第11話 嵐の中の光
朝。
窓を叩く雨の音で、護は目を覚ました。
まだ薄暗い部屋。
ベッドから身体を起こし、窓の外を見る。
雨は激しく降っていた。
テレビから、気象予報士の声が聞こえてくる。
『現在、日本列島の南海上で発生した台風は、急速に勢力を強めています』
『気象庁は、今後さらに発達する可能性があるとして――』
護は眠そうにテレビを見る。
「……また雨か」
スマートフォンを確認する。
ガーディアンからの緊急連絡はない。
護は再びベッドに倒れ込もうとした。
その時。
スマートフォンが鳴った。
『ガーディアン隊員・護』
マリアからだった。
「……はいはい」
護は起き上がる。
『現在、九州南部から四国にかけて異常気象が発生しています』
「異常気象?」
『台風の勢力が、通常では考えられない速度で発達しています』
護の表情が変わった。
「……分かった」
ベッドから立ち上がる。
「すぐ向かう」
ガーディアン・アーク。
管制室には、すでに未来も来ていた。
未来はモニターを見つめている。
「この雨……普通じゃありません」
護が隣に立つ。
「どういう意味?」
「雨雲が、移動していないんです」
「え?」
マリアが説明する。
「巨大な積乱雲が、同一地点に長時間停滞しています」
博士がモニターを見る。
「線状降水帯か?」
「それだけやない」
博士が気象データを拡大する。
「この風の動き……」
「まるで、何かが意図的に動かしとるみたいや」
その瞬間。
アークが大きく揺れた。
「何だ!」
「落雷です!」
管制室の照明が点滅する。
マリアが叫ぶ。
「未知のエネルギー反応を確認!」
モニターに巨大な渦が映し出された。
その中心に、
赤い光が一瞬だけ輝く。
地上。
猛烈な雨が降り続いていた。
道路はすでに冠水している。
車が立ち往生し、
人々が避難を始めている。
護と未来はガーディアンの隊員たちとともに、避難誘導を行っていた。
「こちらへ!」
未来が子供を抱き上げる。
「大丈夫だからね!」
泣いている子供に笑いかける。
護は道路に立ち、
「こっちは危険だ!」
「別の避難ルートを使ってください!」
隊員たちと協力して、人々を安全な場所へ誘導していく。
その時。
遠くから、
ゴオオオオオ……。
という音が聞こえてきた。
護が空を見上げる。
巨大な黒い雲。
その中で、
何かが動いている。
「……何だ?」
突然、
竜巻が発生した。
「危ない!」
護が叫ぶ。
建物の看板が吹き飛ばされる。
未来が子供を抱えたまま走る。
護も人々を建物の中へ誘導する。
そして――。
雲の中から、
巨大な腕のようなものが現れた。
「怪獣……?」
ガーディアンの戦闘機が飛び立つ。
「目標を確認!」
しかし、
レーダーには何も映らない。
「どこだ!」
その瞬間。
巨大な雷が空から落ちた。
戦闘機が回避する。
「くそっ!」
さらに暴風が襲いかかる。
戦闘機が大きく揺れる。
「攻撃します!」
ミサイルが発射される。
爆発。
しかし――。
何もない。
「命中していません!」
博士が通信に入る。
「当然や!」
「そいつには、まだ身体がない!」
「身体がない?」
護が驚く。
博士はモニターを見つめる。
「奴は今、雲そのものや」
「暴風、雷、雨……」
「全部が奴の身体なんや!」
怪獣の咆哮が、
雷鳴とともに響き渡る。
「グオオオオオオオオッ!」
博士が呟く。
「……テンペストラ」
「暴風怪獣……テンペストラや」
被害はさらに拡大していった。
川が氾濫する。
道路が崩れる。
停電が発生する。
護と未来は避難所へ向かう。
未来は泣いている子供たちを安心させる。
「大丈夫」
