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第二章 癒しの花の冒険 前編 その2 ザガルとの生活

今話からしばらく料理のレシピがあります。読むのがめんどくさいと思うので、読み飛ばしてもOKです。

 昼


「仲良くなるにはまずご飯です!」


 私は能天気な性格でした。


「………いらん」


 しかしザガルは淡白でした。


「………ちゃんと食べないとだめだよ!」


 そして、はい! とザガルの黒焔で焼いた魚を差し出しました。

 ぐぅうぅううぅうう~~~~~~

 長~い腹の虫が洞窟内に響きました。

 ザガルは照れて赤くなった顔を隠すようにそっぽを向きます。


「腹減ってない!」

「美味しいのに~」


 ザガルは頑固で負けず嫌いでした。厄介な性格でした。


「じゃあ置いとくわね」


 コトンと木のお皿に乗せた焼き魚をザガルの隣に置きました。

 こんがりと黄金色に染まった美しい焼き目、キラキラと輝く透明な脂、そして身の厚みと溢れんばかりのジューシーさが見るだけで伝わりました。

 ぐぅううぅぅううぅうぅうぅぅうううぅぅぅ~

 再度、先ほどよりも長くザガルの腹の虫が洞窟内に響き渡りました。


「——食べていい?」


 食欲に負けたザガルは私に自分の手元を凝視したまま短く尋ねました。


「いいよ」


 私がザガルと同じように短く答えると、ザガルは豪快にかじりついた。


「……………」


 ザガルは黙りました。


「……………まずかった?」


 私は恐る恐る尋ねます。


「う、う、ぅ、う、う………」

「う?」

「うんめぇ~! えっ? 何これ⁉ 焼いただけなのになんでこんなにうめぇの⁉」

「むふぅ~」私は得意気に笑いました。


 その時ザガルはピーンときました。


「わかった。お前何かやったろ?」

「ふふ~。一体何をしたでしょうか?」

「魔法」「残念!」「呪い」「残念!」「俺の感覚をいじってる」「…残念!」「やっぱり魔法?」「残念!」「う~ん」以下略。


 全然答えが出ませんでした。


「やっぱ分かんねぇー」ザガルはニパっと笑いました。

「正解は…………」


 ザガルはごくりと唾を飲み込みました。


「香草で香りをつけてから、臭み抜きをして、塩で漬けて、乾かして、藁に包んで焼いた。でした! 分かった?」

「分かるか! それによぉ~、何でそんな面倒臭ぇことをすんだよ。パパッと焼いちまえがいいじゃねぇか」

「…………………」


 私は驚愕しました。

 ザガルは料理するとか言った面倒くさいことが嫌いなようでした。

 それが私には天がひっくりかえるほど驚きでした。


「……うそ。あなた料理とかしないの?」

「……? そうだろ普通」

「…………」


 私の身体は私の意志とは関係なくわなわなと震え出しました。


「料理は大事よ‼」


 私は怒りました。私は料理がとても好きでした。虐待を受けていても料理をすればたちまち辛い気持ちも吹き飛んでしまうほどです。


「料理はね、食材そのものの味を引き立たせることだけでなく、食の無限の可能性を生み出すことにも繋がるの。それに料理する人の楽しみ、人と人との繋がりのきっかけ、マインドフルネス効果も期待できるの。料理こそ最高なの! それをあなたって人は……」


 私はとうとう泣き出してしまいました。


「あっ……ごめん……泣き止んでくれよ……悪気はなかったんだ。これからは料理するから。な?」

「……ひぐっ。……本当?」

「あぁ本当だ。これからは毎日一緒に料理しような?」

「うん!」


 私は泣き止みました。


「それじゃ。あなたに料理の基本を教えないとね」

「えっ? 今から?」

「そりゃそうよ。毎日一緒に料理するんでしょ」


 この日は、日が暮れるまで料理の特訓をしました。

 私にとってはとても幸せな時間でした。

 ザガルにとってはとても辛い時間でした。


「おやすみ」

「うん。おやすみ」


 そして、特訓でつくった料理を食べて、洞窟の中で一緒に寝ました。

 私は寝る前に今日も生きられたことへの感謝と今日の反省をするのでした。


(今日はザガルと一緒に料理の特訓をしました。ザガルは嫌そうな顔していたけどとても呑み込みが早くて、びっくりしました。あの魔神さんと過ごした日々も楽しかったけど、これからはもっと楽しい日々をザガルと過ごすことができると思います。おやすみなさい)


