27皿目【デザイナーズドラゴン】
並行してもう一本連載を始めました。
異世界に召喚されて、現代知識でどうこうするやつです。
こちらと同様、不定期で進めてゆきます。
「……我は【デザイナーズドラゴン】。お洒落な龍なり……」
眼前に聳え立つは、コンクリート打ちっぱなしのような鱗を持ち、所々に採光のためのような真円形の穴が開いており、部分的に青や赤で塗装された金属のような妙に角ばった爪と牙を持つドラゴンだ。【デザイナーズドラゴン】と名の付く龍は、どの地方で生まれた物でも、大体似たような、それほど個性のない外見を持つ。それはまあ、そういう種族なのだから当然なのだろうが。
木材資源の得られない地域では、【デザイナーズドラゴン】の亡骸をくりぬいて家にすることもあったらしい。耐震強度は基準値を満たしているし、居住空間自体は最低限確保されるにしても、掃除が無駄に面倒だと聞いたことがある。
「……デザインは高等な技術職なり。ちょちょいと図面を引いてトゲトゲを付ければ良いというものではない……居住性と外見を相乗させる発想と、なおかつ建築基準法にも従いそれを形にする実現力が求められる……相応の報酬を貰わねばやっていられぬのだ……」
消費者を見下したような目で、【デザイナーズドラゴン】が気炎を吐く。
余波だけで乾いた地面を陶化させるファイアブレスを、助手のゲッカは魔法の冷気で相殺し、
「それはそうだと思うんですけど、ウェブデザイナーの方って、どうしてこの程度の仕事であんなにお金を取るんだろうと疑問に思うような業者さんも多いじゃないですか」
と挑発する。
ウェブとは絶血龍【ワールドエンドブラッドドラゴン】の逆鱗を媒介にした、二次元情報発信メディアの総称だ。文字や絵を全世界の受信端末に送ることが可能なため、国際的ニュースや世界規模の商業広告、自己顕示欲の高い連中の糞どうでもいい便所の落書きレベルの情報などを公開するのに使われる。これを用いて送る情報の体裁をデザインするのが、ウェブデザイナーという職となる。
「……ウェブデザインは、ロゴデザインや紙面デザインと同様、元々とにかく値切られやすい仕事なのだ……適正価格以下に値切られると、一般的な業者はやる気を失って適当な仕事をするものなり……やる気を失ったら会社が潰れることをわかっている業者だけが、ある程度真面目に仕事をこなすが……ゴミみたいな料金でゴミみたいな仕事ばかり繰り返したデザイナーは、定価での仕事が入っても平時の癖でゴミみたいな仕事をしてしまうものなり……」
世の中への絶望。資本主義への怒り。デザイナーという職を選ぶのは、自らの才能を金に換えることを一度は正義と認めた者達だ。故に、フリー素材を利用することはあっても、フリー素材配布者という概念に理解を持つことはない。そうした感情は己に安値を付け、その価値を貶める者への憎悪として育ち、それでも相手を打ち破ることができず、心中で燻ったまま身を蝕んでゆく。
「彼らも無知なクライアントと歪んだ商業倫理の被害者だったんですね」
「……然様……それなりの大手の会社に入った新卒なる人の子らが、最も不幸と言えよう……就職し立ての頃は、自分の能力を直接的に活かせるこの仕事に情熱を燃やしていた者らも、そのような雑な仕事の仕方ばかりしていると、心を狂わせ、人生の中の若く発想力に溢れる時間をただただ浪費し、早々に枯れ果ててゆくのみよ……」
ゲッカと【デザイナーズドラゴン】は向き合ったまま、数秒、その心を共鳴させる。
相応の名声か後ろ盾を得た一部の者を除けば、デザイナーの社会的地位は、未だ低い。
こいつらどっちも、デザイナーでも何でもない癖にな。
「でも。それでも」
岩塊の槍。エルフの魔力によって生み出されたそれはコンクリート並の強度を持つ鱗を貫くことは叶わないが、【デザイナーズドラゴン】の真円形の穴を潜ることは容易い。
「バスルームの壁がガラス張りって、友達呼べませんよね」
ゲッカの魔法は【デザイナーズドラゴン】のガラス状の心臓を破砕し、その巨体は地へと斃れ伏した。




