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第二章 癒しの花の冒険 前編 その6 記憶の回復

 ザガルの話を一通り聞き、私は全てを思い出しました。

 そして記憶とともに超能:『昇華』が戻ってきたような感じがしました。魔力の量が以前よりも少し増えたのです。


「全部思い出したよ。ザガル。今から超能を使うから少し離れていて」

「そいつは良かった」


 歯を見せて笑うザガル。とてもかっこいいです。


「超能:『昇華』」


 そう唱えた瞬間私の身体は輝き、背が伸びていき、身体に丘と谷が出来上がりました。


「久しぶり、ザガル」


 私は嬉しさのあまり、ザガルに抱き着きました。そして手を絡ませ、ザガルの感触を確かめました。


「ああ、久しぶり」


 ザガルも嬉しいのか涙目になって、私の髪を撫でました。


「もう死にたいとは思わないか?」


 笑顔で抱き着く私にザガルは質問しました。


「うん。もう絶対に死ぬなんて言わないだから、いつまでも一緒にいよう」


 私は笑顔で頷くのでした。

 〝好き〟という感情は死にたいなんて感情すらも消し去るほど強大なものなのです。


「良かった」


 ザガルは今まで見た中でも一番の笑顔を見せました。

 それほど私が死ぬのが怖かったのでしょう。


「ザガル」


 そんなザガルに私は提案をするのでした。

 ——今日は一緒に寝ない?

 と。

 その夜、私とザガルは同じ布団で抱き合って寝たのでした。




 翌朝、先に目が覚めた私は感謝の気持ちを込めて料理を作ろうとしました。

 そこで思い出しました。


(材料がない!)


