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第一章 魔術学校の塔の上で その3 レイ


「……」


 頭の中に響く声を僕は静かに聞いていた。この声の主が言っていることが本当ならば、すごいことが起こっているのではないか。しかし、自分の体には何の変化もなかった。


「ねぇ、光の上位精霊さん。少し聞きたいことがあるんだけど……」


 僕は恐る恐る問いかけた。


「あん、俺はもう光の上位精霊じゃねぇよ。レイっていう名前をお前から授かったんだからよ。それにそんなに恐れなくても大丈夫だぜ。精霊は契約した当人を攻撃しようとすると、精霊王から躾という名の天罰を喰らうからな」

「そっか。じゃあレイ。ちょっと聞きたいことあるんだけどさ」


 僕は気ままに聞いてみた。


「あぁ何だ? リオ。あっリオって呼び捨てでも構えねぇか」

「あぁ、もちろん。それで、さっき頭の中に響いてきた声について、何か知ってる?」

「もちろん。あの声はな、全ての精霊を従える精霊界の王様、精霊王の声だ。精霊と契約したときにしか聞くことが出来ねぇから、俺も初めて聞いたよ。ほかに質問は?」

「そうだなぁ~。あっ、そういえばレイ。全属性の攻撃ができるようになることってすごいことなの?」

「………!」


 レイがズッコケた。

 え~。そんな驚くこと~。ちょっと傷ついた。


「ちょっ! おまっ! そんなことも知らねぇのか⁉」


 何かレイが怒ってる。知らなくても別にいいじゃん。生きていけるんだし。

 ぷくぅ~っと僕は頬を膨らませた。


「んんっ、本来人間は一度、自分の属性を決めたら変えることはできない。そして複数の属性をその身に宿すことは絶対にできない。だが上位の精霊と契約したものは例外だがな。こんなこと精霊からしたら常識だぜ」

「ふ~ん」

 

その瞬間、体中に痛みが走った。僕の体を見てみると、炎にさらされていた。熱い!

 声を出す間もなく、僕の顔が炎に包まれた。


「助け……」かろうじて出た声がそれだった。


 そんな僕を見てリリアさんは、僕に向かって走ってきた。


「リリアさん、危ない!」


 それでも彼女は止まらずに、

 僕を抱きしめた。

 僕は突然のことにびっくりしたが、すぐに冷静になった。

 身体の炎は消えていたのだ。


「その能力は、サキュバスの固有能力、吸収(ドレイン)だな。」


 レイが冷静に解説してくれた。「いやっ! 助けてよ!」と思わず突っ込みたくなったけどここはこらえた。

 30個ぐらいの強大な魔力が迫ってきていたからだ。その魔力はどれもが先生たちのもので殺意を纏っていた。

 おそらく、レイを召喚したときの光が原因だろう。

 ——このままでは、リリアさんが見つかって、殺されてしまう。

 レイと契約した今の自分の実力でどこまでやれるのか試してみたい気持ちもあるが、リリアさんだけは殺されたくない。だから、ここは逃げに徹するべきだ。

 僕は先生たちが来るまでの少しの時間にレイにいくつかの呪文の詠唱を教えてもらった。

 そして、ちょうど六つ目の呪文の詠唱を教えてもらった後に、先生たちが塔の屋上にたどり着いた。


「おい、リオ! そこで何をしている!」


 最初に声を荒げたのは、ダリオ先生だ。ダリオ先生は精霊学の先生で、精霊を召喚して来いと課題を出した先生でもある。もしかしたら、話が通じるかもしれないと、まずは魔法を放つ前に言い訳をしてみることにした。


