第6話 海の涙
早朝の海岸。
灰色の空の下、大量の漂着ゴミが浜辺を埋め尽くしていた。
ペットボトル。
ビニール袋。
壊れた漁網。
発泡スチロール。
本来なら美しいはずの海岸は、まるで巨大なゴミ捨て場のようだった。
「ひどいな……」
護は顔をしかめた。
隣では未来が海を見つめている。
今日はシーカーの調査任務に同行していた。
ガーディアン正式隊員ではない二人だが、人手不足もあり現地調査の補助として呼ばれていたのだ。
「この周辺だけ異常な量の漂着物が確認されています」
シーカー隊員の説明に護は首を傾げる。
「海流の影響じゃないんですか?」
「最初はそう思いました」
隊員はタブレットを見せた。
「ですが海底から謎のエネルギー反応が出ています」
未来は不安そうに海を見つめた。
その時だった。
ザザァ……
波音に混じって何かが聞こえた気がした。
『……たすけて』
未来は振り返る。
しかし誰もいない。
聞き間違いだろうか。
だが胸の奥が妙にざわついた。
まるで誰かが泣いているようだった。
◇
アーク司令室。
マリアと三神が海底データを解析していた。
「生体反応確認」
マリアが告げる。
モニターには巨大な影が映し出されていた。
「全長七十メートル」
「海底から浮上中です」
三神が息を呑む。
「怪獣か……」
十文字が腕を組む。
その瞬間。
警報が鳴り響いた。
ビーッ!
ビーッ!
ビーッ!
「対象急速浮上!」
隊長が立ち上がる。
「ガーディアン出動!」
◇
海が割れた。
巨大な水柱が天へと噴き上がる。
その中から姿を現したのは、異様な怪獣だった。
灰色の身体。
全身に絡みつくプラスチックゴミ。
漁網。
ビニール。
廃棄物。
まるで海そのものが苦しみの中から生み出した怪物だった。
「コードネームを付与」
マリアの声が響く。
「海洋廃棄獣――プラトロン」
ギィィィィィ……
プラトロンは悲しげな鳴き声を上げた。
怒りではない。
苦しみだった。
◇
Gファルコン隊出撃。
十文字の指揮のもと攻撃が開始される。
「ミサイル発射!」
ドォォォォン!
命中。
しかし。
怪獣の身体から大量のゴミが飛散した。
海へ。
町へ。
漁港へ。
「何だ!?」
十文字が驚く。
続くレーザー攻撃。
すると溶けたプラスチックが海へ流れ込む。
魚が次々と浮かび上がった。
司令室が凍りつく。
「攻撃するほど汚染が広がる……」
三神が呟いた。
隊長は即座に命令する。
「攻撃中止!」
十文字も歯を食いしばった。
「くそっ……!」
◇
その頃。
避難誘導をしていた未来は再び声を聞いた。
『くるしい……』
『いたい……』
未来は目を見開く。
プラトロンだった。
怪獣は暴れているのではない。
苦しんでいるのだ。
未来は走り出した。
「未来!」
護が追いかける。
怪獣の目前。
未来は必死に叫んだ。
「大丈夫!」
「もう大丈夫だから!」
その瞬間。
プラトロンの巨大な瞳が未来を見た。
そして。
護の胸も熱くなる。
あの日と同じ光。
金色の輝き。
『護』
『未来』
二人の脳裏に声が響いた。
次の瞬間。
眩い光が二人を包み込んだ。
◇
海岸に巨大な光の戦士が降り立つ。
スピア。
その姿にガーディアンの面々は息を呑んだ。
「光の戦士……!」
しかし。
いつもと違った。
未来の想いが強く共鳴する。
プラトロンを倒したくない。
助けたい。
その願いに光が応えた。
スピアの身体が変化していく。
銀色のボディに藍色の光が走る。
胸部や肩に紫のラインが浮かび上がる。
瞳は澄んだ青白い光へ変わる。
まるで夜空そのものを纏ったような神秘的な姿。
マリアが驚きの声を上げた。
「エネルギーパターン変化!」
「新形態確認!」
隊長が静かに見つめる。
「タイプチェンジ……」
ルナフォーム。
未来の優しさが生み出した新たな姿だった。
◇
プラトロンが苦しげに咆哮する。
しかしルナフォームは構えない。
攻撃しない。
ゆっくりと両腕を広げる。
藍色と紫色の光が夜空の星屑のように舞い上がった。
無数の光がプラトロンを包む。
漁網が解ける。
プラスチックが消えていく。
有害物質が浄化される。
怪獣を苦しめていた原因そのものが取り除かれていった。
ギィィ……
プラトロンの声が変わる。
悲鳴ではない。
安堵の声だった。
未来の想いがスピアを通じて伝わる。
「苦しかったんだね……」
「もう大丈夫」
プラトロンは静かに頷くように首を下げた。
そしてゆっくり海へ向き直る。
夕陽に照らされた海。
怪獣は一度だけ振り返った。
まるで感謝するように。
そして海の彼方へ消えていった。
◇
戦いが終わる。
ルナフォームのスピアも光となって消えていく。
誰も正体を知らない。
護も未来も覚えていない。
ただ。
展望デッキで夕暮れの海を見つめながら。
護がぽつりと呟いた。
「なあ」
「うん?」
「今日の怪獣……」
未来は静かに頷く。
「助かってよかったね」
護は少し笑った。
「お前らしいな」
未来も微笑む。
その頃。
海の底ではプラトロンが静かに眠りについていた。
長い苦しみから解放されたかのように。
そして司令室では。
隊長がルナフォームの映像を見つめていた。
「倒すのではなく……救う力か」
その言葉を聞いたマリアが首を傾げる。
「理解不能です」
隊長は小さく笑った。
「だからこそ、人間は面白いんだよ」
誰も知らない。
この戦いが、護と未来の運命を大きく変え始めていることを――。




