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アンセストリー  作者:
5/6

放棄の選択


 拳を振り上げ、手ごたえが薄いことが憎い。


 殴ることに慣れていなかったからだ、拳に力も勢いもない、そんな拳が頬を掠った程度では怯むはずもない。


「てめぇ!じっとしてろやッ」


 思わず理不尽なことを口にしてしまった、しかし、俺は悪くない


「ぶつかったのはワザとじゃない!誰が狙って突き飛ばすんですか!」


「お前…意味…わかってて言ってるのか?」


「……何も感じてないわけじゃない、だから此処にいるんだろ、貴方の思うような人間なら、とっくに逃げてるさ」


「は……?」


「………」


「…」


 ……確かにそうか……


 いや……


 そうじゃない……


 そうじゃないはずだろ……



「…」


「…」



 思うような言葉がでず沈黙が流れた…


 男はただ返答に待ち構えていた、それ以外その顔に映るのは、俺に対する冷ややかな視線だ。


 頭に血が上るとはこの感覚のことか……


「…」


「…」


 続く沈黙は、本当は俺が間違っていたのではないかと


 まるでたたみかけてくるように……


 問われているみたいだ。


 何が言いたいのだ


 不愉快だ、不愉快極まりない



「…」


 そして、そいつはついに呆れたように俺の返答を待つのをやめ、少女の方へと足を進めた。


 その際俺に目も合わせずに、まるでゴミを捨て去るように、横を通っていきやがった。


「……」


 何故だ


 何故、こいつが、被害者面して……


 まるで 俺が、俺が悪いみたいじゃないか


 俺が何をした…


 俺は何もしてないだろ……


 悪いのはお前じゃないのか……


 なのに……………


………………なぜだ……何故何も出てこない……



………………



「バカか……俺は…」


 俺は…ほんとに最悪だな…


 今は怒りを抑えるところだっただろ、それ以上に優先すべきことがあったはずだ。


「俺は…また……はぁ……」


 男は少女の傷口を押さえてくれていた 


 俺は…


「その子は助かりそうか…」


「…なんとも言えません、しかし、普通に考えれば……」


「…そうか…」


「…」


「さっきは悪かった…やりすぎたよ…血は止まりそうか?」


「…」


「他の傷口を押さえてください」


「…」


 短い言葉に冷たさと非難されたような感覚を覚える


 憎たらしいと感じる心を抑えて、少女の傷に向き合った。


 しかし。


「は……?え……?」


「……ッ」


「まじかよ…ッ…何なんだよ…これ…」


「…植物ですよ、彼女の身体に誘引されて出てきたんです……」


「は……これ…じゃ…」


まるで…



「まるで…」


 まるでヒルだ…


 地面から控えめに出てくる光景、徐々に増えていき、食いつきが激しくなっていく、ダメだ…


 惨すぎる光景に彼女の顔を見てしまう。


 目を閉じ深い眠りの中にいるような穏やかで救いようのない無表情だった。


「……」


 だがそれでよかった……


 これ以上地面には寝かせておけない。


 地面に触れさせては…


「もうここには寝かせておけんな…」


「……そうですね」


 少女に纏わりつくヒルのような蔦茎を優しく剥がし、これ以上身体に傷がつかないように、注意を払い、抱き抱えた。


「俺が抱えて走る、お前も一緒に来てくれ、もし俺が無理になったら代わって、協力プレイでもいいか?」


 少女を抱きかかえると、妙に軽く感じた、女の子だからだろうか、それとも血が抜けてしまったせいか


ポタッ


「…えっとあの…」


「どうした…なんかあった?」


「血流れてますよ…!」


「え……」


 慌てて、少女の身体に目を落とすが、変わったところは………


 少女の服に赤い斑点が一滴落ちた。


 その他にも何滴か落ちていた…


 鼻に覚えのある不快感と口に嫌な匂いが広がる。


 血が通っていくときのむず痒さ、何度も経験したあの不快感


 何故、鼻血が…?


 ポタッポタッポタッ


 何度も何度も落ちていく赤い斑点……


 止まらない…


「ちょっと代わってもらえるか……」


「……ポト」


「……お前も出てんのかよ」


「…はい…出始めましたね…」


「胞子か?」


「だと思います…」


「止めないと、まずくないか…?」



「いや、このまま走り抜けた方がいいです、止めてる時間の方が無駄でしかない」


「……」


……クソ


「……確かにな」



 ポタッポタッポタッポタッ


 赤いシミが増えるの見ていると、意識が薄れてくるような感じがしてくる


 胞子の影響かそれとも血の抜けすぎなのか、


 後者を神様は選びそうもない、いつものことか



 これじゃ救われねぇな……





 神よこの子を人のいるところまで連れてく


 せめてそれまで死なせないでくれよ


 最悪この二人だけでも


……いい






 このままこの感情に流されていたい


 こんな文が心中をよぎる。



 俺は今どこにいるのだろうか…?



「……飛行場へ走る……走れそうか…」



 蓋をした感情を忘れ、ふたたび俺は、流されていく



 相手を気遣う言葉を投げかけた。その一言が、上手く俺を緩やかな波にのせてくれる。



 そして男は鼻を手で抑え、


「はい……いけます」


 頼もしさののった声でそう言ってくれた。


 俺は静かにため息を吐いた。


 スッと空いた感情に任せよう。


「よし…行くか…」



_


 少女をかかえ、鼻血を拭い、飛行場へと急いで走る。全力疾走は無理なため、緩やかな速さではあるが、今出せる全力を出していた。


 鼻血が邪魔をし息つぎがしにくい、その分、息切れが早い。

 体力の消耗が早い。


「はぁ…っはぁ……っはぁ……っ」


 しかしそれ以前に、違和感を感じていた事がある。


「なぁ……この音ってさ……はぁ……はぁ…いつからなってる?」



「……そういえば…ずっとなってますね……いや…ちょっとおかしいです……」



 その音は葉が風に揺れた時の音と似ている、それもかなり音量が大きい。



「はぁ……はぁ……気にしてなかった…けど……なんか変だ……はぁ…はぁ…はぁ…ここら辺に木なんてあったっけ……」


「そうなんですよ……」



 息も絶え絶えの状態で、音のする背後に


 振り向いた。


 その正体を目にした途端



 全身の毛から爪先までその全てが


 痺れ


 時間が停止した。


 本能からの恐怖と


 生理的な拒絶


 深いところからの恐怖だ。




 そいつはあまりにデカく


 この世の終わりを示唆するには十分すぎるほど歪であった。



 寒気と震えが止まらない

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