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第二章 癒しの花の冒険 前編 その9 アイナの依り代



 

 翌朝。


「あれ? 日付が変わっちゃったね」

「本当だな」


 結局私たちは朝まで談笑していました。


「大変なのだ。今日が出発の日だったのであるな。疲れ取れてないんじゃないのか?」


 アイナの口調はすっかり砕けた感じになっていました。仲良くなった証でしょうか?


「大丈夫だ」


 ザガルは心配するアイナに冷静に言い返しました。


「ほう、何故大丈夫だと言い切れるのだな?」

「生活魔法:疲労除去だ」

「そんな魔法があるとは、実に興味深いのだ!」


 昨日の夜、ザガルが魔法の素晴らしさに語っていたからか、アイナはすっかり魔法の虜になっていました。

 アイナと一緒に魔法の修業をしてみたいですが、私たちは行かなければなりません。


「アイナ。名残惜しいけどこれでサヨナラだね」

「うむ……そうだな。残念なのだ、せっかく仲良くなれたのにな」


 ふと脇に目を向けると、そこには私達の別れを惜しむように見守るザガルの姿がありました。そして何か思い出したように突然考え込むと、やがて何かを思いついたのかポンっと手を叩きました。


「なあアイナさん。名前持ちの上に大聖霊(スピリット・ポテンス)なら〝聖霊核〟があるんじゃないか?」

「あっ、それがあったのだ! それならここでお別れしてもまたすぐに会えるのだな!」

「…………?」


 私には何を言っているか分かりませんでした。


「キュアの為に分かりやすくするとだな」


 ザガル曰く。

 〝聖霊核〟とは大聖霊の核そのものを指し、その核がある場所ならどこへでも大聖霊は自在に転移することが可能となるのだそう。

 確かにそれがあれば、アイナと離れなくても済む。

 でも私達に〝聖霊核〟を渡したら、この洞窟から精霊がいなくなってしまう。

 それは果たしてどうなのか。


「キュアラ、大丈夫なのだ」


 私の心配事を察したのか、アイナは私の手をそっと握り優しく微笑みました。

 その笑顔を見ていると、すごく安心しました。


「キュア、大丈夫だ。大聖霊は精霊とは別の存在。この洞窟に宿るのは意志のない中位精霊だ」


 どうやら意思のある聖霊は上位精霊から上の存在のみで、普通の精霊は魔法による一方的な意志の伝達しかできないのだそうです。


「よかった。それなら——ん?」


 そこで私はあることに気付きました。


「精霊と違うなら、わざわざ〝聖霊核〟を渡さずともついてこられるじゃん」

「すまぬな、キュアラ。精霊は依り代がないと動けぬのだ」

「精霊術で召喚する精霊は、術者の魔力を吸って動くことができるんだけどな」

「大聖霊ともなると、術者の魔力が持たない」

「そういうこと」


 アイナにとって洞窟が依り代で、洞窟から移動するには〝聖霊核〟を渡すしかなくなる。ということなのでしょう。

 そして〝聖霊核〟の座標に転移するには、自分の魔力を消費して自らの身体を構築しないといけない。それは途方もない魔力と忍耐力が必要な作業で、辛いものだそうです。

 もし魔力がなくなると、自身の魂を削り自動で魔力を生成されます。

 そこまでアイナに無理をさせる訳にはいきません。

 それなら——


「私が新しい依り代を用意するよ」

「いいのか?」

「もちろん」

「良い雰囲気のところ悪いが、ちょっと待て!」


 ザガルがまた横から割り込んできました。


「どうしたの? 何か問題でもある?」

「いや問題しかねぇだろ。大聖霊だぞ。それ相応の依り代を作らないといけない。できるのか?」

「理論上は」


 私の魔力と魔術を使えば、おそらくアイナの依り代を作れると思います。


「お前がそういうなら、できるんだろうな。アイナさん、キュアに任されてくれるか?」

「うむ、私はキュアラを信じるのだ。よろしくなのだ! キュアラ」

「アイナと一緒に冒険するためなら何でもするよ。じゃあ行ってくるね。瞬間移動(テレポート)


 そして私は、あの魔神さんから聞いた〝魔の渓谷〟へと向かうのでした。


 


 魔の渓谷。その渓谷のどこかに魔界と繋がる門があり、その門から溢れ出る濃密な魔の瘴気が空間を侵食している。

 かつてここは、伝説の鉱物オリハルコンの産出地だった。

 しかし、20000年前魔界と繋がる門が現れたことで、大地が魔の瘴気により侵食され誰一人近寄ることのできない魔界の強大な魔物が蔓延る死の渓谷と化した。

 その15000年後、大地は魔の瘴気に完全に侵食された。

 すると大地に埋蔵されているオリハルコンが魔の瘴気に侵され禍々しく変質した。

 かつての神々しい輝きは失われ、どす黒い光を放つ〝死の鉱物〟へと成り果てた。

 その鉱物の名は、〝冥巌鉱物(イモータル)〟。

 虚無の衝撃で壊すことができないものの一つで、人間界ではその名前すら知られておらず、魔界の五人の王〝冥獄五裁〟への献上品として採掘される。

 私はこの〝冥巌鉱物(イモータル)〟をアイナの依り代とするつもりです。

 私は天高くまで飛翔し、禁呪級の魔術を発動させます。


乖離(ワールド)された世界(・デタッチメント)


 まずは渓谷全体を絶対不変の結界で封じ込めます。

 結界内ならば周りへの影響を考えずに全力で魔術を使えます。

 〝冥巌鉱物(イモータル)〟は、渓谷の地下4444メートルに存在し、その情操を覆う岩盤は魔の瘴気に晒されオリハルコン並みに硬質化している。

 これから〝冥巌鉱物(イモータル)〟をどうやって取り出すか。それも禁呪級魔術を使えばクリアです。

 魔界には虚無の衝撃(ヴォイドライブ)をも上回る威力の魔術が存在する。

 その術の名は——


極滅(アトミック・デ)死爆(ストラクション)‼」


 極滅(アトミック・デ)死爆(ストラクション)——魔界の禁呪。それは〝死〟と〝破壊〟が融合した極限の崩壊現象を引き起こす究極の破壊魔術。


 私が叫んだ瞬間、物理法則が崩壊を始めました。

 頭上に米粒サイズまで圧縮された私の超高密度の魔力が出現し、魔の瘴気をも掌握し、吸収していきます。

 凄まじい圧力に大地が円状に陥没し、逃げ場を失った大気が悲鳴を上げ空間を歪ませます。

 その破壊の極点から臨界を超えた一筋の漆黒の光が放たれる。

 亜光速で撃ち抜かれた岩盤は、その圧倒的な力場の奔流に抗う術もなく、音すら置き去りにして虚無へと消し飛ばされていった。

 渓谷は見る影もなく、そこにはただ漆黒の大地が広がっているだけでした。

 漆黒の大地。それら全てが〝冥巌鉱物(イモータル)〟なのです。


「無限収納」


 私は収納魔法で空間ごと大地そのものを〝収納〟しました。

 これらが悪用されてしまわぬように。


瞬間移動(テレポート)


 そして私はザガルとアイナの下へ帰るのでした。


 

 この時の私は後に起こる大事件を知る由もなかった。


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