第3章 癒しの花の冒険 中編 その2 父娘の再開
国に入って連れてこられたのは、〝帝国義勇防衛部隊本部〟の一室『ヴェリタスの私刑場』でした。というかいつの間に帝国主義に……。前は民主主義だったはずでは……。
「へぇ~。天井に〝真実の宝玉〟が埋め込まれてらぁ」
〝真実の宝玉〟——宝玉が纏う特殊な覇気に当てられたものはみな等しく嘘をつけなくなる。
「静粛に‼ 尋問長がお見えになる‼」
小太り兵士さんが槍の石突を地面に叩きつけながらそう叫ぶと、ドンッと勢いよく私たちが入ってきた扉の反対側の扉が開きました。
「君たちかね。我が国に侵入しようとしたネズミは……」
異様な殺気を放ち、扉の奥からズカズカとやってきた白Tシャツとデニムの短パンの男は、部屋にあった絢爛豪華な椅子に腰を下ろしました。
その男の容姿は、一言で言うと〝巨岩〟。はち切れんばかりに膨らんだ彼の筋肉はまさに日ごろの鍛錬の賜物と言えるでしょう。彼の肉体には強大な何者かにやられたであろう大きな傷跡が点在しています。ひとまず〝巨岩〟の人と仮称するとしましょう。
「……すごい」
私はいつの間にか声に出して驚いていました。
すると巨岩の人が突然、声を上げて高笑いしました。
「ガッハッハッハ‼ 小娘よ、この筋肉の良さが分かるか?」
「はい、分かります」
「そうか、そうか。おいオベスサーよ」
「はっ、はい」
巨岩の人がギロリと小太り兵士さん……もといオベスサーさんを睨むと、背筋が凍るような空気が部屋に流れました。
「ネズミではなくハムスターではないか」
「えっ、でもそこの二人は……?」
「その件だが、小娘たちに直接聞こうと思う。三人を代表し小娘に聞く。小娘よ、なぜ入国税を払わなかった?」
「…………」
私は反応に困りました。全て正直に話すべきなのか。私はザガルと視線で会話します。
てか、ハムスターて……。ギャグセンスが特殊なのかな?(←めっちゃ失礼)
『ねぇ、どう思う?』
『まぁ、いざとなったら簡単に制圧できるし、別に話してもいいだろ』
『そう……』
視線での会話を終えると、私は真剣な眼差しで巨岩の人に向き直ります。
「〝巨岩〟の尋問長様」
「おい」
「はい? なんでしょう?」
「かっこいいな」
「へっ?」
「いや、何でもない続けてくれ」
「そうですか。……ですが、その前に」
私はオベスサーさんを視線で示します。
「そういうことか。おいオベスサーよ、席を外せ」
「はっ!」
オベスサーさんが部屋から出ていくのを見送り、口を開……………
「待て」
……こうとした私をザガルが手で制します。
「この部屋、『鑑定』させてもらった」
「ほぅ。それで何が見つかったのかね」
巨岩の人は顎髭を触りながら、不敵な笑みを漏らします。
それにザガルは鼻で笑って返します。
「盗聴器が十二個、魔力吸引機が四対壁に埋め込まれているな」
「魔力吸引機?」
「ああ、知らなかったか。人間の国々の研究機関が共同で開発した機械だ。全ての生物に影響を及ぼし、魔力を吸い上げる。それにしてももう実用化されているとはな。開発されたのはつい先月だぞ」
「よく知っているな。開発にかかわった国の上層部、研究員には漏洩防止の禁呪が掛けられていたのに」
「まあ相手の深層心理を読み取る魔術を使えば簡単だよ」
あっ嘘だ。表層心理を読み取る魔術は魔界にも存在しません。恐らくは『鑑定』を使ったのでしょう。
うぇ~い嘘はいっけないんだぁ~~。
「そうか。………流石だな」
巨岩の人はザガルの言動の違和感に気付いたのか、〝真実の宝玉〟の輝きを確認してからザガルにねぎらいの言葉を掛けました。でも何が流石か分かりませんけど。
「そりゃどうも。〝雷撃〟」
ザガルの両手から合計十本の雷撃を放たれました。波打つように放たれた雷撃は、うねり曲がって盗聴器、魔力吸引機へと走っていきました。
十二個の盗聴器と四対の魔力吸引機は過電流によって、火花を散らしパンッと弾けました。
「………よし、キュアもういいぞ」
「ありがとう。それじゃ〝巨岩〟の尋問長様、話させていただきます」
「……うむ」
「?」
何か居心地悪そうな顔したのは気のせいかな?
