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第3章 癒しの花の冒険 中編 その3 裏切り者


「あの~? そろそろ……」

「「はっ‼」」


 ザガルの一声で私達は正気に戻った。


「すまんな。キュアフローラと久々に会うことができて嬉しくてな」

「私も、父さん」

「キュアフローラ」

「父さん」

「いや、何で恋人みたいな雰囲気になってるんだ⁉」

「ハッハッハッハ」「アハハハハ」

「はぁ~~~。それで、キュアはこれからどうするんだ?」

「えっ? どうって」

「はぁ、わざわざ言わせんなよ。……キュアはお父様と暮らすのか? これから」

「——えっ?」


 思わず素っ頓狂な声が出てしまいました。

 どうって……。そんなの答えは決まっているに決まっているじゃないですか。


「これからも、ザガルとアイナと一緒に居るよ。父さんにはごめんだけどね」

「いいさ、娘の仲間は親にとっても大事だからな」

「ありがとう」


 そこでふと思い出しました。


「そういえば、アイナは国についてからずっと黙っているよね。何かあった?」

「えっ⁉ あっえと、それはだな」


 アイナは突然話し掛けられて、ビクッと肩を跳ね上がらせ、すごく小さな声で呟きました。


「……人見知りなのだ」

「えっ?」


 あまりに小さな声だったので聞き返すと、顔を真っ赤にして大声で言い返しました。


「人見知りなのだ!」

「あっ、そうだったの。ごめんね、気付かなくて」

「いや、言わなかったワタシも悪いのだ」

「何か、アイナさんの欠点がどんどん浮き彫りになってる気がする……」

「思っても言わなかったことを……」

「フハハハハハハ!」


 部屋の中に突然大きな笑い声が響きました。

 見ると、涙目になって大笑いしている父さんがそこにはいました。


「キュアフローラのパーティーは賑やかなんだな。うん、良いことだ」


 なんだか、恋人に認められるのとは、違う嬉しさを感じました。

 続けて何かを言おうとする父さんでしたが、何か困った表情をすると、助けてくれといった目で私を見てきました。

 その言わんとすることを瞬時に理解した私は口を開きました。


「そういえば自己紹介だったね。こっちの人は……」


 私が紹介するより先にザガルが一歩前に出て、魔王間でのやり方で挨拶して見せました。


「初めまして、私の名はザガルと言います。〝黒焔〟という通り名で通っております。以後お見知りおきを」

「……………」


 挨拶を聞き終えると、父さんは口をあんぐりと開け、呆けた表情で私とザガルを交互に見ました。

 そして一回咳払いすると真面目な顔になって、挨拶を返します。


「こちらこそ、私の名はダグオン・ラティブルーだ。知っての通りキュアフローラの父親だ。よろしく頼む」


 ん? よろしく頼む。どういうことカナ? 


「続いてこちらの人は……」

「初めまして、アイナです。これでもキュア……フローラさんより年上なのでよろしくお願いします」

「ああ、よろしく」


 またしても私の紹介よりも先に挨拶されました。なんか悔しい。

 それにしてもアイナ、本当に人見知りなんだな。口調もどこか余所余所しい。

 ……んっ、この空気何だか嫌だから、話を変えよう!


