第2話 光の巨人
ゴモスとルドラが姿を消した街には、静かな朝が訪れていた。
だが、その静けさは以前のものとは違っていた。
道路にはひび割れが残り、崩れた建物にはブルーシートが掛けられている。
昨日の出来事が夢ではなかったことを、街そのものが物語っていた。
コンビニの駐車場で護は大きな欠伸をした。
いつもと変わらぬ制服。
いつもと変わらぬ朝。
だが、胸の奥だけが落ち着かなかった。
あの光。
あの巨人。
そして――。
『護』
頭の中に響いた声。
気のせいだと思いたかった。
しかし、忘れようとしても忘れられない。
「神代ぃ!」
突然、頭を叩かれた。
「痛っ!」
振り返ると店長が立っていた。
「朝からボーッとしとるな」
「別に……」
「別にやない。客にコーヒー二回渡そうとしてたぞ」
「マジですか……」
「マジや」
店長は呆れたようにため息を吐いた。
しかし、その視線は一瞬だけ遠くを見ていた。
まるで何かを考えているように。
「昨日のことが気になるんか?」
護は思わず顔を上げた。
「……店長も見たんですか?」
「街中の人間が見とるやろ」
「光の巨人……」
店長は何も答えなかった。
ただ、缶コーヒーを一口飲んだだけだった。
――その頃。
未来は保育園で子供たちに囲まれていた。
「みく先生!」
「怪獣また来る?」
「光の巨人は?」
次々と飛んでくる質問。
未来は苦笑した。
「先生にも分からないよ」
「でもね」
未来は子供たちの目を見た。
「きっとみんなを守ってくれると思う」
「ほんと?」
「うん」
そう答えながら、自分自身も不思議だった。
なぜだろう。
あの光の巨人を見た時、不思議と怖くなかった。
むしろ――。
安心した。
その時だった。
園長が慌てて駆け込んでくる。
「未来先生!」
「はい?」
「お客様です!」
保育園の入口には黒いスーツ姿の女性が立っていた。
長い黒髪。
鋭い眼差し。
どこか普通ではない雰囲気。
「結城未来さんですね」
「はい……」
女性は一枚のカードを見せた。
そこにはEAAのマークが刻まれていた。
「世界防衛機構EAA所属。私は神崎玲奈と申します」
「EAA?」
「昨日の件について、お話を伺いたいのです」
未来の表情が強張った。
同じ頃。
護の元にも来訪者が現れていた。
店の自動ドアが開く。
入ってきたのは白衣姿の男だった。
ボサボサの髪。
眠そうな目。
しかし妙に存在感がある。
「お、君が神代護くんか」
「は?」
「おお、若いなぁ」
「誰ですか?」
男は胸を張った。
「天才科学者や」
「怪しい……」
「失礼やな!」
そこへ店長が現れた。
男を見るなり顔をしかめる。
「博士……何しに来たんや」
「久しぶりやな」
「嫌な予感しかしない」
護は二人を見比べた。
明らかに知り合いだった。
しかも長い付き合いらしい。
博士と呼ばれた男はニヤリと笑った。
「護くん」
「はい?」
「君、昨日死にかけたやろ?」
「え?」
「なのに生きとる」
護の顔から血の気が引いた。
博士の目だけが笑っていなかった。
「君は昨日、何を見た?」
その瞬間。
護の脳裏に黄金の光が走る。
巨大な光の巨人。
希望を宿した瞳。
そして――。
『まだ終わっていない』
再び響く声。
護は思わず胸を押さえた。
遠く離れた海底。
誰も知らない超古代遺跡の深部。
闇の中で赤い瞳が開いた。
地中深くへ消えたはずのゴモスだった。
その身体には黒い亀裂が走り、不気味な光が脈打っている。
まるで何かに呼ばれているように。
そして遺跡の最深部。
巨大な種子のような物体が静かに鼓動していた。
ドクン――。
ドクン――。
まるで生きているかのように。
新たな災厄は、すでに動き始めていた。