「まず私の名前はかつてこの国を抜け出したキュアフローラ・ラティブルーと言います」
「何と⁉」
声を荒げてバンッと机をたたき勢いよく椅子から立ち上がった巨岩の人を手で制して座るよう促します。
「すまない。取り乱した」
そう謝罪して着席するのを見届けてから私は再度口を開きます。
「私は国を抜け出した後、こちらのザガルとアイナとある人に出会いました。そして私は力と知識をつけて、私を追い込み陥れた故郷の人たちを父さんと母さんを見返してやろうとこの国に帰って来たという訳です」
「そうか」
巨岩の人は悲しげな表情でそう言います。
「ところで私の名前を聞いた瞬間、ひどく興奮していましたけど何かあったのですか?」
「いや、これは噂なのだがな………」
巨岩の人は苦虫を嚙み潰したような顔で言い淀みました。
「何なのですか?」
「えと、その、かつて国を抜け出したキュアフローラとかいう女は魔族と繋がっている、と巷で噂になっているんだ」
「ふむ。それは心外ですね」
私は表情一つ変えずに堂々と嘘をついて見せました。
〝真実の宝玉〟があるにも関わらず嘘をついた理由。それはザガルを信じているからです。
ザガルなら、すでに『鑑定』し切っているはず。
「そうか。なら俺の方から違うと言っておくか」
「よろしくお願いします」
よし! 内心でガッツポーズをしました。流石はザガル。そしてどこか抜けた顔で突っ立っているザガルに感謝の目を………っと、危ない危ない。これで目を向けたら何かあると巨岩の人に教えるようなものです。
それと、恐らくその噂はソレスナが流したものでしょう。
「それで……私達に他の用はありますか?」
「いや、ない。すまなかったな疑って」
巨岩の人は勢いよく頭を下げて、謝りました。
「——っ⁉ いえいえ、嘘をついた私達も悪いんですから。あのそれで……」
その反応に気まずくなって、居心地悪く私は手を振って話を逸らしました。
「名前を教えてくれませんか?」
「——っ! 私の……名前は……」
「?」
巨岩の人は言葉を濁らせて申し訳なさそうに言いました。
「ダグオン・ラティブルー。お前の育ての父親だ」
「——えっ!」
「すまなかった‼」
巨岩の人——もとい、父さんは勢いよく土下座をして叫ぶように言いました。
「あの時、お前を助けることができなくて……周りの奴等が言ってた噂にまんまと流され、お前を迫害してしまった。許してもらわなくても構わない! だが! これだけは言っておきたい。本当に済まなかった‼」
「「「……………」」」
私達三人は暫くの間呆気にとられ、部屋の中にしばしの静寂が訪れました。
その静寂を最初に破ったのはザガルのとても小さな一言でした。
「『鑑定』」
そしてまた部屋の中には静寂が訪れました。恐らく一秒もなかったのでしょうが、とてつもなく長く感じられました。
「キュア、こいつは信用していいぜ。嘘を言っていない」
「本当⁉」
「ああ、本当だ」
笑って言い放つザガルを見て、何かが胸の奥から込み上げてきました。次の瞬間。
「父さん‼」
私は父さんに抱き着いていました。
「……キュアフローラ?」
最初は驚いた顔をしていた父さんでしたが、みるみるうちに瞳を潤わせて、強く抱きしめました。
「ぐっ! ごめん! ごめんなぁ‼ キュアフローラ‼」
「父さん! 会いたかった‼」
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」
感動の父娘の再会でした。




