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第二章 癒しの花の冒険 前編 その4 失われた記憶①

説明が長ったらしいところがあるので読み飛ばしてもらっても構いません


 俺は主様の国の幹部になって初めて特別な任務に当たらせてもらっていた。

 人間に化けて街に潜入する任務だ。

 その街の周辺では軍の兵士たちがなぜか忽然と姿を消す事件が次々と発生した。そそこで街に原因があるのではと考えた我が主は、俺に街に潜入する任務を与えたんだ。

 そしてそこで俺が見たものは、痛めつけられた子供たちが祭壇に乗せられ、天へと昇っていく子供たちだった。

 その全員が泣いていたんだ。

 その時、精霊魔法:精霊伝達による通信が入った。


「またも兵士たちが20人、消えました!」


 俺はハッとなった。

 その天へと昇っていく子供の数もちょうど20人だった。

 俺は黒焔でその場にいる全員を焼き尽くしてしまいたい気持ちになった。

 俺が怒ったのは、仲間を消されたからではない。

 目的のために未来ある子供を殺したからだ。

 そんな時一人の少女が儀式を止めようと泣きながら突っ込んでいったんだ。

 その少女は魔力弾を走りながら放っていた。

 しかし照準は全く合っていなかったから、無意識に撃っていることが直ぐに分かった。

 けれど、その魔力弾の威力はとてつもなく決して攻撃が当たらなくても、着弾した地点には直径約7メートル、深さ2メートルほどのクレーターができていた。

 どれほどの威力があるのか確かめるために、俺は〝超能〟を開放した。

 俺の超能:『鑑定』は物体を構成する物質や、その移動速度を見ることができる。

 魔力弾の硬度と密度は最低位ランクモンスターのピコロスライム(ほぼ水のスライム)とほぼ同じで、直径50センチメートルの完全な球体。まず体積は3分の4×円周率×半径×半径の3乗なので、これに数を代入して計算すると体積は約0.0654立方メートルになる。そして質量は密度×体積で求められるので1000×0.0654で約65.4キログラムとなる。

 次に運動エネルギーを求める。運動エネルギーは2分の1×質量×衝突速度メートルの2乗で求めることができる。見たところ、魔力弾の衝突速度が秒速21000メートルだから公式に数を代入して運動エネルギーは約14.42ギガジュールになる。

——ちなみに1ギガジュールは垂直方向に一トンの物質を約100キロメートルまで打ち上げるほどのエネルギーである。

 そして入射角が40度だから有効エネルギーは正面からのエネルギー×角度による目減り率(0度を1として、90度を0とする)で求められるからこれに数を代入すると、5.96ギガジュールになる。

 この時俺はこう思っていた。


(5.96ギガジュールは巨大な鉄の塊を一瞬で粒子レベルまで解体し爆散させるほどの熱量だ。この威力を少女が無意識に生み出しているとしたら、面白い!)


 その時、遠距離から街に駐留している帝国の兵士が魔法を放った。


「ハハッ!」 


 葬来の呪言——名前はとてつもない効果を発揮しそうな名前だが、決してそんなことはない中級の魔術だ。感情や精神のコントロールができていない情緒不安定な場合に限り、効果を発揮することがある。術者や対象の魔力によって成功率が変動するが、大体は20パーセントの確率で対象の魂を破壊することができる魔術だ。


「失せろ!」


 だが少女に対して、その効果は皆無だった。

 少女が叫んだ瞬間、呪言は雲散霧消してしまった。


「クソッ‼ 炎のファイヤアロー


 兵士が魔法を放った。


「邪魔だ!」


 だがこれも少女が叫んだだけで、雲散霧消してしまうのだった。


「畜生‼ 兵士よ、集え。アデール・ミリテオス‼」


 次の瞬間どこからともなく、四人の兵士が飛来した。


「助太刀するぜ!」


 その中の爽やかな美男子が髪をかき上げながら言った。


「きも」少女が反応した。妥当な反応だと思う。

「何だと小娘! 俺のかっこよさが分からないか⁉」


 どうやら少女は美男子の逆鱗に触れたみたいだ。


「分からない。そうやってすぐにキレることのどこがかっこいいのか分からない」


 とても正論だと思う。


「ふぬ~。小娘~。どこまで俺をコケにする~」


 それにしても美男子が恥をかいて頬を真っ赤に染める表情。実に愉快だ。


「許さん!」


 次の瞬間、街に突風が吹き荒れた。


「精霊召喚! 風の若人(シルヴェストル)!」


 そして美男子の隣に美男子そっくりな美男子が現れた。


「風の若人よ。対象を切り刻め。真空屠殺(ゼロ・エクセキューション)!」


 マントを翻し美男子が叫んだ。だせ。

 そして真空波が彼女を襲った。そして少女の血飛沫が舞…………………わなかった。

「何⁉」


 美男子が叫んだ。


「痛くも痒くもないね。こんな貧弱な攻撃——」

「黙れ! まだだ! もう一度! 真空(ゼロ)——」


 マントを翻しもう一度魔法を放とうとした美男子だったが、魔法は発動されなかった。


「人の話は最後まで聞こうよ」


 一瞬で美男子の元に移動した少女が鳩尾に強烈な一撃を放ったからだ。


「雑魚が粋がっているんじゃない」


 そして次の瞬間、少女の拳から真空波が発せられた。


「グハッ‼」

「これが本物の風の精霊術だ」

 

