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第二章 癒しの花の冒険 前編 その1 運命の出会い

 今からおよそ四五〇年前、魔王軍の幹部に美しい瑠璃色の髪と深みのある紫色の瞳を持った美しい人間の女魔法使いがいました。

 そう私。キュアフローラです。

 私は野心的な欲望を持たず、ただ単に人間が嫌いなだけでした。

 私は幼い頃、両親から虐待を受けていました。父親からは性暴力を受け、母親からは罵詈雑言を浴びせられ心理的に追い詰められました。

 私は頭がとても良く、それゆえ二人を嵌めて裁判に持ち込むことに成功しました。

 しかし、子供の証言はあてにならないと否定され、結局は両親の勝訴で終わりました。

 私はさらなる虐待を受け、


「あんたなんか産まなきゃ良かった」


 と路上に捨てられました。

 それでも私は懸命に生きようとしました。

 しかし、懸命に生きようとする私を国の人々は笑い者にしました。


「死んじまえ化け物!」体中から血が出て声が出なくなるまで殴られました。

「汚ぇ血を撒き散らすな!」まるでごみを扱うように蹴られました。

(なぜでしょう? 私が何をしたというのです?)


 耐えられなくなった私はついに国を抜け出してしまいました。

 国を朝に出て夕方まで私は走り続けました。

 振り返ると、国はもう豆粒のように小さくなっていました。

 東の空から星々が登る中、子供である私の体力は限界を迎え、ぐったりと木に横たわり、眠り込んでしまったのです。

 翌朝、目が覚めるとそこは怪鳥の巣の上でした。

 目の前では怪鳥が大きな口を開け、私をひと飲みにしようとしている、まさにその瞬間でした。

 私は死を決意しました。その時咄嗟に助けを求めました。


「お母さん、お父さん!」


 私自身も驚きでした。

 その時、私は気づきました。あんなにも辛い虐待を受けたのにも関わらず両親のことを大切に思っていることに。不思議と涙が出ました。


「もう一度チャンスをやろう」


 そんな声が聞こえたと思うと、目の前の怪鳥は一瞬で灰燼と化しました。

 上空に目を向けると、そこには背中に龍の羽を生やし、黒のような紫のような禍々しい色をした筋骨隆々の魔神がいました。


「チャンスって?」


 私はその魔神に怖がるどころか、


(この人なら私を助けてくれるかも)