「ダリオ先生、こんばんは。そんなに声を荒げてどうしたんですか?」

「しらばっくれるなリオ! お前があの光を発した張本人だということは、魔力探知の魔法ですでにわかっている! 俺は、お前をちょっとは買っていたのに……幻滅だ!」


 そう、ダリオ先生に言い放たれて、少し悲しくなった。


「ダリオ先生! あなたが精霊学の教師ならわかるはずです。この子供が何者なのかを」


 僕はそう言って、レイを差し出した。


「何をっ——ッ‼ この方は……」


 流石ダリオ先生。すぐにレイの正体に気づいたようだ。かつて王国一の精霊術師と言われただけのことはある。そして、ダリオ先生は首を垂れた。


「ダリオ先生、どうしたのですか?」


 薬草学の優男(やさお)先生がダリオ先生の行動に困惑している。


「早く、君たちも首を垂れるんだ!」

「えぇ~……いや……でも……」


 ダリオ先生は慌てている。レイはそんなにも、高貴な存在なのだろうか。


「あっ! あいつは……魔族!」


 そして一人の先生がリリアさんに気付き、叫んだ。その瞬間全ての先生が魔族の存在に気づき、魔力を開放する。一瞬でピリピリとした空気間に変わった。


「リオ! 今からあなたは私の操り人形になる!」


 一番初めにリリアさんに気が付いた呪術学の先生、アリア先生がおそらく精神支配系統の魔術を放ってきた。

 やばい! と心の中で叫びながら飛んでくるであろう魔術に備えた。アリア先生から放たれた黒い魔力は僕の頭に直撃した。

 そして僕の意識は闇の中に沈…………まなかった。

 なぜだか不思議に思っていたら、いつの間にかレイが僕の前に立っていた。


「はっはっは。残念だったな。リオはおいらと契約しているから、精神攻撃の耐性がついている。支配できると思っていたようだが、少々魔術のレベルが低かったみたいだな。へッ!」

 レイは最後に挑発することを忘れない。本当に嫌味な性格だ。だがこれがアリア先生には案外聞いたようだ。

 プチッ! という音が鳴りそうな勢いでアリア先生のこめかみに血管が浮かんだ。

 うわぁ~。

 生徒からも先生からも恐怖の対象、アリア先生を怒らせちゃった~。


「おのれ! 子供の分際で偉そうにするな! 契約だぁ? ふざけるな! 精霊でも何でもないくせに! そんなに支配されたいのならしてやるよ! この地に漂う命の微精霊よ。汝らの力を以って、彼者を意識を制圧せよ! 今なら謝ったら済むが、何もしねぇってなら容赦はしねぇぞ!」

「ッ‼‼」ダリオ先生が目が飛び出る勢いで驚いている。

「前置きが長い。さっさとしろよ。眠くなってきたぜ」


 寝っ転がって欠伸をしながら、レイはそう言った。


「怒ったら何をするか分からないアリア先生を挑発するのはもうやめてくれ~!」


 先生の誰かが叫んだ。


「喰らいやがれ、支配者の独裁(ブラス・アウトクール)!」


 凄まじい魔力がアリア先生を手から放出された。

 魔力の光線は音を置き去りにしてレイに直撃した。

 ピキィイィィン!

 レイに直撃した瞬間、とんでもなく高周波な音が鳴った。


「どうだ! 軟弱なガキ風情が。大人を侮辱するんじゃねぇよ!」


 それにしても、アリア先生は怒ったら人格が本当に変わるな。怖い。


「やっぱり雑魚じゃねぇか。痛くもかゆくもねぇぞ。支配されるのはお前かもな」


 レイはどうってことなく、平然とその場に立っていた。

 そして大聖霊の力を見せつけてアリア先生の慢心を砕くようだ。


「力の差を見せてやる。白日の抱(コムプレクス・へ)(リオス)!」

「禁呪を……無詠唱で…………」

 

 どうやらレイが今放った技は、禁呪らしい。

 無詠唱⁉

 禁呪を! いくら何でもヤバすぎでしょ! 大聖霊(スピリット・ポテンス)ってそんなにすごいの⁉

 今度じっくり聞いてみることにしよう。僕は心の中で決意した。


「だが、残念。今は夜だ! 太陽が上がっていないからその技は無効だ! ざまあみろ!」

「ふふ、ふはは、ふはははは!」


 不敵なレイの笑い声が響く。


「俺が何も準備していないとでも思ったか?」


 その瞬間、夜の学校に太陽の光が差した。


「なんだと⁉」

「おいらが予め太陽を移動させていたんだよ。散々馬鹿にしやがって、覚悟はできているんだろうな?」

「ひぃいぃぃいいっぃ」

「その顔だよ。その顔が見たかった。幸甚や快楽の感情から一気に絶望や悲観の感情に変わるその瞬間が実に愉快だ」

「ひぃぃぃぃいいぃぃぃっぃぃぃぃ」

「太陽よ。汝の意識を拘束し、白日の下へと引きずり込め」あれ? 呪文? 必要ないんじゃないの?

「助けて。やめて。何でもするから」とか譫言を抜かすアリア先生の意識は、白日の下へと引きずり込まれた。


 ってか、聖霊よりも悪魔の方が向いてんじゃない。うちのレイ……。


「次は誰がおいらの餌食になりたい?」


 ほら、もうほかの先生に喧嘩売ってるよ。


「待ちな!」


 誰かがひと際大きな声で叫んだ。その声の主は——


「校長先生!」


 学園の最高権力者で、この学園の中でもっとも強い存在だ。校長先生は、年老いたおばあちゃんだが、まだまだ現役で舐めていたら痛い目を見る。実際自分も入学試験の時、高度な威圧の魔術をかけられながらこっぴどく叱られて、脱水症状で倒れかけた。


「リオ。校長室に来なさい」

「……………はい」


 オワタ。

 僕は内心吐血した。果たして生きて帰れるのか……。

 

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