「ガーディアンが助けてくれるから」
護は窓の外を見る。
「……本当に倒せるのか?」
未来が護を見る。
「どうしたの?」
「相手は怪獣なのに、身体がない」
「俺たちは、何と戦えばいいんだ?」
未来は少し考える。
「……だったら」
「身体を作らせればいいんじゃない?」
「え?」
未来は外を見る。
「私たちが見つけられないなら……」
「見つけられるようにすればいい」
アーク。
博士は格納庫の奥にある、
一台の巨大な装置を見つめていた。
古びている。
埃をかぶっている。
「……これを使うしかないか」
護が尋ねる。
「何です? それ」
博士は苦笑する。
「俺の失敗作や」
「失敗作?」
「異次元に存在する物質を、こっちの世界に固定する装置」
「昔、作ったんや」
「でも、何をやっても成功せんかった」
未来が装置を見る。
「それを使って……」
博士が頷く。
「テンペストラを実体化させる」
護が驚く。
「でも、失敗作なんでしょう?」
博士は笑う。
「だから面白いんや」
装置が起動する。
巨大なエネルギーが空へ向かって放たれる。
テンペストラの雲が激しく渦を巻く。
「何だ!」
護が空を見上げる。
雲が一か所に集まり始める。
雷。
暴風。
雨。
全てが一点に集約されていく。
そして――。
巨大な怪獣の姿が浮かび上がった。
全身を雲と岩のような物質で覆った異形。
背中には巨大な翼。
両腕から雷が走る。
「グオオオオオオッ!」
テンペストラが完全に実体化した。
スピアが飛び出す。
巨大な怪獣と激突する。
拳と拳がぶつかる。
轟音。
テンペストラの身体から雷が放たれる。
スピアが吹き飛ばされる。
「くっ!」
未来の光の戦士も攻撃する。
しかしテンペストラの暴風に阻まれる。
「強い……!」
護が立ち上がる。
「だったら……!」
スピアの身体が変化する。
力強い赤い光。
ブレイブフォーム。
スピアがテンペストラへ突進する。
拳が怪獣の胸へ叩き込まれる。
「うおおおおおっ!」
テンペストラが後退する。
しかし、
「グオオオオオッ!」
雷がスピアを直撃する。
スピアが膝をつく。
スピアが槍状の光を作り出す。
だが今回は、
いつものように投げない。
光の槍を両手で握る。
ブレイブフォームの力が槍に集中する。
そして――。
テンペストラの胸部へ突き刺す。
巨大な雷が爆発する。
テンペストラが苦しむ。
「グオオオオオッ!」
そして、
その身体が崩れ始める。
雲へ。
雨へ。
風へ。
そして最後に、
一筋の光となって消えていった。
数時間後。
雨は止んでいた。
雲の切れ間から、
青空が見える。
避難所では、人々が少しずつ日常を取り戻していた。
未来は子供たちに笑顔を向ける。
「もう大丈夫だよ」
護は少し離れたところから、その光景を見ていた。
博士が隣に立つ。
「どうや?」
「何がです?」
「ガーディアンになって」
護は少し考える。
「……まだ慣れません」
「でも」
護は避難所を見る。
「こういう人たちを守れるなら……」
「悪くない仕事かもしれません」
博士は笑う。
「そうか」
その時。
未来が護を呼ぶ。
「護さん!」
「今行く!」
護が走っていく。
博士はその背中を見つめる。
そして、小さく呟いた。
「……少しずつ、変わってきたな」
その夜。
宇宙。
誰も知らない場所。
ゾルガが地球を見下ろしていた。
「……面白い」
手元に浮かぶ映像。
そこには、
スピア。
護。
未来。
そしてガーディアンの姿が映っている。
「まだ、自分たちが何者なのかすら分かっていない」
ゾルガは笑う。
「それでいい」
「その方が……面白い」
暗闇の中で、
赤い目が輝いた。