 と、その恐ろしいはずの手に向かって必死に手を伸ばしていました。


「お前にもう一度生きるチャンスをやろうと言っている。だが、その対価として我等が国の軍に協力してほしい」


 私は無意識のうちに返事をしていました。


「はい!」


 そして私は彼に魔術を学びました。これからもう一度新しい人生を歩む為です。

 私は元々異次元なくらい魔術量が多く才能があったみたいでした。

 私は魔術においてその才能を存分に開花させていきました。

 彼が見せる魔術を一度見ただけで理解し使いこなしていきました。

 それからというもの、彼が魔術を見せ、それを使って私が魔物を倒し、美味しいご飯を食べて寝る。

 そんな平穏な日々は突如として切り裂かれることとなりました。

 私が彼と出会い一年ほどたったある日、その日は豪雨でした。

 二人が洞窟で雨宿りしていると、


「飯取ってくる」


 と彼が言い、私を一人残して洞窟を出て行ってしまいました。

 私はこの時、何か嫌なものを感じ取っていました。

 彼が洞窟から出て行って一時間ほど経ったころ、


「お前が巷で騒がれている人間の小娘か?」


 洞窟の奥から声がしました。背筋がゾワッとしました。

 振り返ると、そこにはまるで闇をこの世に顕現したように思えるほど漆黒の角と翼、そして絶対に獲物を見逃さない龍の瞳。そしてその身から溢れ出る闇のオーラ。

 そこには一度彼から聞いたことのある、竜神族(ドラコニス)、〝黒焔(こくえん)〟のザガルがいました。


「見たところ、人間にしては魔術の素質があるようだな?」


 その瞬間、洞窟の内部は黒い炎に包まれました。

 これこそがザガルの得意とする尋問方法、〝黒焔の棺〟です。

 魂をも焼き尽くす黒焔で空間を支配し、絶対的な恐怖を相手に与え、誰も彼の命令に逆らうことができなくするようにする彼のオリジナル魔術です。


「零の外套(クライオ・コート)!」


 私は反射的に魔術を発動していました。

 零の外套(クライオ・コート)——絶対零度の外套を魔力で生成しその身に纏い、大抵の炎熱攻撃はこれでほぼ無効化できます。

 しかしザガルの黒焔は別格でした。

 零の外套(クライオ・コート)でも防ぎきることができず、両腕に火傷を負ってしまいました。


「ふぐッ……熱い……」


 私はすぐにでも死んでしまいたくなるような激しい痛みを感じていました。


「ぁっ! 助け……」知らず知らずのうちに私はザガルに救いを求めていました。


 しかし、ザガルの反応は淡白でした。


「雑魚が! 人間ごとき助けるに値しない!」


 ザガルは更に焔の出力を上げました。


「ぁあぁぁあぁぁああぁぁぁ!」


 私は断末魔の叫びのような声を残して燃え尽きました。


「ふん! 口ほどにもない!」


 ザガルは冷酷無比な魔神である。どんなものにも情けをかけず、気に入らなければ対象を抹殺する。だがそれは弱者に対しての話。

 ゴンッ!

 私が燃え尽きた燃えくずから、音が聞こえたかと思うと……

 ドガァァァァアァァン!

 爆音が洞窟内に轟きました。

 燃えくずから強大な魔力の塊が放出されたのです。


「何事だ!」


 ザガルの声が洞窟内で響き、燃えくずから魔力の放出が止まり、洞窟に反響していた音が無くなった後……

 ボゴッ!

 燃えくずの中から手が出てきたのだ。

 ボゴッ!

 次に足。

 ボゴッ!

 そして頭。


「ッ!」


 一瞬驚いたザガルだったが、すぐにその正体に気付いたようです。

 変若蛇脱(リスルーガ)——かつて魔界に存在していた蛇の魔神が開発した魔術である。体に結界を張り、死を伴う攻撃を受けた時、自分の過去を犠牲にしその身を護る魔術である。そのため少し幼くなってしまうという副作用がある少しクセのある魔術だ。


「死に……た……くな……い」

「……」


 私は自分が生き残っていることに気が付いていません。


「おい!」

「○▲#$○! 鬼さん! 命だけは!」


 ゴワァォ!


「貴様ぁ! 俺が鬼だとゴラァ‼」


 ザガルは黒焔を放出し、怒りを露わにしました。


「ヒィィィイィィイ! ごめんなさい!」


 私は全力で土下座。靴をなめるような勢いで土下座しました。


「………………⁉」


 ザガルは呆気にとられました。土下座されたからではありません。


「おい……お前……熱くねぇのか?」


 ザガルの黒焔が皮膚に触れても決して燃えることがなかったからです。

 流石のザガルも困惑を隠すことができなかったようです。


「んっ? 何が?」

「こいつ本当にバケモンじゃねぇか……」


 ザガルはこう考えました。


(こいつ、この状況で『魔術妨害』『魔術結界』の魔術を覚えたのか? いやあるいは、〝超能〟を発現させたのか?)


 超能——それは、魂に定着した世界に蓄積した世界情報の結晶『情報子』が稀に引き起こす魔術の枠組みを超越した得意能力のことを指す。


(一体何なんだ?)


 そしてザガルは自身の持つ超能を私に使いました。

 超能:『鑑定』——ザガルが持つ超能で、相手の一部を見るだけで存在値、魔力、体力、攻撃力、防御力、ありとあらゆる嘘偽りのないステータスなどの情報と使用中の魔術及び超能を見ることができる能力。

 結果はどうでしょう。ザガルにはこう見えました。


《魔術使用状況:???(効果:一つだけ登録した魔術や攻撃の影響を無効化する)》


 反則級の魔術でした。


(嘘だろぉ~! ???ということは、自分で魔術を開発しまだ名称を決めていない状況のこと。この状況で魔術を開発しただと⁉)


 この時私は化け物だということがザガルの中で認められたのです。


(「お前がその人間を認めた時だけ、その人間を引き取れ」あのお方はこうなることを考えたうえで私に命令したのか)


 洞窟の中を埋め尽くしていた。黒焔が消えました。


「よし! 今日からお前と一緒に暮らすことになった。〝黒焔〟のザガルだ。よろしくな!」


 彼は握手を求めました。


「……………?」


 私はさっきまで自分を殺そうとしていた人が何を言っているのだろうと戸惑いながらも、その手を握り返しました。

 人間には絶対に手を差し伸べたりしない、〝黒焔〟のザガルが初めて人間に心を開いた瞬間でした。


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