第一章 魔術学校の塔の上で その1 精霊の召喚
「無理だろぉぉぉぉぉおぉl!」
塔の屋上で今日も叫ぶ少年はだれか。
僕の名前はリオ・ホープネス。
僕は蒼塔学院の一年生で、周りからは陰キャと言われている。
今日の精霊学の授業で出た課題があまりにも難しく、塔の屋上でどうにか完遂しようと孤独にも独りで頑張っていた。
今日の課題の内容は、《何でもいいからの精霊を召喚してこい!》というものだ。
うん、雑。
他のクラスは召喚して来いとかじゃなくて、教科書ここからここまでノートにまとめてこいだったりするそうだ。
僕のクラスは、『最上位クラス』と言われる。名前からしてすごいクラスだと予想できる。
本当にやばいクラスだ。
クラスメートのなかには上級魔法を使う人もいたり、実際に魔族を殺したことのある人が何人もいる。そうした人たちは、当然のごとく魔力量が多く魔力の扱いが得意だ。
だから課題が難しすぎる。
自分は魔力量こそ多いものの魔力操作はくそったれ。ミジンコ以下だ。比喩でも何でもなく本当にミジンコ以下なのだ。
なぜ、そんな僕がこんなクラスに配属されたかというと、入学試験が魔力量を測るだけだったからだ。僕は生まれた時から魔力量が多く、上位悪魔にも匹敵するといわれたこともある。(お世辞だと思うけどね。)
だからこんな試験は簡単に合格できた。というか、魔力量を測る機械が僕の魔力量に耐え切れなくて爆発してしまって、合格したのに家族にこっぴどく怒られた。
学園の校長先生にも怒られてしまった。おそらくその時の印象が強すぎて、最上位クラスに配属されたんだろう。
本当なら魔術の才能を秘めた人達がいるクラスからさっさとおさらばしたい気持ちでいる。しかし、それは校長先生に直談判しても無理だった。「せめて、あと一年待ちな!」と言われた。何を企んでいるのか知らないけど、一年も異動されるのを待っていたら、僕死んでしまいかもしれないのに。
実は入学してから一か月後ぐらいに魔力の扱いが下手なやつが最上位クラスにいるという噂が流れて、それが僕だと特定されてしまい、僕は全校生徒からいじめを受けることになった。
そのいじめと言ったら酷いことで、背中に猛毒のムカデやヘビ、サソリを入れられたり、筆箱を入れ替えられて筆箱型のアイアン・メイデンにされたりと、死んでしまうような内容なのだ。だから、全校生徒全員くそったれ、地獄に落ちればいいのに、とか思ってる。
そして、塔の屋上に行く間にいいことを思いついたのだ。
全校生徒に対する怒りの感情で精霊を召喚すればいいんじゃね、と。
全くできない。
気づけば周りの空はすっかり黒に染まっていた。一人で誰にも聞こえることはない溜息をついていたら、後ろから声をかけられた。
「こんばんは、昨日ぶりだね」
振り向くと、そこにはサキュバスがいた。彼女とは昨日、この塔の屋上で出会ったばかりだ。
だけど、彼女を見ると、なぜか胸が苦しくなる。この痛みは昨日から考えているのだが、全くわからない。まあいいや。
彼女が言ってる返事のことは、昨日別れ際最後にされた提案のことだろう。その提案の内容は、魔術の練習を一緒にしない? というものだった。先生や全校生徒からいじめられている僕の答えはすでに決まっていた。
そして、この塔の屋上に今日も来たのは提案の答えをするためでもあった。
「一緒に魔術の練習をしてください!」
全校生徒を見返してやるという強い思いを込めてそう言った。
「よかった。ちゃんと覚えてくれてた……。でも本当にいいの? 魔族の魔術の特訓は厳しいよ」
彼女は、本当につらいものになるからやめた方がいい。とでも言うように、闇のオーラを開放した。だが、僕の決意はそう簡単には折れない。
「俄然やる気が出ました!」
「……君がそのつもりならいいや。君の名前は?」
「へっ!」いきなり、魔族が質問してくるからびっくりした。
「だから、特訓を始めるうえでまずは自己紹介でしょ!」
「そうですね。え~っと……僕の名前はリオ・ホープネスです。リオって呼んでください。」
「私の名前はリリア。見ての通りサキュバスよ。それで今日はどんな特訓をするの?」
「えっ! いまからですか?」
「当たり前よ。厳しいものになると言ったよね」
「実は……」僕は簡潔に、授業で出た課題の内容を話して、精霊の召喚術を教えてくれないかと頼んだ。
「なんだ、そんなこと。もちろん!」
リリアさんは快く、了承してくれた。その笑顔を見たら、また胸がズキっとした。その痛みの正体は何なのかわからない。
「お~い。大丈夫?」
「っ! 大丈夫です!」
僕は慌てるように応えた。胸の痛みについて考えていて、少しぼ~っとしていたみたいだ。それにしても心配してくれるなんて。優しいなリリアさんは。
そのあと、リリアさんはわかりやすく、精霊召喚術について説明してくれた。
「それじゃ。まず精霊召喚術にはね、約三割が魔力の力で、残りの約七割は祈りの力、つまり強い意志の力が必要なんだよ。だから、多少の魔力操作は必要だけど、ほとんどは自分の願いの力で、精霊が召喚されるんだよ。だから、魔力操作が苦手な君もしっかりと精霊を召喚できるよ。ちなみにね、召喚される精霊の強さはね、願いのスケールの大きさや意志の強さによって変わるんだよ。精霊も色々でね、楽しいことに興味がある子もいるし、強い人の忠実な家臣になりたい子とか、いろんな精霊がいるんだよ。」
「へぇ~! なんかやる気が出てきました。ありがとうございます。それにしても、リリアさんは物知りですね。なんかすごい人なんじゃ……」
「物知りだなんて。お母さんの方がもっと頭がいいし、たくさんのこと知っているよ」
リリアさんは、照れながらも、家族のことを少し話してくれた。以前生物学の授業で先生が話してくれたけど、魔族が家族や出身の里のことを話すのは、心を開いてくれた証拠だと言っていたな。リリアさんが僕に心を開いてくれたと思うと、嬉しくなった。これからは、もっと親しくしてみるのもいいのか、な……?
