第14話 守るべきもの
〇アーク・司令室
朝。
巨大空中基地アークの司令室では、いつものようにガーディアンの隊員たちが忙しく動いていた。
その中央。
総監の席に座っていた男が、資料をまとめている。
EAA総監。
そしてガーディアンの隊長でもある男だ。
その横で、副指令が腕を組みながら彼を見つめている。
「……地上へ?」
「そうだ」
総監は資料から顔を上げる。
「EAAの各部署との会議がある。今日は地上に降りる」
「……そうですか」
副指令の声は明らかに不機嫌だった。
総監は少しだけ苦笑する。
「そんな顔をするな。今日中には戻る」
「別に……」
副指令は顔を背ける。
「総監が地上へ行くことが気に入らないわけではありません」
「そうか」
「……ただ」
副指令は一瞬だけ言葉を止める。
「最近、地上では異常事態が続いていますから」
「分かっている」
総監は立ち上がる。
「だからこそ、直接会議に出る必要がある」
そう言って総監は司令室を出ていった。
その背中を副指令は黙って見送る。
そして――。
「……本当に、無茶ばかりして」
小さく呟いた。
少し離れた場所で、その様子を見ていた護と未来。
護が未来に小声で話しかける。
「……今日の副指令、いつもより怖くないか?」
「うん……」
未来も苦笑する。
「でも、なんとなく分かる気がする」
「何が?」
「……さあ」
未来は意味ありげに笑った。
〇地上・EAA中央施設
総監を乗せた車が施設へ向かっていた。
その時だった。
道路脇の建物の屋上。
一人の男が総監の乗る車を見下ろしていた。
黒いコート。
無表情な顔。
男の目が、赤く光る。
「……EAA総監」
次の瞬間。
道路が大きく爆発した。
「何だ!?」
車が横転する。
護衛の隊員たちが飛び出す。
そして――。
黒い霧の中から、一体の異形が姿を現した。
「何者だ!」
隊員が銃を構える。
男はゆっくりと歩いてくる。
「お前たちは、この星を守っているつもりなのか?」
男の身体が一瞬だけ歪む。
人間ではない。
宇宙人だった。
「ならば……その中心にいる者から壊してやろう」
総監が車から出る。
「私を狙っているのか」
宇宙人が笑う。
「そうだ」
総監は隊員たちを見る。
「私のことはいい。周囲の市民を避難させろ!」
「総監!」
宇宙人が攻撃する。
総監は隊員を庇う。
激しい爆発。
総監の身体が吹き飛ばされる。
「総監!」
〇EAAメディカルセンター
治療室。
ベッドに横たわる総監。
その傍らに、医療主任の女性がいる。
彼女は総監の義理の妹でもあった。
「……本当に」
医療主任は呆れたように兄を見る。
「また無茶したんですね」
「いや……」
「言い訳は聞きません」
総監は苦笑する。
「厳しいな」
「当たり前です」
そこへ扉が開く。
副指令が飛び込んできた。
「総監!」
総監が目を開ける。
「副指令……」
副指令はベッドへ駆け寄る。
包帯を巻かれた総監を見た瞬間、
目に涙が浮かんだ。
「……何を考えているんですか!」
総監が驚く。
「え?」
「どうして自分から前に出たんです!」
「隊員が危険だったから――」
「だからって!」
副指令の声が震える。
「あなたはEAAの総監なんですよ!」
「……」
「あなたに何かあったら……」
副指令は言葉を詰まらせる。
涙が一滴、頬を伝った。
「……どうするんですか」
医療主任は黙って二人を見る。
そして、少しだけ微笑む。
「……兄さん」
「何だ?」
「あなた、本当に幸せですね」
「?」
副指令が顔を赤くする。
「そ、そういう意味ではありません!」
医療主任は笑う。
「はいはい」
その時。
突然、施設全体に警報が鳴り響いた。
『緊急事態!』
『市街地に巨大生命体が出現!』
モニターに巨大な怪獣の姿が映る。
総監を襲った宇宙人も、その怪獣の肩に立っていた。
『宇宙人が怪獣を操っています!』
副指令がモニターを見る。
「……あいつ」
総監が身体を起こそうとする。
「私も行く」
「駄目です!」
副指令と医療主任の声が重なった。
総監が二人を見る。
「……」
医療主任が腕を組む。
「兄さんは患者です」
副指令も涙を拭う。
「……ここは私たちに任せてください」
総監は副指令を見る。
「君が?」
「はい」
副指令は立ち上がる。
「あなたに代わって、私がガーディアンを指揮します」
〇EAAメディカルセンター・廊下
副指令が歩いている。
目元にはまだ涙が残っている。
しかし、
もう迷ってはいなかった。
医療主任が後ろから声を掛ける。
