第10話 見えない侵略
朝。
いつもと変わらない街の風景。
駅へ向かう人々。
学校へ向かう学生。
コンビニの前でスマートフォンを見ながら歩く若者。
交差点では信号が変わり、車が走り出す。
何も変わらない。
――そう思われていた。
しかし。
一人の男性がスマートフォンを見て、眉をひそめた。
「……何だ、これ?」
そこには、自分が投稿した覚えのないメッセージが表示されていた。
――あの店は危険だ。
――あいつは嘘をついている。
――騙されるな。
男性は慌てて画面を閉じる。
「俺、こんなの投稿してないぞ……」
その直後。
街のあちこちで、同じような現象が起こり始めていた。
ガーディアン・アーク。
管制室。
マリアの声が響く。
「通信網に異常が発生しています」
隊員たちが一斉にモニターを見る。
「通信障害か?」
「いいえ」
マリアは淡々と答える。
「通信そのものは正常です」
「ただし……」
一つの画面に、大量のデータが流れ始めた。
「情報が改ざんされています」
護が驚く。
「改ざん?」
「はい」
未来もモニターを見る。
「でも、誰がそんなことを……?」
マリアは答えなかった。
その時だった。
アーク全体の照明が一瞬だけ消えた。
――そして戻る。
「……?」
護が周囲を見回す。
マリアが画面を確認する。
「今の停電ではありません」
「外部から何かが侵入しました」
博士が眉をひそめる。
「何か……やて?」
その瞬間。
マリアの画面に、一つの文字が浮かび上がった。
――DEGIROS。
博士が画面を見つめる。
「……デジロス?」
その頃。
街では混乱が広がっていた。
SNSに流れる偽情報。
互いを罵り合う人々。
店では客同士の喧嘩まで始まっている。
未来はモニターを見ながら呟いた。
「……どうして、こんなことに」
護も拳を握る。
「たった一つの情報で、人がこんなに変わるのかよ……」
博士が答える。
「情報が怖いんやない」
「人間が、自分で信じたいものだけを信じてしまうことが怖いんや」
その時。
マリアが声を上げた。
「未知の電波を確認!」
モニターに巨大な影が映し出される。
街の上空。
無数の電波が渦を巻いている。
その中心に、
人間とは明らかに違う姿をした存在が浮かんでいた。
細身の身体。
異様に長い腕。
顔には、人間の感情を読み取ることのできない目。
その宇宙人は、
静かに街を見下ろしていた。
「……デジロス」
博士が呟く。
護と未来が現場へ向かう。
人々は逃げ惑っていた。
しかし、デジロスは攻撃していない。
ただ、街を見つめている。
護が叫ぶ。
「お前が、この騒ぎを起こしたのか!」
デジロスはゆっくりと護を見る。
「私は、何もしていない」
「嘘だ!」
「ならば聞こう」
デジロスは街を指差す。
「私は彼らに、何をした?」
護は言葉を失う。
人々は互いに疑い、争っている。
誰かに命令されたわけでもない。
誰かに操られているわけでもない。
ただ、情報を信じ、
自分の感情のままに動いている。
デジロスが静かに言う。
「私は、ただ……」
「人間を見ているだけだ」
未来が前に出る。
「そんなことをして、何になるの?」
デジロスが未来を見る。
「君は面白い」
「なぜ?」
「この状況でも、他人を心配している」
未来は答えた。
「当たり前でしょう」
「誰かが困っているなら、助ける」
デジロスは少しだけ首を傾ける。
「……理解できない」
「だから、人間は興味深い」
その瞬間。
空から巨大な電撃が落ちる。
護と未来が吹き飛ばされる。
「うわっ!」
「きゃっ!」
デジロスの身体から、黒い電波のようなエネルギーが放たれる。
護が立ち上がる。
「やっぱり、お前がやってるんじゃないか!」