 美しい深紅の瞳を輝かせながら、言い捨てた。

 その時、地面に横たわっている美男子が「ぐっ、何て……かっこいいんだ」と呟いたのは気のせいだろう。


「次の相手は誰だ?」

「俺だ。風のやつの仇は俺が討つ」


 金髪のロン毛が出てきた。そいつも中々の顔立ちだ。興味ないが。


「精霊使役——火の(サラマンダー)!」


 サラマンダーは火属性の中級精霊だ。さっきの美男子よりも高いレベルの精霊術を使っているな。


「我が魔力(ちから)を糧に精霊の鼓動を増幅せよ。一念投射:炎‼」


 一念投射——術者の魔力を精霊の核へと注ぎ込み、属性エネルギーへと変換・射出する中級魔法。その特性は媒介する精霊の属性によって変化する。炎属性は精霊が巨大な火槍を生成し放たれる。爆発的な熱量による「貫通」と「灼熱」が特徴。水属性は超高圧の水流を生み出す。重い衝撃による「鈍器のような打撃」と高圧による「鋭い切断」を併せ持つ。風属性は目に見えない幾重もの真空の刃を放つ。空気抵抗を排した「超高速」の連撃が対象を微細に「切り刻む」。土属性は大地から吸い上げた岩石に魔力を宿らせ白熱する礫を投擲する。圧倒的な「質量」で逃げ場を奪い対象を「粉砕」する。いずれの属性も、その威力は術者の注ぎ込む魔力量によって大きく変動する。

 ロン毛の属性は炎。あの少女が果たして熱にも耐えられるのやら。


氷結魔法(フリーズ)


 パキィーンと気持ちの良い音を立てて火槍が少女の目の前で凍った。


「………………………」


 ロン毛は自分の髪がチリチリと燃えていることにも気付かぬほど驚いていた。

 それもそのはずだろう。人間の常識では下級魔法はどうやろうと中級魔法の下位互換でしかない。だが魔族の常識ではそんなことは関係ない。術者の魔力が絶大だったら下級魔法も上級魔法に匹敵する効果を発揮するのだ。


「あぁ。俺の美しい髪が‼」あ。やっと気付いたのか。滑稽だ。

「こんな雑魚しかいないのか。王国の兵士も大したことないな」

「ぬわぁにお~。今からとっておきを出してやる。びびって漏らすんじゃねぇぞ」

「やっとか。いいよ、見せてみなよ。だけどそれに耐えたら僕の勝ちね」

「おうよ。おい、お前ら」


 そして三人の兵士たちは魔法陣を展開させた。


「「「深淵に住まう。闇の精霊よ。我等の願いを捧げ奉る。我を汝の力を欲する。標的を滅し勝利を我が物とするために。出でよ。闇の精霊よ。漆黒典礼‼」」」


 漆黒典礼——闇の精霊を召喚する専用の魔法だ。常人には単独での発動は不可能。


 街に黒雷が落ちる。漆黒の竜巻が吹き荒れる。

 闇の世界と人間世界が繋がりを持った影響だ。


「「「出でよ、闇を支配する精霊(エールシェイド)‼」」」


 魔法陣が不吉な唸りを上げ、地響きとともに大気を震わせる咆哮が轟く。そして、光を呑み込む影の中から生気のない眼窩を持つ巨人が悠然と、しかし確実に姿を現した。


 闇を支配する精霊(エールシェイド)——特上位魔人に匹敵する強さを持ち、かろうじて上位精霊の座に列なる実力を有している。生物に触れるだけで精神体を蝕み未熟な精神は摩滅させる危険極まりない闇の精霊。


「やれエールシェイド。死を謳歌せよ。闇の讃美歌(ダーク・ドクソロジー)


 周辺の大気は闇の瘴気に侵され、瘴気に触れたものの身体は魂ごと崩れ去っていった。

 まさに死を渇望する街。街には絶望が溢れていた。


「どうです。すばらしいでしょう。闇の上位精霊の力の前にはすべてが無意味です!」


 すっかり得意気になったニヒルの男がそう叫んだ。実力差も知らずに。


「……黙れ」

「ん~、何と言いました?」

「……………よくも街の人たちを」

「大義の為に死ねるのなら幸せでしょう」


 ニヒルな男が歪んだ笑みを浮かべた。


「………………許さない」

「黙りなさい。まだ実力差が分からないのですか?」


 その時俺は何か『嫌なもの』を感じ取り、その場から飛びのいた。


「殺す」

「‼」


 その瞬間少女の魔力が増幅した。


「夜の帳を吹き飛ばし天に大穴を穿て! 核撃魔法:天穿砲(エーテル・カノン)‼」


 そして少女から極大の魔力砲が放たれた。

 闇を支配する精霊(エールシェイド)に向かい一直線に放たれた魔力砲は、その巨体の腹に直撃し、身体が宙に浮いた。そしてそのまま遠方へと吹き飛ばされていった。


「ゆし! このままっ追撃っ!」


 そして猛スピードで空を駆ける少女。


「何⁉」


 驚きつつも冷静に飛翔魔法で追い掛けつつ魔法を放つ兵士たち。


「グゴォォォ‼ コロす‼」


 本能のままに闇の魔術を発する闇を支配する精霊(エールシェイド)

