(2)
「うわっ・きゃっ」
エルメルは背後の壁をぶち破り車ごと潰しに当たってきた。
衝撃で4tトラックは倒れそうなほど片側が浮き上がる。
そして次の衝撃で両側が地上から浮き上がり、一回転して激しくバウンドした。
衝撃で風と埃が辺りに舞い上がる。
振動で辺りのガラスが弾け砕けて飛び散った。細かな破片が飛び散って細かな音を発てる。
最初の衝撃で左右に飛び退いた二人。
トラックの巻き添えは何とか免れたがコンクリート片がトルクの脇腹に直撃し、小片が頬を直撃する。
サルナは避け損ねた衝撃に数メートルも跳ね飛ばされてレンガの塀に激突した。
運よく翻ってショルダーバックデバイスでクッションしていなければ致命傷を負っていただろう。
「殺されたくなければアバターから離脱するんだな。もっともそんな隙はやらないが」
アバターの死、それは精神の死。肉体の死を意味する。洗練された純双方向通信は片方だけの生を維持しない。いや維持できない。稀に植物状態で生き続ける者もいるが・・・。
頭を下げた低い姿勢から角を向け、間髪容れずにトルクに止めを刺しにかかる。
トルクは力をふり絞りトラックを回り込む。
そして間一髪で体を斜めにして角を避けた。角は頭上数センチでトラックのグリルに突き刺さる。
トルクはその場にへたりこんで脇腹を押さえている。
呼吸もままならず意識も朦朧としている。エルメルの言葉も満足に届いていなかった。
「止め・・なさい。目的は何・・・」
塀にモタレながら声にならない声をかろうじて上げるサルナ。
立ち上がり前に進もうとするがそのまま突っ伏してしまった。
「きさまに用事はない。そこで見ているがいい」
「間違えてるの・・よ」
「・・・」沈黙。
「間違いよ。殺す相手はトルクじゃ・・・ないわ。取り違えられたのよ」
(少しでも体制を立て直す時間が欲しいわ)なおも顔を上げて声を絞りだすサルナ。
だがこれはサルナがトルクと行動を共にしながら拭い去れない思いだった。
「んんっ・・・、どういうことだ」
「彼はアバターじゃない・・・。彼はN・・PC・・・よ」サルナは時間を稼ぐ。トルクの耳に届いていないことを祈って。
サルナは立ち上がることもできない。
そのまま半ば力尽きてアスファルトに顔を伏せた。
「・・・なに・・・ありえん。・・・・・・ありえん。苦し紛れに気を反らす作戦か」
「くそっ・・・、シカ野郎」
トルクは脇腹の痛みから少しだが復活しつつある。
狭まって揺れていた視野も耳鳴りも徐々に回復してきた。
エルメルは異様に大きい黒目でまるで覗き込むようにトルクを観察している。鼻息はまるでスチームの様に低く重厚でゆっくりしていた。
「今度は確実にお前を殺す。なぜ這いつくばって逃げようとしない。一気に追い詰めはしない。じっくりと確実にお前を狩る」
トルクは右足でエルメルの踝と下腹を蹴るがビクともしない。
「もがくがいい。疲れきって生を諦め、恐怖と苦痛に喘ぎながら死んでゆく様を鑑賞することは何物にも代えがたい。お前はそこまで疲弊していない。さあ逃げ回れ・・・」
「余計なお世話だ、殺人マニアめ、変態野郎。俺はな、くたびれるのが嫌いなんだよ」
「お前の心にはまだ攻撃の色彩がある。おかしいぞ。なぜ這いつくばって逃げない。隙を窺っているのか。何かのチャンスを狙っているのか。好機なぞ与えられる筈も無かろうに」
用心深いエルメルの瞳孔が小さくなっていく。
何かを分析している。そしてトルクが次の動きを見せた途端に左右の手で引き裂くつもりだ。
「殺すなら殺しやがれ。今がチャンスだ。最後のなっ」




