第3章 癒しの花の冒険 中編 その1 計画通り……!
〝瞬間移動〟の転移先は、あのぐったりと横たわった木の目の前でした。
「懐かしいなぁ……」
私は辺りを見回し、思い出に耽っていました。
「ここがキュアの故郷か……」
「何もない所なのだな」
「何もなくていい場所だな」
「本当なのだ」
「いや、ここじゃないから‼」
壮絶な勘違いをしてべた褒めしている二人にツッコミをし、その流れで二人に話し掛けます。
「それで、二人とも。二人は人間じゃないから人間の国に入ったら、とんでもないことになってしまうのは火を見るより明らかだよね」
「うん、そうだな」
「そうなのだ」
私の話に頷く二人。
「だから魔術を使って、二人を人間に見せようと思うんだけど、いいかな?」
「もちろんだ!」
「もちろんなのだ!」
言葉のトーンを上げて私の言葉に頷く二人。
「ところでさ、何でそんなにテンション高いの?」
私は違和感の余り耐え切れずツッコんでしまいました。
「「それは……」」
私のツッコミを真に受け、深刻そうに俯く二人。何なんですか?
「キュアの故郷に行けるから‼」
「キュアラの故郷に行けるからなのだ‼」
うわっ。息ピッタリ。いつの間にそんな親密度に……!
「はぁ、もういいから魔術掛けるね。〝擬態:人間〟」
小さく溜息をついて私がザガルのアイナに向かって手を振りかざすと、みるみるうちに二人の姿が変化していきました。
ザガルは漆黒の角と翼が消え失せ、あとに残ったのは街行く女性をみな虜にしそうな程の美丈夫でした。
アイナは元々の可愛らしい容姿は変化せず、精霊の魔力だけが消失していました。
「よし! そろそろ出発するのだ!」
「「おぉ~~」」
先頭のアイナに詳しい道順を教えて、私達は国に向かって進み出しました。
「冒険っ冒険っ冒険は楽しいのだ! 幸せなのだ、みんなで冒険、楽しいのだ~!」
アイナが陽気に歌を歌いながらスキップして先頭を行きます。
「アイナ、そっちじゃなくてこっち」
「済まないのだ~! ルンルンルンッ、ルンルンルンッ」
五分後——
「冒険っ冒険っ冒険は楽しいのだ! 幸せなのだ、みんなで冒険、楽しいのだ~!」
「アイナ、こっち」
更に五分後——
「冒険っ冒険っ冒険は楽しいのだ! 幸せなのだ、みんなで冒険、楽しいのだ~!」
「アイナ、こっち」
更に更に五分後——
「冒険っ冒険っ冒険は楽しいのだ! 幸せなのだ、みんなで冒険、楽しいのだ~!」
「アイナ、こっち」
更に更に更に五分後——
「冒険っ冒険っ(以下略)」
「アイナ、こっち」
更に更に更に更に五分後——
「冒険っ冒(以下略)」
「アイナ、こっち」
この二十五分間で分かったことが一つあります。
「ねぇ、アイナ」
「っ!」
「アイナってさあ——」
そこで表情を真剣なものにして、アイナを見つめます。
「——方向音痴だよね。」
「グハァ!」
止めの一撃を受けた時のような声を出して胸を押さえるアイナに私は追い打ちを掛けます。
「大丈夫だよ。普通の人は道なりに歩いて迷うなんて才能、逆立ちしても持てないから。アイナは正解を避けて進むことができる、そんな世界に選ばれた開拓者なんだね」
「グハァ‼」
「まあまあキュア、それぐらいにしておけよ。アイナさんが死んでまうわ」
「まあ、本当はそんなこと全然思ってないんだけどね。一応言っておこうかと」
「ごめんなさいなのだ。方向音痴だということは自覚しているんだが、全然なおらなくてな…………」
足元の一点を見つめ、本当に悔しそうに呟きます。
「誰にでも得意不得意はあるさ。それを互いでカバーしてこそ、冒険仲間なんじゃないのか?」
「そうだね。アイナも要望があればどんどん伝えてよ」
二人でアイナをカバーした途端、彼女の顔から暗い影が消え去り、眩しすぎるほどの笑顔が弾けました。
「二人ともありがとうなのだ。やっぱり仲間は良いものだ」
そう言って、私達二人に背中を見せると、ルンルンと足取り軽く先頭を歩き出しました。
「冒険っ冒険っ冒険は楽しいのだ! 幸せなのだ、みんなで冒険、楽しいのだ~!」
そこで私は冷静な一言。
「アイナこっち」
○
そんなこんなで国に辿り着くと、国を囲う大きな城壁が私達を出迎えました。
「おい! そこの三人組何者だ?」
「?」
声がした方向に顔を向けると、そこにはポツンと国へ入るための入り口がありました。傍には完全武装の二人の兵士が立っていました。
「あぁ、私達は冒険者です。だから決して怪しいものでは——」
何か正直に答えたらマズい気がして、歩きながら咄嗟に言い訳していると、嫌らしい笑みを浮かべてこちらを観察していた小太り兵士さんが、突如それを打ち消すように一喝した。
「ほう、ならば!〝冒険者カード〟を見せてもらおうか!」
「えっ?」
思わず私はそう反応してしまいました。
「むむっ? その様子を見るにお前たちは〝冒険者カード〟を持っていないのか? ほうほう、つまりは兵士たる私に嘘をついたと……。一体何のために……。まさか! 何か後ろめたいことが……取り敢えず署までご同行願おうか」
小太り兵士さんは策士でした。言われるがままについて行きましたけど――
「(ザガルなら論破できたよね?)」
私は小声でザガルに問い掛けます。それにザガルも小声で応えます。
「(わざわざこんなところで目を付けられたら後の行動が面倒だ。それと——まあ、何でもない)」
「(そっか)」
成程成程。つまりザガルは、〝タダ〟で国に入るために、反論しなかったのか。
今思うと私達は無一文でした。国に入るには、多くの場合〝入国税〟を取られます。
〝入国税〟を払わずに国に入ろうとすると、即拷問に掛けられます。
「………………………」
幼少の頃この話を聞いた時は、思わず声を失ってしまいました。
えっ。いや、だって。重すぎない? 税を払わなかっただけで拷問でしょ。人間皆考えることは残酷だわぁ。
と、子供の頃は思っていましたが今思うと当然のことです。
税金を徴収できないと国の経済は回らなくなったり、防衛、貿易のための費用がなくなってしまいます。
まあ早い話、国家転覆罪になるんでしょう。
抵抗してもいいんですけど、抵抗した後が面倒なのでこのまま無抵抗の振りをして国の中に入れてもらいましょう。
そして私とザガルとアイナは、ニヤッと笑って、小声で一言。
「「「(計画通り……!)」」」




