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第一章 魔術学校の塔の上で その4 キュアフローラ・ラティブルー


「……はい」


 僕が渋々校長先生に付いて行こうとすると、レイが魔力を開放して威嚇しながら叫んだ。


「おい、ババア! リオをどうする気だ。返答次第では、ぶっ殺すぞ」


 あ~あ。喧嘩売っちゃいけない人に喧嘩売っちゃったよ。ご臨終様。


「ババア~? おいこのマセガキ! 調子乗ってんじゃねーぞ!」

「あぁ~ん。何だとババア。おいらはお前より何倍も生きているはずだぞ」

「へっ。精霊の中だと生まれたばかりの木偶の坊が! 私に勝てると本気で思っているのかな? 鏡見たことあんのか⁉ あぁ~ん!」

「そっちこそ、腰が折れててそれはもうベッドで安静にしていないといけなさそうなクソババアが! 元気で自由奔放な子供に勝てると思ってんのか! ゴラァ~!」


 以下略。

 まさかこんなに校長先生がヤバい性格だったとは。今後とも怒らせないようにしよう。そう勝手に一人で心のメモ帳にメモしていたら、現実ではヤバい戦いが始まろうとしていた。


「こうなったら、実力で勝負じゃ! 覚悟はいいかババア?」

「望むところだよ。ガキ! ババアをなめとったら痛い目見るで!」

「ルールは簡単。魔法の打ち合いで力尽きてぶっ倒れた方が負けな。よーいスタート!」

「水龍演舞。性質付与。暴君竜巻。空間支配」


 校長先生は、水の龍を生み出してその水に電気を帯びさせて、竜巻を発生させその竜巻の中で空間にある空気を移動させ真空波を生み出し切り刻む作戦だ。対するレイは


聖なる光の祝福(ルミナス・アウグーリ)光の打撃(ルミナシュクラーク)太陽の(パッショネイト)情熱(ソレイユ)


 自分に光の加護を授けて、光の魔力を物質化させ校長先生を殴る、殴る、殴る。極めつけは、太陽と同じ性質を持つ熱源を発生させそれを投げるという、なんとも防ぎようがない無慈悲な攻撃だ。


「「「「校長先生!」」」」


 教師一同、校長先生が大事みたいだ。だけど学院最強な人がそう簡単にやられるとは思えない。だってほら、二人ともめちゃくちゃ笑ってるし。校長先生なんて、まるで無邪気な少女みたいな笑顔だよ。


「さすがは、大聖霊。スピリット・ポテンス様だ。私とやり合えるとはねぇ」


 校長先生は、迫りくる恐ろしいほど熱い光り輝く弾に手をかざした。

 そして、呪文を放った。


身勝手の独断(ゼウス・パニッシャー)


 消えた。

 校長先生に迫りくる光の玉は、音もなく忽然と姿を消した。

 全員が沈黙を決め込む中、二人の笑い声が響いた。


「はっはっはっは。やるなぁ。あの弾を消すとは。笑っちゃうぜ」

「こっちこそ。実力を開放したのは、何年振りかのぉ」


 はっはっはっは。まったくこの人たちは……。呆れる。

 完璧な学び舎を校訓とする蒼塔学院に少年少女のような笑い声が響いたのは、実に五十年ぶりの出来事だった。


      ○


 辺りは見渡す限り魔術道具が散乱している。どこぞの貴族が持っていそうな拷問器具だってある。(その中に、筆箱型のアイアン・メイデンがあったことは見なかったことにしよう。)そして壁一面には本がずら~っと並べられている。

 そう、ここは校長室。

 これらの品々はすべて校長先生の私物なのだ。


「それでリオ。ここにお前を連れてきた理由だが、そこのサキュバスに挨拶をしたい。よいかな?」

「大丈夫ですか? リリアさん」

「はい。大丈夫です」


 その声を聞いてさっきから無言でどこか暗いリリアさんが急に心配になった。なにより敬語ってことが何か怪しい。校長先生も同じ気持ちになったのか、心配するようなそぶりを見せている。


「そうか。辛かったら遠慮なく言ってくれよ。それじゃ自己紹介と行こうか。ワレの名前は、キュアフローラ・ラティブルー。そなたの名は?」

「やはり……! 私の名前は、リリアです」


 リリアさんはすごく驚いていた。名前に心当たりがあるのだろうか。


「そうか。リリアと申すのか。良い名前じゃのぉ」

「それはあなたもです。まさか学校で校長先生をやっておられるとは……。驚きでした」

「リリアさん。なんで校長先生のことを知っているんですか? まさか凄い人だったりするんです?」


 ここで僕はついにこらえきれなくなった疑問を口にした。すると驚きの言葉が返ってきた。


「彼女は五〇〇年ほど前にかつて魔王軍にいた人間の幹部だよ。魔王軍にいた人間の幹部は彼女が最初で最後だったかな。彼女の偉業と言ったらこれまた凄くて、魔王の居城に攻めてきた勇者パーティーを物の見事に蹂躙したんだよ。これがきっかけで魔王軍の幹部になったんだけどね」