「お母さんもすごいんですね。今度会ってみたいな」
天を仰いで僕は言った。
「っ! そうだね。私も君の家族に会ってみたいな~」
一瞬びっくりしていたリリアさんだが、すぐにいつもの笑顔に戻った。だけど、僕はそうではなかった。
「……………………」
「っ! ごめんっ!」
はっ! っとなってリリアさんは気づいた。
「いえ、気にしないでください。家族は物心ついた時にはもういませんでしたから」
そう僕には家族がいないのだ。僕には二歳からの記憶しかなく、二歳になった時にはもう家族はいなかったのだ。
「それに、リリアさんが誤ることじゃないですよ。家族の話題を出したのは僕なんですから」
「…………」
「…………」
僕とリリアさんの間に気まずい沈黙が流れた。その沈黙を押し破るように、リリアさんが発言した。
「さっさっ! 早く精霊を召喚してみてよ。最後に一つアドバイス。前に会ったときに魔力を開放したときは、すごく荒々しい魔力の流れだったよね。それは君があふれ出る魔力を無理に抑え込もうとしていたからだよ。一回、魔力の流れに身を任せてみたらいいと思う。それじゃリラックスして頑張ってね~」
「わかりました。絶対に成功させてみます。師匠!」
リリアさんに向かって笑顔で頷いてみせた僕は、呪文の詠唱を開始する。
先生曰く、詠唱は自分なりのものでやると、精霊が興味を持って成功率が上がるそうだ。まず初めに地面に幾何学の模様を浮かばせる。
そしてあいつらを見返すことを心に思い、とっさに思い付いた言葉を召喚の呪文としていく。そして、その呪文に願いの力と魔力を乗せて、詠唱する。
「これが君たちの望んだ『正しい』世界なのか? これこそが君たちが魔法を使って見たいと思った景色なのか? 輝いて見えた学園生活はすべて砕け散り、安らぎだった場所は、たったひと月で僕を嘲笑う冷たい場所に変わった。君たちの笑い声は、本当に遠い世界の音のようで、君たちの常識は、僕には届かない鎖のようだ! 僕は生きているのに……僕だって生きているのに!」
「リオ………」
リリアさんが心配そうに見ている。自分でも驚きだ。あいつらへの不満がこんなにも溜まっているとは。
「君たちが与えてくれたこの孤独こそが、僕の存在する証明なのかもしれない!」
僕は光に包まれ、どす黒い様な魔力が僕から流れ出した。
「ふふ……これが君たちから僕に課せられた課題なら、乗り越えて見せる! 君たちが築き上げた、ぬるま湯のようなこの世界。群れて笑う君たちのその明るい顔も、僕を置き去りにするこの世界も、いつか、僕のような存在が、その意味をすべて変えて見せる!」
だんだんと僕の理性が保てなくなっていく。理性が保てなくなるほどに怒りが爆発している。爆発する怒りに比例するようにどす黒い魔力の放出も増えていっている。
だが、そんなことはお構いなしだ。ここで詠唱をやめたら精霊を召喚することができなくなってしまう。
「聞こえるか! 心の奥底で蠢く、内在せし我が力よ。この苛立ちこそが、貴様を目覚めさせる合図となる。顕現せよ! そしてこの退屈な世界に、異変のくさびを打ち込め! 跪くのは僕じゃない。いずれ君たちが僕という存在の前に立ち尽くすことだろう。僕が望むのは理解じゃない! ただこの世界が僕の力に気づくことだ!」
いつの間にか周りにはすっかりどす黒い魔力が充満していた。
「くぅぅぅうぅぅぅ……」
リリアさんが魔力を吸っているから、大丈夫だろう。遠慮なく詠唱の再開させてもらおう。
「虚空に刻め、終焉とつづる断罪の祝詞。禁忌なる境界門、今ここに開錠す。因果を喰らい、法則を歪めて殺せ! 精霊召喚‼」
カッ!ドゴォォォォォォオォォォン!
一瞬閃光が轟いた直後雷が落ちた。
僕は、詠唱をしていた場所から、塔の端っこまで吹き飛ばされた。一緒にリリアさんも吹き飛ばされている。
「大丈夫ですか?」
そう問いかけると、リリアさんは少し怒っているのか少し口調を荒くして答えた。
「大丈夫だよ! それにしてもあんなにどす黒い魔力は初めて吸ったよ。一体………」
どうやら元気そうで何よりだ。
ふと術式を展開したところを見てみると、人が立っていた。
子供だった。
漆黒の髪で両目が隠れた子供が立っていたのだ。
「君は……誰?」