       ○


 次の日。

「ん~。おはよう。ザガル」

「あぁ。おはよう。久しぶりによく寝たなぁ~」

 ふわぁ~と豪快に欠伸をするザガルでした。

 二人の朝のルーティーン(昨日決めました)は一緒に料理をすることです。

 今日の朝ご飯は余ってた川魚と山菜、きのこ、胡椒、塩、山椒で作ります。

 料理名は〝素材の塩山椒蒸し〟です。

 作り方は簡単。

 まず、半球状の鉄鍋に水を注ぎ加熱します。

次に、川魚にしっかりと塩を振り、山菜・きのこと一緒に鉄鍋に並べます。

そして、胡椒を強めに不利そのまま一〇分ほど蓋をして蒸します。

仕上げに蒸し上がった熱いうちに山椒を添えます。山椒の痺れが川魚の淡白な味を引き締めてくれます。

「「ごちそうさまでした」」

 美味しく食べさせていただきました。美味しかったです。

「さて、今日はどうすっかな。いつもはどうしてたんだ?」

「食後の運動で、魔神さんと戦ってたよ」

「……………」

 あんぐりと口を開けるザガル。

 この時私はなんでそんなに驚くの? と思っていました。

「そっ……そうか、それなら俺もそう……いう風に……しようかな」

 ザガルはひどく動揺していました。

「? うん!」

 私とザガルは握手を交わしました。

「二人が洞窟から出た瞬間からスタートな」

 歩きながらザガルが言ってきました。

「えっ」タスッ! 両足が洞窟から出ました。

そしてバトル開始。

 ヒュッン!

 開始早々、ザガルは高速でどこかに行ってしまいました。

「どこに行ったの?」

 キョロキョロと周りを見渡した瞬間、背中に重い衝撃を感じました。

 すぐに私は振り返りましたが、そこには何もいませんでした。

 代わりに背後から声が聞こえました。

「戦闘中に気を抜くとは、まだまだだな」

 すぐに振り返りましたが、やはりそこには何もいませんでした。

 そしてどこからともなく声が聞こえるのでした。

「森林戦や市街戦など、障害物が多くある環境での戦闘はいかにその環境を利用するかで勝敗が決まる。今俺がやっているように動き回って相手を攪乱し、隙が出来たら相手に叩き込む。近接戦闘が苦手なら、動き回っているときに魔力を溜め、隙が出来たらそれを打ち込めばいい」

 ザガルは戦闘についてアドバイスをしてくれているようです。

 私は強くてもザガルからすればまだまだひよっこ。それなら自分が育ててやると思ったのでしょう。彼は責任感の強い人でした。

「——環境を利用する。なら! 環境を壊す! 虚無の衝撃(ヴォイドライブ)‼」

 ドゴォォオォォォ!

 私を中心に森の木々が吹き飛んでいきました。

虚無の衝撃(ヴォイドライブ)——術者を中心にすべてを消し飛ばす衝撃を発生させる魔術。ただし魔界や天界、精霊界に由来する物質には壊せないものも存在する。

「今のは……虚無の衝撃(ヴォイドライブ)……破壊系統の魔術にも精通しているのか」

 私の背後にザガルが立っていました。

「ふふ~すごいで——」

 振り返りザガルの姿を視認した瞬間、私は心の中で絶叫していました。

(何で傷一つ、ついてないのよ~~~!)

 虚無の衝撃は零の外套や変若蛇脱よりも上位の魔法で術者によって威力が変わりますが、最低でも伝説の鉱物と言われるオリハルコンも粉々に粉砕してしまうほどの威力なのです。

 それほどの威力を以ってしてもザガルの身体には傷一つもつけることができなかったからです。

「………………」

 両者に長い沈黙が流れた後、ザガルが口を開きました。

「利用する環境を消し飛ばしちまうのは良い案だと思うが、周りを見てみろ」

 木一つないまっさらな更地でした。

「被害がでかすぎる。この場合は、相手を補足して追跡する魔法を使うべきだったな」。

「生命の蘇活(バイタリザレクション)

「えっ!」

 私が魔法を発動させました。

 生命の蘇活(バイタリザレクション)——消え失せた生命もその場に残る魂の残滓または情報子を読み取り、楽園(エデン)から呼び寄せ、強引に蘇活させる天使由来の聖術。術式の展開には上位天使でさえも数か月を有する超難度の聖術。

「こうすれば問題ないでしょ」

 私は笑って見せました。

「……………………うそ」

 対するザガルは絶望の表情をしていました。なぜでしょう?

「なんで天使の技を?」

 そう。天使族の技を使っていたからです。普通魔族の技(魔術)を覚えたら、相反する力の天使族の技(聖術)は使えないはずです。

 しかし、魔族とも天使族とも違う魔力を持つ人間族ならばどうでしょう。

 結果は御覧の通り。

 そう。魔術も聖術もどちらも使うことができます。

 魔と聖のどちらの術も使う人類最強の魔術師が生まれた瞬間でした。

 魔の力を覚えたら、聖の力を使うことができないという固定概念が崩れ去った瞬間でもありました。

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