 空で壮絶な攻防が繰り広げられていた。えっ参戦しないかって。そりゃレベルが低いからな。面白くねぇよ。


「死ね‼ 炎の(ファイヤアロー)‼」

「その攻撃、鬱陶しいんだよ! 水の(ウォータースピア)! んっ?」

「何だ⁉」


 少女が魔法を防ぐために魔法を出し相殺した、そのタイミング。大気に異常が発生した。

 水蒸気爆発が怒ったのだ。


「一体何だ⁉」


 戦闘中に予想外の出来事が起こったため、兵士たちは混乱している。

 そしてその影響で闇を支配する精霊(エールシェイド)もどうしたら良いか分からず、その巨大な手足を振り回している。

 それは少女にとって、絶好のチャンスだった。

 少女は一気に天空へと上昇し、魔力を高めた。


「許さない! 街をみんなを……めちゃくちゃにしたお前たちを絶対に許さない! はぁぁあぁぁぁ——」

「くそ! 太陽の逆光で魔法の照準が合わない!」

 

 闇雲に魔法を放つ兵士と闇を支配する精霊(エールシェイド)だったが、そのどれもが少女には届かなかった。太陽の逆光こそが少女の狙いだった。そして天空には着々と大魔法を放つため魔力を高める少女がいた。


「お前たちは殺す! 俺の全力を受け、死して尚抗えぬ罪の重さを味わうがいい! 核撃魔法:星屑の天災(メテオ・カタストロフ)‼」


 天空から降り注ぐ数多の流星。そのどれもが先ほど放った核撃魔法:『天穿砲』と同等もしくはそれ以上の威力を誇る。


「くそ! こんな少女に——」

「俺の人生はここで終わりなの……か」

「ここで死ねば、確実に呪いを——」

「嫌……だ……」


 そして四人の兵士たちの人生は終わったのだ。

 だがそれでも核撃魔法:『星屑の天災』は止まらない。それどころかより一層勢いを増して今にも地面に衝突してしまいそうだ。


「しょうがねぇなあ」


 俺は一瞬で核撃魔法の目の前に移動した。

 俺に向かって迫る核撃魔法は、俺からしたら軟弱なものだった。


「消えろ」


 核撃魔法は俺の手に触れた瞬間に消えた。俺が超能:『鑑定』で核撃魔法の構成を完全に読み解き、魔力を分散させたからだ。


「どうやって……俺の核撃魔法を……」


 少女は心底驚いているみたいだ。いや~実に愉快。


「くそ! もう一度核撃魔法を」

「違うぞ。俺は敵じゃない」

「嘘つくな! そうやって俺は何度も痛い目に遭ってきたんだ! 殺す! 核撃魔法:龍星爆華(ドラゴ・フルーエル)‼」


 長く白く輝く流星痕がまるで龍のように見えるそれは着弾した地点には何も残らないほどの威力を持つ。


「やれやれ。話を聞かないお嬢ちゃんだ」


 そして俺はそれに手をかざした。そして呪文を唱えた。


「核芯崩壊」

 

 短く唱えたその呪文は物の核心となる部分、つまりここでは術者の圧縮した魔術を崩壊させ、運動エネルギーを完全にゼロにする呪文だ。大抵の放射系魔法はこれを使うだけで無効化できる。


「くそ~!」


 あからさま悔しむ様子を見せた少女に向かって俺は叫んだ。


「お前、良い線行ってるな。よければ俺達の国に来ないか?」


 俺は主様に言われたことを思い出す。

 ——素晴らしい実力や才能を持つものを見つけたら俺に相談しなくていいから連れて来い。だが、無理に連れてきては駄目だ。印象が悪くなってしまうからな。良いな。


「お前の力を。役立てるためだ。くだらない奴らにはその力、やりたくねぇだろ?」


 俺は少女に近付いた。


「俺は戦いが好きだから戦っている。誰かの為じゃない自分のために戦うんだ! 悪いが断らせてもらおう。それでは俺は村に帰る」

「そうか、じゃあな」


 そして俺は空間を俺の国へと繋いだ。このことを主様に報告するために——。

 その時だ。


「うっ!」


 背後から呻き声が聞こえた。


「何だ?」


 俺は振り返り、刹那絶句した。

 少女の身体から人間のそれとは異なるどす黒いオーラが溢れ出ていた。


「どうした⁉ 大丈夫か⁉」

「もう限界が……うっ!」

「おい⁉」


 その時少女が飛翔魔法の使用を停止し、昏睡状態に陥った。


(無理に魔力を使った影響だろうか)


 そう考えた俺は介抱するため少女を王城へと連れて行った。


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