「今となっては笑い話だけどねぇ」


 校長先生は恥ずかしそうに頬を赤く染め、杖を振り回している。危ない。物が壊れる。


「危ないですから杖は振り回さない方が……」


 注意したけど、聞く耳持たず依然として杖振り回している。マジヤメロ。


「ところでリリアさん。五〇〇年前の話をしてましたけど、今何歳なんですか?」


 杖を振り回して自分の世界に没頭しているご老人は放っておこう。


「人に年齢効くとかデリカシーないね……まだまだ、サキュバスとしては若いよ」


 デリカシーないとか嫌そうな顔していたけど、一応は質問に答えてくれた。魔族のサキュバスだけど、リリアさんは本当に優しい。


「サキュバスって平均どのくらい生きられるんですか?」


 いい機会だし、サキュバスについていろいろ知っておこうと思う。


「サキュバスはね。生気を吸う量にもよって寿命が変わるけど、平均だと二〇〇〇年ぐらいは普通に生きられるよ」

「…………」


 思いのほか魔族って寿命が長くてびっくりした。びっくりしすぎて声が出なかった。そのぐらいびっくりした。


「じゃあ、本当にリリアさんはまだまだ若いですね。五〇〇年前の話をしてたから、てっきり結構なお年なのかと」

「君って本当失礼だよね……」

「ごめんなさい。まだ礼儀作法とかが良く分かってなくて……」

「そういう問題かなぁ?」

 

 リリアさんの言う通り本当に失礼だと思ったのでしっかり謝った。謝ることは大事だからな。


(それ以前に何もしなければいい話なんだけどね)

 

 僕は当たり前の社会一般のことを早くできるようになりたいと思った。


「そうだ!」


 リリアさんが何かに気づいたのか壁一面の本たちに目を向けた。そして、一冊の本を取り出した。その本の題名は、


「え~っと、癒しの花:キュアフローラの冒険……?」

「さすが、キュアフローラ様の本棚だね。何でもある。うん」

「何ですか。この本? それにしてもピンクすぎやしませんか。派手過ぎません? 癒しの花って何ですか? ふざけてるんですか? 作者誰です?」


 一人で納得してるリリアさんに率直な疑問をいくつか投げかけた。


「相変わらずすごい罵倒の数々……この本はね~」


 リリアさん曰く、今から約四五〇年前に魔王軍幹部が発行した本で、当時のベストセラーにもなったんだそう。本の作者は、題名にもある通りキュアフローラ。人間であるにも関わらず、魔王軍に味方した異端者だ。

 本の内容は、人間を裏切ったことで王国や各地の小国から追われることになってしまい、各国の傭兵や冒険者たちを撃退しながら人類に抗い、やがては魔王軍幹部という地位に上り詰める、という内容だ。これが過激派の若い年齢層に大うけしたそうだ。実際読んでみたらハラハラドキドキでそこそこ面白かった。今の頬を赤く染めながら杖を振り回す醜態をさらす老人の姿からは想像もできない話だった。てか、いつまで杖振り回していんだよ。さすがに長すぎだろ。よく疲れないな。関心関心。じゃねぇよ。さっさと振り回すのやめろ。当たりそうで怖いんだよ。

 とまぁ一人でぶつぶつ言ってボケと突っ込みを一人二役でする自分をリリアさんが白い目で見ていたのだが。


「ところで、本読んで気になったんですけど、元魔王軍幹部がなんでこんな学校を作ったんでしょうか? 気になって仕方ありません。どう思いますか?」

 

 本を読んで思った率直な疑問をリリアさんに尋ねてみた。すると、


「それ私も気になってた。だから、さっきからずっと考えているけど全然答えが浮かばないんだよね。やっぱり本人に聞くしかないかなぁ」

 どうやらリリアさんも同じことを考えていたようだ。ずっと無口だったのはそのせいだったのか。なんか具合が悪いんじゃないかと思ってたからほっとした。


「校長先生に聞いてみます?」

「どうだか、彼女あんな調子だからねぇ。しばらく現実の世界に戻ってこないよ……」


 校長先生に答えを聞いてみたかったが、御存じの通りあんな調子だから、返事が返ってくるかどうか……。


「目覚めよ、闇に覆われし汝の意識よ」


 突然背後から呪文の詠唱が聞こえたと同時に強烈な光を感じた。振り返ってみると、レイが呪文を唱えていた。


「全意開放、目覚めの太陽(エピファニストサン)


 ほんの一瞬間をおいて魔力を開放し呪文を発動させた。

 神秘とも形容できるほど美しい魔力を輝きが部屋を覆い尽くしたとき、一人の女性の叫び声がかすか聞こえた。その声はリリアさんにも校長先生にも当てはまらない声だった。魔力の輝きが収束し、部屋から喧騒が消え、全員の視線が中央に集中するまで、その声は鳴り響いていた。


 レイの魔力の磁場が消失し部屋が静寂に包まれる中、その場にいた全員の視線は部屋の中央に立つ一人の女性へと注がれた。

 その女性は、艶のある瑠璃色の髪で、桔梗のように美しい紫色をした瞳を持っていた。身長はおそらく一八〇センチメートルぐらい、スタイルのいい美人だった。

 えっ、誰?

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