「それじゃ、全員の紹介も済んだことだし、これから何をするか決めようか」


 手を組み、肘を置き、無駄に悪役っぽい雰囲気を醸し出しながら私は言った。


「「「…………」」」


 うん。予想通りの反応~。


「「「………………」」」


 ちょっと待って! 結構恥ずかしい。えっヤバい。


「なぁ~、キュア。無理してね?」

「くぅぅぅ~~~~~~~~~~」


 声にならない呻き声をあげて、私は崩れ落ちました。顔は真っ赤になりました。


「そっ、そうだな。これから何をしようか?」


 ザガルにフォローまでされました。恥ずかしい。


「そうですね。私としてはキュアフローラさんの為に、少しこの街に滞在した方が良いのではないでしょうか?」

「そうだな。それがいいと思う。それで滞在場所だが……」


 ザガルはチラリと父さんの方を見ました。あっこれは狙ってるな~。


「……よければ俺の家を使ってくれ。結構広いから3人なら全然大丈夫だ」

「——っ、ありがとうございます!」


 それを聞いて私はとびきり嬉しくなりました。


「父さんの家に泊まれるの? やった~!」

「住所は……この紙に書いてある。迷うなよ」


 父さんはその辺にあった紙に住所を書き込んで、それをザガルに渡しました。


「はい」

「よし。それじゃそろそろ時間だし、出るぞ」

「うん」「はい」「了解です」


 それぞれ三者三葉の応え方をして、『ヴェリタスの私刑場』を出ました。


       ○


「んっ……」


 陽の光に目を細めていたら、オベスサーさんが近づいてきて、敬礼しました。


「お疲れ様であります。尋問長様」

「うむ、見張りご苦労」


 そして一拍置いて父さんは問います。


「して、盗聴はしていないだろうな?」

「別にしておりませんが、何か」


 涼しい顔でオベスサーさんは言ってみせます。


「本当か?」


 父さんは用心深く聞きました。


「本当ですって」


 オベスサーさんは慌てた様子で訂正しました。


「そうか。すまなかっ……」


「待て!」


 父さんが頭を下げ謝罪しようとしたところを、ザガルは手で制し切羽詰まった声で言いました。


「そいつは嘘をついている」


 ザガルが告発すると、父さんは筋肉に血管を浮かばせ、魔力を練り上げ始めました。


「何だと? 貴様……!」


 父さんから放たれる圧倒的な魔力を直に感じてもなお、オベスサーさんは飄々とした表情で首を横に振ります。


「何をおっしゃるんですか? 私がそんなことをするはずないじゃないですか。それにそんな奴の言い分を信じるのですか?」


 その見え透いた言い訳に、ザガルは容赦なく追い打ちを掛けました。


「アルカディア帝国」


「!!!」


「嫉妬」


「‼‼‼」


「天使」


「‼‼‼‼‼‼」


 ザガルが発する一つ一つの単語にオベスサーさん……いやオベスサーは大きく肩を揺らします。


「これで分かったか?」

「あぁ……まさかオベスサーお前が……」


 父さんは、信じられないものを見るかのような目でオベスサーを見つめます。


「ちっ。ばれちゃしょうがねぇ。そうだそこのアンちゃんの予測通り、俺はアルカディア帝国のスパイだ」


「そうか。長年俺についてきてくれていたお前が。下っ端の門番兵に成り下がっても、俺を信用してくれて影ながら支えてくれていたお前が。帝国のスパイだったとはなぁ‼」


 父さんは練り上げたその強大な魔力を一気に解き放ちました。


「猛り狂う水の奔流よ、その身を縛れ! 呪縛水檻(アクアジェイル)‼」


 父さんの足元から激しい渦を巻く水が奔り、オベスサーを捉えます。


「ぐっ!」


 水の勢いによって、オベスサーの身体が一瞬中に跳ね上がり、大きくバランスを崩しました。


「今だ!」


 その隙を逃さず、父さんは一気に魔力の出力を上げ、オベスサーの周囲の水を巨大な球体へと変化させ、空中で水の牢獄に閉じ込めます。檻の中では、凄まじい速度の水流が刃となってオベスサーの肉体を次々と切り裂きました。


 激流が地によって赤く染まり始めた瞬間、父さんは間髪入れず次なる魔術を発動させます。


「紅き紅き血よ、全てを焼き尽くす烈火となれ。赫血(ブラッディ―)猛火(イグニッション)」

「なっ——」


 ドゴォォオォォ————!


 地鳴りのような轟音が響き、水の牢獄はオベスサーもろとも内側から弾け飛びました。


 蒸気が視界を白く染め、徐々に晴れていくと、そこには悲しそうな顔をした父さんの横顔がありました。


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