第15話 侵入者
〇EAA月面基地・ルナ
月。
その静寂に包まれた地表を、一つの光が横切っていく。
だが、それは星ではなかった。
遠く離れた地球へ向かう、小型の宇宙船。
その内部。
一人の男が窓の外を眺めていた。
黒い瞳。
人間と変わらない姿。
しかし、その瞳の奥には、人間ではない光が宿っている。
異界星人・ゾルガ。
男は静かに呟いた。
「……ようやく、動き始めたか」
その視線の先。
遠くに青い地球が見えていた。
〇アーク・司令室
いつものように、ガーディアンの隊員たちが忙しく動いている。
総監は司令席に座り、各地から届く報告書に目を通していた。
その隣には副指令。
「総監。先日の宇宙人についてですが……」
「ああ」
副指令がモニターを操作する。
「現在も正体は分かっていません」
「そうか」
「ただ、一つ気になることがあります」
「何だ?」
「奴が現れた場所が、すべてEAAの関連施設なんです」
総監の表情が変わる。
「……偶然ではないな」
「はい」
その時。
マリアから通信が入る。
『総監。シーカーから緊急報告です』
「何だ?」
『EAAの複数の施設で、同時に通信障害が発生しています』
副指令が振り返る。
「同時に?」
『はい』
『さらに、アーク内部でも不明なデータ通信が確認されています』
司令室の空気が変わった。
総監が立ち上がる。
「……内部だと?」
〇アーク・システム管理室
博士がコンピューターを操作している。
「おかしい……」
研究員が尋ねる。
「どうしたんですか?」
「誰かが、アークの防衛システムへアクセスしている」
「外部からですか?」
「いや……」
博士は画面を見る。
「内部からだ」
突然、照明が消える。
「えっ?」
暗闇。
非常灯だけが点灯する。
そして、
コンピューターの画面に見たことのない文字が浮かび上がる。
博士が息を呑む。
「……何だ、これは」
画面に一つの言葉。
ZOLGA
博士が後ずさる。
〇アーク・司令室
警報が鳴り響く。
『アーク内部に不正アクセス!』
『防衛システムの一部が停止しました!』
隊員たちが一斉に動き出す。
副指令が指示する。
「シーカーは原因を調べて!」
「了解!」
「Gウイングは待機!」
総監が尋ねる。
「敵の目的は?」
「……分かりません」
副指令が答える。
その時、
突然、司令室のモニターがすべて消える。
そして、
見知らぬ男の顔が映し出された。
総監が画面を見る。
「……誰だ?」
男は笑った。
「初めまして」
「私は……お前たちが探している存在だ」
副指令の顔が険しくなる。
「ゾルガ……」
男は微笑む。
「そう呼ばれている」
総監が一歩前へ出る。
「何が目的だ?」
「目的?」
ゾルガは少し考えるような仕草をする。
「君たちは、私が怪獣や宇宙人を使っていると思っているようだが……」
画面の中で、ゾルガの目が赤く光る。
「順番が逆だ」
「……何?」
「私は君たちを観察していた」
「ガーディアンという組織を」
「そして――」
ゾルガが微笑む。
「弱点も分かった」
画面が消える。
〇アーク・格納庫
突然、
格納庫の扉が閉まる。
「何だ!?」
隊員たちが騒然となる。
その直後、
床から黒いエネルギーが噴き出した。
隊員たちが吹き飛ばされる。
「うわあっ!」
護と未来も地面に倒れる。
「未来!」
「大丈夫!」
二人が立ち上がる。
護は格納庫を見回す。
「何なんだ、これ……」
その時。
通信機から副指令の声。
『護! 未来! そこから離れて!』
「副指令?」
『アークの一部が敵に乗っ取られている!』
護の表情が変わる。
「敵が……アークを?」
『まだ完全ではありません! ですが、このままでは――』
通信が途切れる。
〇アーク・医療区画
負傷した隊員たちが運び込まれる。
医療主任が必死に治療している。
「こちらへ!」
「急いで!」
そこへ副指令が駆け込んでくる。
「被害状況は?」
「まだ分かりません!」
医療主任が答える。
「でも、このままアークが攻撃を受けたら……」
副指令は拳を握る。
「……何としても止める」
〇アーク・中央制御室
博士とマリア、シーカーの隊員たちが必死に防衛システムを復旧させている。
「ダメだ!」
博士が叫ぶ。
「防衛システムそのものが書き換えられている!」
マリアが答える。
『私のアクセス権限も拒否されています』
博士が驚く。
「マリアまで……?」
『はい』
その時。
マリアの身体が一瞬だけ停止する。
「マリア?」
『……』
再起動。
『問題ありません』
しかし、
その瞳が一瞬だけ赤く光った。
〇アーク・司令室
副指令が戻ってくる。
「総監」
「状況は?」
「敵はアークの複数のシステムを掌握しています」
「外部からの攻撃は?」
「ありません」
総監が眉をひそめる。
「……内部から、か」
副指令が頷く。
「はい」
その時。
アーク全体が大きく揺れる。
「何だ!」
隊員たちが倒れる。
モニターが次々と赤く染まっていく。
『警告!』
『メインエンジン出力、異常上昇!』
副指令が叫ぶ。
「エンジンを停止して!」
『停止命令、拒否されました!』
総監が立ち上がる。
「……まさか」
窓の外。
アークの巨大なエンジンが、異常な光を放ち始める。
「奴は……」
総監が呟く。
「アークそのものを武器にするつもりか」
〇地上
街の人々が空を見上げる。
巨大空中基地アークが、異常な光を放っている。
「何だ、あれ?」
「アークが……?」
ニュース映像にも緊急速報が流れる。
『EAAの巨大空中基地アークで重大な異常が発生しています――』
〇アーク・司令室
副指令が隊員たちを見る。
「全員、脱出準備!」
総監が驚く。
「副指令!」
「このままではアークそのものが破壊されます!」
「しかし――」
副指令は総監を見る。
「私たちは一度、アークを失いかけています」
「……」
「今度こそ、隊員を死なせるわけにはいきません」
総監は黙って彼女を見る。
そして、
「……分かった」
副指令が頷く。
「全隊員へ!」
「アークを放棄します!」
〇アーク・格納庫
護と未来も脱出準備をしている。
護が未来を見る。
「……アークが」
未来は黙っている。
その時、
二人の胸に同時に何かを感じる。
――光。
護が胸元を押さえる。
「……何だ?」
未来も同じだった。
「私も……」
二人は顔を見合わせる。
しかし、
まだ何が起こっているのか分からない。
〇アーク・外部
アークの各所から煙が上がる。
その上空。
一人の男が浮かんでいる。
ゾルガ。
「……始まった」
ゾルガがアークを見つめる。
「君たちの光を守る場所は――」
目が赤く輝く。
「今日、消える」
その瞬間。
アーク全体が大きく揺れる。
巨大な亀裂が機体を走る。
そして、
アークのエンジンが爆発した。
ドォォォォン――!!
巨大な炎が夜空を染める。
ゾルガはその光景を見つめながら、
静かに笑った。
「……次は、光そのものだ」