「副指令」
副指令が振り返る。
「兄のことは私に任せてください」
「……」
「だからあなたは、あなたの守るべき人たちを守って」
副指令は静かに頷く。
そして、
涙を手で拭った。
「……行ってきます」
〇アーク・司令室
副指令が戻ってくる。
隊員たちが一斉に振り向く。
「総監は?」
「負傷して、現在メディカルセンターで治療中です」
隊員たちがざわめく。
副指令は司令席へ向かう。
そして、
総監の席に座った。
「本作戦の指揮は私が執ります」
マリアが副指令を見る。
「了解しました」
モニターに怪獣の映像が映し出される。
副指令は冷静に分析する。
「シーカーは怪獣のエネルギー源を解析」
「Gウイングは市街地から怪獣を誘導」
「地上部隊は避難経路を確保」
「総監が戻るまで――」
副指令は前を見据える。
「この街を守ります」
隊員たちが敬礼する。
「了解!」
〇地上
怪獣が暴れている。
護と未来も避難誘導にあたっていた。
「こちらへ!」
「慌てないでください!」
人々を安全な場所へ誘導する。
その時、
護が空を見上げる。
ガーディアンの戦闘機が怪獣へ攻撃を仕掛けている。
「……副指令、すごいな」
未来が頷く。
「うん」
「総監のこと、あんなに心配していたのに」
未来は少しだけ笑う。
「だからこそ、今はみんなを守ろうとしてるんじゃないかな」
怪獣が咆哮する。
戦闘機が次々と撃墜される。
『こちらファルコン! 攻撃が効きません!』
副指令の表情が険しくなる。
「……全機、無理な攻撃はしないでください」
『しかし!』
「市街地を優先してください!」
その瞬間、
怪獣が街へ向かって突進する。
護と未来の前に巨大な影が落ちる。
「……来る!」
未来が叫ぶ。
護と未来は顔を見合わせる。
そして、
人目のない場所へ走っていく。
「未来!」
「うん!」
二人の手が重なる。
光が溢れる。
一つの巨大な光となり、
スピアが姿を現す。
怪獣が襲いかかる。
スピアが受け止める。
激しい衝撃。
護の意識が強くなる。
『押し返す!』
未来が答える。
『うん!』
スピアの身体を赤い光が包み込む。
ブレイブフォーム。
力強い赤を基調とした身体へ変化する。
スピアが怪獣を押し返す。
しかし怪獣は倒れない。
背後から宇宙人が笑う。
「光の戦士……」
「お前も、いつまで人間を守れるかな?」
スピアが宇宙人を見る。
だが、
宇宙人は煙のように姿を消した。
怪獣が再び襲いかかる。
スピアは真正面から受け止める。
そして、
両手に光の粒子を集める。
光が一本の槍へ変わる。
スピアはそれを握る。
しかし、
すぐには投げなかった。
怪獣の胸に、
宇宙人によって埋め込まれた黒いエネルギーが見える。
護の意識が響く。
『あれだ!』
未来が答える。
『あそこを壊せば……!』
二人の意思が一つになる。
スピアが光の槍を投げる。
槍は怪獣の胸を貫く。
黒いエネルギーだけを破壊する。
怪獣が咆哮する。
そして、
ゆっくりと倒れた。
〇EAAメディカルセンター
総監がベッドの上でモニターを見ている。
怪獣が倒されたことを確認する。
医療主任が微笑む。
「……副指令、やりましたね」
総監は静かに頷く。
「……ああ」
「嬉しそうですね」
「そうか?」
「ええ」
総監は少しだけ笑った。
〇アーク・司令室
副指令が戻ってくる。
隊員たちが敬礼する。
副指令も敬礼を返す。
その表情には、
もう涙はなかった。
〇EAAメディカルセンター
夜。
副指令が病室へ戻ってくる。
「総監」
「お疲れ様」
「……ただいま戻りました」
「ご苦労だった」
副指令は少し笑う。
「次から地上へ行く時は、必ず護衛をつけてください」
「分かった」
「絶対ですよ」
「ああ」
二人はしばらく見つめ合う。
その様子を、
病室の入口から医療主任が見ていた。
「……私、邪魔ですか?」
「「いや!」」
二人の声が重なる。
医療主任は吹き出す。
「ふふっ……」
総監と副指令は互いに顔を見合わせる。
そして、
ほんの少しだけ笑った。
その頃。
地上のビルの屋上。
総監を襲った宇宙人が、
夜空を見上げていた。
その背後に、
一瞬だけゾルガの人間体が現れる。
「……失敗したな」
宇宙人が振り返る。
「ゾルガ……」
ゾルガは静かに笑う。
「だが、問題はない」
そして、
遠くに浮かぶ巨大空中基地アークを見る。
「この星には……まだ知られていない光がある」
その目が赤く輝く。
「……そして、それを守る者たちも」
ゾルガは闇の中へ消えていった。