 どうしようと困っていると、洞窟の隅っこに大きな袋と壺がおかれていることに気が付きました。

 その袋の中には、私がザガルに頼んだ山菜やスパイス、野菜が。壺には川魚が。

 もしかしたらと思い、洞窟の入り口付近に行ってみたら、野鳥が蔦に縛られて置いてありました。

 川魚と野鳥はちゃんと血抜きと内臓の処理をしてくれました。


「ザガルがしてくれたんだ」


 私は嬉しかった。

 そして気持ちよさそうに寝息を立てているザガルの横に座り込みました。


「ありがとう」


 私はザガルに向かって呟きました。


「ん……」


 ザガルは何かを感じ取ったのか、寝返りを打ちました。


「フフッ」


 その様子を見て私はとても微笑ましく感じました。

 私はその右の頬にキスをしました。


「今からザガルのために料理を作るね」


 そう言い残し、私は立ち上がりました。


 今日のメニューは、ザガルが採ってきてくれた新鮮な山菜と川魚と野鳥を使った二品です。

 前菜は、山菜の塩茹でです。

 沸騰したお湯に塩を加え、山菜をサッと茹でます。

 ポイントはゆであがったらすぐに氷水にとって色止めをし、水気をよく絞ることです。盛り付け、上から追い塩をしたら完成です。

 メインディッシュは、鴨と山菜の山椒塩焼きです。

 まず鴨肉全体に塩と胡椒を強めに振り、熟成させます。熟成には時間がかかるので、私は超能:『昇華』を使って早く済ませます。

 ここでポイント。

 鴨肉の皮目に包丁で格子状に切れ目を入れます。こうすることで脂が出やすくなり皮がパリッと仕上がります。

 そして山菜を食べやすい大きさに切り、あらかじめ軽く塩茹でして水気をよく切っておきます。

 お待ちかね、鴨を焼く作業です。

 フライパンを熱し、鴨肉を皮目から入れます。脂がたくさん出てくるので、その油をスプーンですくって肉の表面にかけながら、弱めの炎でじっくり焼きます。

 鴨に火が通ったら一度取り出し、フキの葉で包んでおきます。フライパンに残った鴨の旨味たっぷりの脂で、山菜をそっとソテーします。ここで軽く塩で味を整えます。

 最後に鴨肉をスライスしてお皿に盛って、ソテーした山菜を添えます。最後に挽き立ての山椒を全体にたっぷりと振りかけて完成です。


「旨そうだな」


 ちょうど盛り付けが終わったところでザガルが起きてきました。


「うん! 今日は自信があるよ」


 すごいでしょというばかりに私は胸を突き出しました。


「ああ、そうだな」


 そう言いザガルは私の頭に軽く手を添え、右の頬にキスをしました。


「ッ!」


 びっくりしている私に対して、ザガルはいたずらっ子のように言うのでした。


「仕返しだ。キュア」


 私の顔が一気に赤くなっていくのを感じました。


「起きてたの⁉」


 私は思わず叫んでしまいました。


「ああ。材料がないって困ってたり、ありがとうって」

「わぁぁあぁぁー!」


 私は照れているのを隠すように叫び、これ以上喋らないように手でザガルの口を押さえようとしましたが、つい手ではなく〝口〟でザガルの口を押さえつけていました。


「「んっ!」」


 二人して驚きました。それも束の間、ザガルは私の腰に手を回しました。私もザガルの頭に手を添えました。

 そして洞窟の中に朝日が差し込み、二人の影を照らし出します。

 私が先に口を離し、ザガルに言います。


「さあ、早く食べないとせっかくの料理が冷めちゃうわ」

「そうだな」


 二人で並んでテーブルに座ります。

 二人一緒に手を合わせます。


「「いただきます!」」


 まずは前菜から頂きましょう。

 山菜の甘味が塩によって引き出されています。そしてシャキシャキとした食管が最高に良いです。


「うめえ。シャキシャキって食感が最高だな。どうやったらこんな食感に?」


 ザガルも気に入ってくれて何よりです。あと、ザガルが料理に興味を持ってくれてとても嬉しかったです。

 次にメインディッシュを頂きます。

 鴨の油と山菜の苦味、山椒の爽やかな痺れが一体となった、シンプルながらも奥深い味わいの一皿です。


「う~ん。これは肉肉しくて、俺好みの味わいだ。流石だな」


 これもザガルに好評で嬉しかったです。それにしても美味しいものを食べてる時のザガルは本当に可愛いよな~。

 私がぼ~っとザガルを見ていると、ザガルが覗き込んできました。


「疲れたか?」

「あっ、いや大丈夫だよ。ザガルって本当に可愛いなって思ってね」

「えっ!」


 ザガルの顔がすごい勢いで赤くなっていきました。


「あれっよく見ると、角も赤くなるんだね」


 私は角の先端をちょんっと触りました。


「あっそこは」

「えっ」と私が戸惑いの声を発する間もなく、ザガルの身体が光りだします。


 ザガルの身体は、みるみる手足が短くなり、みるみる胴が長くなっていきました。そして、体の表面が

龍の鱗に覆われていきました。

 光が収まると、そこには巨大な龍がいました。


「すご~い。ザガルが龍になった!」

「あれ? 俺のこと怖くないの?」

「? 全然。だってザガルだって分かってるもん」

「あっそう。……………ウッ」


 ザガルが泣き出してしまいました。


「えっどうして泣き出すの?」

「いやっだって俺のこの姿見ても、いつもっ通り接してくれったのっ初めてだから」


 ザガルにとって龍の姿は、ただ辛い出来事を自らに引き寄せるだけの災厄なのでしょう。だから私はザガルに抱き着き、寄り添うのです。


「ザガル。貴方が心に負っている傷はすごく深いものなんだと思う。だけど、それを乗り越えていかなきゃ。そうしないと主様に嫌われちゃうよ」

「あっ。そうだな、ありがとう」


 ザガルは何かに気付いたようです。


「ところでどうやって戻るの?」

「ああ、それは角に触れたものの魔力を角に込めることで戻るよ」

「そう」


 私は頷き、すぐに魔力を角に込めます。

 すると、ザガルは龍になった時と同じように光り輝き、手足が伸び、銅は縮み、元の姿に戻りました。

 そして私は、もう一度ザガルに抱き着きます。


「これから一緒に互いの傷を癒やしていこうね」


 私は腕の中のザガルに向かって言うのです。


「あぁ、一緒に」


 そして私たちは、本日四度目のキスを交わすのでした。




「今日は何をする?」


 一緒にお皿を洗っていると、唐突にザガルが聞いてきました。


「う~ん」


 私は少し考え、こう言いました。


「手合わせ願えないかな? 超能を生かした戦闘をしてみたくて」

「おっ、いいな。それなら俺も本気を出せそうだし」

「そういうことなら、早く片付けをしないと」


 私は急いで洗浄魔法を発動させていきます。


「待て、ちょっと片付けが終わったら少し話を聞かせてくれないか?」

「何を?」首をかしげる私です。

「ソレスナに攫われた後、何があった?」


 ガシャァァァアァァン‼


 私は驚いて、思わず手を滑らせてしまいました。


「大丈夫か⁉ ごめんな俺が悪かったデリカシーがなかったよな」


 ザガルは修復魔法を発動させながら謝罪します。

 そんなザガルの言葉を私は否定します。


「ううん。どうせ言うことになるんだし、早く言っておいた方が心も楽になるしね」


 私は笑って見せます。ザガルが心配しないように。


「そうか……」


 そう呟いたザガルは俯いてしまいます。恐らく私に気を遣わせてしまい申し訳ないと思っているのでしょう。こうなったら早く話してしまった方がお互いの為です。

 私はザガルの手を握ります。


「ザガル。これを知ってしまったら、もう後戻りすることはできない。それでもいいの?」

「当たり前だろ。俺はお前と共に生きるって決めたんだ」


 そしてザガルも手に力を込めて握り返しました。私は嬉しかったです。


「それじゃあ話すね」


 そして私は説明するのです。



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