第二章 癒しの花の冒険 前編 その10 冥巌鉱物
「ただいま~」
「……………」
返事が返ってこないなと思ったら、ザガルとアイナは〝魔の渓谷〟の方を見つめ呆然と立ち尽くしてい
ました。
「ただいま!」
「うわっ、びっくりした。おかえり、キュア」
「どうであったのだ? まあ……結果は一目瞭然なのだが……」
何か二人とも動きがぎこちないです。
「どうかした?」
何かあったのかと二人に聞いてみると、二人揃って大きな溜息をつきました。
「「はぁぁぁぁぁ~」」
「あのな、キュア」
代表してザガルが教えてくれました。
「無限収納もそうだけど、魔界の極大禁忌魔術の〝乖離された世界)〟と〝極滅死爆〟をどうして使えんだ? ここまでくると流石にヤバいぞ」
何か怒っているようです。
「え~っと、教えてもらったから?」
「そういう意味じゃねぇ」
「じゃあどういう意味?」
「残りの魔力量は大丈夫かってことだ! 魔力が無くなったらどうなるかお前も知ってるだろ!」
なるほど怒ってるのはそういうことでしたか。
「ザガル。心配ならいらないよ。『鑑定』で確かめてみなよ」
「言われなくても、そうするさ! 『鑑定』! えっ…………」
何かあったのかザガルがしばらくの間沈黙しました。
「——え~っと、キュア。『鑑定』に干渉しないで」
「してないよ。『鑑定』なら干渉してるしてないが分かるでしょ。現実逃避はやめましょう」
「はい。——どうやら大丈夫なようだな」
「うん」
ザガルが驚いたのもそのはず。
私の魔力量は残り九〇パーセント。
魔界の禁忌魔術を三回も使ったのだから、ザガルは魔力量がゼロになっていると思ったのでしょう。
私はそこまで先見性のない人間じゃありませんよ。
「それでキュアラ。私の依り代はどうなったのだ?」
おっと、アイナのことを忘れかけていました。
「そうだ。どうなったんだ? 結局」
「あれ? ザガルは知ってるんじゃないの?」
「いや、俺が視えたのはお前が〝魔の渓谷〟に行ったことと極滅死爆を使ったところまでだ。極滅死爆をお前が使った瞬間、現実逃避しちまったからな」
「そう、じゃあ。実物を見せた方が早いよね。ほいっと」
私は収納空間から〝冥巌鉱物〟を取り出しました。
「むっ、これは〝冥巌鉱物〟。どうやってこの鉱石を——」
「〝乖離された世界〟!」
「って使えるのかよ!」
思わず私は叫んでいました。
「——っと、使えないとは言ってないんだよなー」
ザガルが不敵に笑いました。ちょっと苛つきましたがそんなところも彼らしいです。
私は一つ疑問に思ったことをザガルに質問しました。
「でも何で、〝乖離された世界〟を使ったの?」
「そこの地面を見てみろ」
そしてザガルが指差したのは、私が〝冥巌鉱物〟を置いたところの地面でした。
するとびっくり、地面が〝冥巌鉱物〟の毒素によって侵されていました。
「あれ!? あの短時間でもう侵されたの!?」
「はぁあぁぁ~。キュアは知らなかったのな。〝魔の渓谷〟に現れた門は魔界最深奥の死界底、〝ニヴルヘイム〟と繋がっていたんだ」
〝ニヴルヘイム〟……。
これもまた魔神さんから聞いたことがあります。
魔界の最深奥に存在する、大穴のことです。
その大穴の底は深淵にまで達し、楽園から追放された罪深き魂や邪悪な念を持つ魂が神をも蝕む猛毒の瘴気によって消滅するまで灼かれ、世界の塵へと還元されるといわれています。
またの名を、〝神殺しの深淵〟とも呼びます。
「はっ! まさか——ッ!」
私は一つの結論に辿り着きました。
「流石はキュアだ。すぐにその危険性に気付くとは」
——〝ニヴルヘイム〟で裁きを受けている魂が人間界に侵入している。
「それってヤバいじゃん!」
慌てる私をザガルが宥めます。
「大丈夫だ。それらの魂は全てオリハルコンに吸収されている」
「つまりは〝冥巌鉱物〟は、オリハルコンに〝怨念の魂が宿り昇華した鉱物〟ってこと?」
「そういうことだ。そんなものをアイナさんの依り代にできるか?」
ザガルの言いたいことが分かりました。
つまりは〝冥巌鉱物〟ではアイナの依り代を作ることができないということです。
ですが私には関係ありません。魔術があるのですから。
「もちろん」
私は当然とばかりに笑って返します。
「——っはぁぁ~。キュアができるって言ったらできるんだろうな。よし! キュア、やってみろ! 話が勝手に進んじゃったけど、アイナさんもいい?」
「はい! キュアラもお願いなのだ」
二人が私を信じて任せてくれました。
この期待に応えないなんて、万死に値します!
「任せて」
そして私はまたも笑って返すのです。