デジロスは答えない。
ただ、空を見上げた。
「……違う」
「何?」
デジロスの表情が初めて変わった。
「この信号は……私のものではない」
空が暗くなる。
異様な雲が広がっていく。
その中心に、黒い亀裂が生まれた。
デジロスが後退する。
「……ゾルガ」
護が聞き返す。
「ゾルガ?」
しかしデジロスは答えない。
亀裂の向こうから、
巨大な影が現れた。
その姿は、これまでの怪獣とは明らかに違う。
圧倒的な存在感。
ただそこにいるだけで、空気そのものが重くなる。
ゾルガ。
異界星人。
初めて、その姿を地球の空に現した。
「デジロス」
低い声が響く。
「随分と楽しんでいるようだな」
デジロスが睨み返す。
「……お前が、私の電波を利用したのか」
「利用した?」
ゾルガが笑う。
「お前が勝手に地球へ入り込んだだけだ」
「私は、お前の道具ではない」
「そう思っているのか?」
ゾルガの目が赤く輝く。
デジロスの身体から黒い電流が噴き出す。
「……何だ、これは!」
デジロスが苦しみ始める。
護が叫ぶ。
「デジロス!」
ゾルガが静かに言う。
「人間を理解したいのだろう?」
「ならば、もっと見せてやろう」
「人間の醜さを」
護は拳を握る。
「未来!」
「うん!」
二人は互いに頷く。
そして――。
光が二人を包み込む。
巨大な光の戦士。
スピア。
そしてもう一人の光の戦士が現れる。
ゾルガが二人を見る。
「……光か」
スピアがゾルガへ向かって走る。
しかし、ゾルガは異界の壁を作り出す。
スピアの拳が弾かれる。
「くっ!」
さらにスピアが攻撃するがやはり、同じように弾き飛ばされる。
ゾルガはスピアを見下ろす。
「まだ、その力を理解していないようだな」
そして異界の裂け目を開く。
「今日はここまでだ」
ゾルガは消えていく。
その直前。
デジロスを一瞥する。
「お前もいずれ、私の前に戻ってくる」
「断る!」
デジロスが叫ぶ。
しかしゾルガは姿を消した。
デジロスは、その場に残された。
スピアが構える。
デジロスも電波を放つ。
激しい戦いが始まる。
しかし、
デジロスの攻撃は次第に弱くなっていく。
ゾルガによって利用されたことで、エネルギーを消耗していた。
スピアが最後の攻撃を放とうとする。
だがその攻撃を止める。
デジロスは苦しそうに顔を上げる。
「……なぜ、助ける?」
スピアの中の未来は答える。
「あなたが悪い人だからって、苦しんでいる人を放っておけないから」
デジロスは黙る。
そして、
「……理解できない」
そう呟いた。
身体が光の粒子へ変わっていく。
「だが……」
「覚えておこう」
デジロスは宇宙の彼方へ消えていった。
その夜。
アーク。
護と未来はモニターを見つめていた。
「ゾルガ……」
護が呟く。
「一体、何者なんだ?」
未来も答えられない。
博士が腕を組む。
「分からん」
「ただ一つだけ言える」
「今日から、俺たちが戦う相手は怪獣だけやない」
その言葉に、
護と未来は黙り込む。
その頃。
誰もいない宇宙空間。
一筋の光が飛んでくる。
光は静かに止まる。
その先には、地球。
青く美しい星。
光の中から、一人の戦士が姿を現す。
地球を見つめる。
そして――。
遠くに残るゾルガの異界反応を確認する。
しばらく地球を見つめた後、
その戦士は何も語らず、
宇宙の彼方へ飛び去っていった。
翌朝。
街は、何事もなかったかのように動き始めていた。
駅。
学校。
コンビニ。
人々のいつもの生活。
護も未来も知らない。
ガーディアンも知らない。
この地球を巡って、
今、
光と異界の戦いが始まったことを。
そして――。
それがやがて、
超古代文明の秘密へと繋がっていくことを。




