暗闇の中で何やらガサガサと音を発て始めた。
サルナが警戒し、体を硬くする。
「おいで、ドナウ」
「にゃあ」暗闇に鳴く猫の声がする。
「うっそー、なっ、なんかいるわ。信じらんない」
「うにゃ、うにゃ」
なかなか暗闇から出てこようとしないドナウ。
「まさかローグランから猫を呼び出したの。普通に友達とかじゃ駄目なの。何時っ、どうやって、どうやって連絡取ったの、うっそー」
「よく来たねドナウ。ほら、出ておいで」
ドナウはノソノソと暗闇からやっと出ると、差し出されたトルクの指を一舐めしてまた「にゃあ」と鳴いた。
「いいかい、ドナウ、エルメルに殺された人たちの繋がりから生存者のクロスワードと存在確率をラプラタに調べさせるんだ。それからあまり危険な場所に入っちゃいけないよ」
「にゃあ」
ドナウはトルクの足元を8の字を描くように体を擦り付ける。
「それって分かったってこと?通じてるの?」
「にゃ~ぁ」
「わかったよ」
「うにゃうにゃうにゃ~にゃうにゃにゃ~うにゃ」
ドナウはそっけなく出てきた暗闇に帰っていく。
「でっ、何て言ったの」
「・・・殺し屋と役人には気をつけろってさ」
「・・・凄いのね・・・。でもちょっと生意気ね」




