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様々なドラゴン~万龍の世界で龍を食う~  作者: 住之江京


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28皿目【クレジットカードドラゴン】

 たまに勘違いしている奴がいるんだが、歴史のある大手企業は全て完全なセキュリティを持っているとか、その社員が意図的に個人情報を流出させることはないとか、名のある大店の販売員はスキミングに手を出さないとか、そんなことは、別にない。末端の末端までの倫理教育と、時代の最先端のセキュリティを兼ね備える組織は人の想像以上に少ないし、それは外部から判断することが少々難しい。大手だからこそ盗賊やらに狙われることもあるしな。

 後払龍鱗(クレジットカード)の暗証番号は、相手が誰であっても、教えた時点で口座の金は全て引き落とされる危険性を持つと考えて良い。大手と零細で異なるのは、その後の補償だ。本物の大手なら盗まれた金は比較的返って来やすい、というのが、大手を選ぶメリットと言える。大手相手なら被害者の総数も多くなり、中には社会的地位の高い者も含まれるだろうから裁判に強い。企業側もすぐに潰れて夜逃げする可能性も比較的低いし、信用を保つためには補償をせざるを得ない。業種によっては不祥事自体を揉み消すべく金に飽かせて優秀な弁護士を雇い、メディアに金をばらまいて、被害者側の人生ごと潰しにかかる企業もあるだろうが、そういう相手には現金か手形の取引で済ませれば良いだろう。

 人がクレカを使う以上、口座の金が全て奪われる程度のことは、あらかじめ覚悟しておくのが当然だ。望んで薄氷を渡る者が、好んで崖を歩く者が、台風の日に傘を差して踊る者が、事故死に瀕して誰を恨むものか。

 そうは言っても、実際金を抜かれると腹が立つ。

「グラムさん、クレジットカードなんて持ってたんですねえ。いつも袋で金貨運んでるイメージありましたけど」

 助手のゲッカはこの非常時に、呑気に驚いた顔をしてみせた。貧乏暮らしの長かった者は金にがめつくなるか、食っていけるだけの金があれば預貯金に頓着しなくなるかに分かれると聞くが、こいつは後者らしい。

「そもそも審査通るんですか? 自営業はなかなか審査通らないって聞きますけど」

「そりゃカード審査受ける自称自営業の半分は無職だからな。それ以前に、職の分類上だと俺は自由業(フリーランス)だよ」

 自営業と自由業の分類は曖昧だし、自由業の方が安定性低いから審査厳しいんだがなあ。

「これでも何年も継続してまとまった収入はあるし、そこそこ社会的信用はあるんだよ」

「いいなあ。私もクレカ欲しいです。通販で便利なんですよね」

「流石にまず落ちるだろうがなあ」

「ちょっと前まで浮浪者でしたしねえ」

 俺がゲッカを拾ってから、二ヶ月ほど経つ。衣食住と別に、月に幾らかの給料は払っているが、相場がわからないので、金貨を一握りとかそんなもんだ。雇用者が言うのも何だが、安定収入とは言い難い。やはりカード審査は通らないだろう。

「学生ならほぼ無審査で、入会金年会費永久無料、卒業しても使える限度額十万か二十万のカードが三、四枚は作れるぞ」

「へえ、ザルですねえ。私学校って行ったことないですけど」

 俺の金無い自慢が癇に障りでもしたのか、ちょいちょい貧乏ネタを挟みながら感心したように頷くゲッカは、薄切りにした【クレジットカードドラゴン】の素揚げを口へ放り込む。時間を置いて湿気ってきたのか、揚げ立ての時のようなサクサク音は鳴らないが、俺は天麩羅でも焼き物でも、ある程度冷めてへたった方が好みだ。舌によく馴染むから満面で味を感じられるし、少し冷めるまで置いた方が味付けがよく染み渡る。素揚げの場合は油の風味が溶け合うのだ。

 ……いやいや。こんな話をしている場合じゃなかった。そうそう、金が無いんだ。

「で、さっきも言ったように、クレカ用の口座の金が全部抜かれたから、明日からしばらく節約生活を送ることになる」

 そう、俺はスキミング被害者なのだった。

 一応口座は分散させていたが、カード決済なんて、現金を持ち歩くにはつらい額の取引にしか使わない。故に、口座にはそれだけの額が入っていることになり、ざっくり言えば持ち金の三割は消えてしまったことになる。犯人の候補は限られているが、一番怪しい店の店員が昨日、押し込み強盗か、でなければ、それを装った何者かに皆殺しにされたんだよなあ。

 大規模自転車操業のドラゴンハンターが一時的にも資金の三割を失うとなると、まあ倒産まではしないが、今ある支払いを全て片付けると、輸送用ドラゴン利用の遠征や大型狩猟はできないし、相応の準備がいる上位種にも手を出せない。龍殺しの武器の損耗もなるべく抑えたいから、近場の、小さめの、やわらかい系のドラゴンを狙うしかない。そういった種は比較的狩りやすいから値も付かないし、盗られた分を稼ぎ直すにもかなりかかりそうだ。

 そういった話を説明すると、「お金の話はよくわかりませんね」という、酷くぼんやりした返答があった。

「そんなわけで、しばらくあんたは有給休暇でも取ってくれ」

「お金無いのに仕事しなくてお給料は貰えるんですか?」

「ドラゴンハントは元手が貯まるまで基本、なーんにも動けないんだよ。生活費と給料なんか誤差みたいなもんだし当分余裕あるんだが、今二人分の経費は払えねえんだよなあ」

「つくづく新規参入の難しい業種ですねえ」

 完全に冷め切った【クレジットカードドラゴン】の素揚げを塩にちょいちょいと付けて、小皿の縁で塩を落とす。食う。うまい。この味も、しばらくお預けか。元々年に一度も食わない種類のドラゴンだが、食えないと食わないでは気分が違う。

 皿の中身を平らげ、食器を片付ける。ゲッカは鞄から手帳とペンを取り出し、カレンダーのページを開く。

「お休みって大体何日くらいになります?」

 そう訊かれた。

「早くて二、三年てとこだなあ」

 そう答えた。

 メランコの世話はどうしたもんかな。今でも大概、自分で食う分は自分で狩ってくるから、餌代は良いとして。ゲッカに懐いてるみたいだし、留守の間は任せるか。

 なあ、と呼び掛けようとした所で、ぼそりとゲッカは呟いた。

「……ええええ……長くないですか、二、三年……」

 そうは言っても、金がねえからなあ。

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