(4)
[IT'S IMPOSSIBLE. IMPOSSIBLE. IMPOSSIBLE. IMPOSSIBLE. IMPOSSIBLE. IMPOSSIBLE. IMPOSSIBLE.・・・・・・・・・・・・。;
無限にループする文字が画面を覆い尽くす。病的な殺意。
ブラウン管が急に大きな音を立てて電源が落ちる。電源が落ちる瞬間大きく光が弾けた。
トルクとサルナを見つめる青銅のマスク。見開いた目が怪しい色を帯びる。呪術の仮面が歯をむき出しにする。
そして大きな唸り声を上げる。
「IT'S IMPOSSIBLE!!!・・・」
「きゃっ」
小さな喫茶店の世界が急に歪む。
耳障りのする大音量が周りを揺らす。
徐々に床が硬度を失い、天井がだれ始める。
揺れていた照明のコードが伸び始め、ボトリと照明をテーブルの上に落とした。
硬めだった喫茶店のソファが体をめり込ませる。
立ち上がると今度は足が徐々に沈んでいく。
壁と柱の世界が角を失っていく。
壁に飾られた仮面達がムンクのように伸びていく。置き時計がひしゃげていく。
ウェイターがバランスを失い壁に寄りかかるとそのまま壁に埋もれていく。
その顔は薄笑いを浮かべていた。
「動いちゃだめだ」
トルクが持ち上げたグラスを放す。
音もなく弾みもせず割れることもなく飲み口がそのままフロアに突き刺さる。
底なし沼に飲まれる棒切れのようにゆっくりとそのままフロアに沈み始めた。
「ここは奴の住みかなんだ。力が強ければ強いほど飲み込まれる世界だ」
「どうすればいいのよ」
「慌てるな。ゆっくり動いて。まず、ゆっくり立ち上がるんだ。力をかけないように」
「力をかけないようにって・・・あっ」
思わずテーブルについた手に力を込めると手首まで沈み込む。
「わかった、わかった、意識しないように」
「いやっ」
思わず手をひっこめると勢い良くお尻からソファにめり込むサルナ。
「ああ、あぁ、やっちゃった」
飛び跳ねるエビのようになったサルナにトルクは思わず吹きだす。
ムッとするサルナ。
サルナは立ち上がろうとして引っ張ろうとしたトルクの袖裾を掴む。
引っ張りすぎたトルクがよろけてソファにめり込んだ。
「あああ、やっちゃった。ごめんねー」
エビのようになったトルクにサルナが笑いを必死で堪える。
おかげでサルナは何とか態勢を持ち直す。
「笑ってる場合じゃないわ。大変なことになっちゃった・・・」
「だから意識したらダメなんだよ」
「・・・にしたって意識しないようにって、むっ、無理よ」
「わかった、わかったから。自然体で頼む」
「自然体、自然体・・・って・・・どうすれば・・」
「そうだな・・休日の寝起きみたいにだよ」
「こうかしら」口を半開きにして目を泳がせるサルナ。涎も垂らしそうな勢いで。
「やればできるじゃないか・・・って・・・ちがーうぅ・・・いや、まあまあ合ってるか・・・」
既に入ってきた入り口の扉は角を失い、ドアノブは溶け落ちそうになっていた。
「とりあえずヤツのテリトリーから出る。銃はもってきてるな」
「えーと」ショルダーバッグデバイスを覗き込むサルナ
「急いで」
「ブックタブに、ティッシュに、口紅に、衝撃銃に、音響炸裂弾、小型手榴弾、強力手榴弾、高機能手榴弾と」
サルナはショルダーバックデバイスの中身をテーブルにバラバラと広げる。軽いものはさしてめり込みもしないようだ。
「おいおい、(ショルダーバックにどれだけ入ってるんだよっ)そんなに出さなくていいから」
「凍結銃に、警棒、折畳傘、マキビシに手裏剣に、コンパクト、財布、カード・・・」
「あった。それだっ、フリーザだっ。扉に撃て」
「フリーザって、これ、機密装備なのよ。っていうかトルク使い方分かってるの?」
「地下ノートじゃ有名なんだよ」
「でも無理よ、コールドスプレーとはわけが違うのよ。凍結できるものと出来ないものが・・・」
「いいから、奴はこのレイヤに溶け込んでる。奴には効くはずだ。扉に撃て。扉がなくなる前にっ」
「分かったわ。えいっ」
サルナは凍結銃を両手で構え、一呼吸置くと入り口に向かって発砲した。
弾丸は渦を巻きドアに吸い込まれる・・・。
発砲音の細かくて小さい波動がゆるくなった室内を伝播する。
発砲の反動で後ろへ飛ばされたサルナはあっという間に壁に埋まりかけていた。
・・・
・・・
小さな喫茶店の世界は角を急に取り戻す。それと同時にガラスの砕け散る音がしてドアが弾け飛んだ。
暗く人通りの無い町にガラスを無くしてひん曲がったドアのフレームが音を発てて転がっていく。
その甲高い音は暗い商店街に暫くこだました。




