偽善者……
正当化されることも、否定されることも決してない
とにかく逃げないとまずい
恐怖に慄きながら、後方にある飛行機へと向かうが、しかし、周りの人間が邪魔だ、群れるように動き、なりふり構わず逃げる民衆ども、まるで被害者は自分だけだと言い張るように自分を優先させる、そんな慌てようと逃げ方だ。
イラついてくる、イラつく、何なんだ、こいつら
「邪魔だ…」
「邪魔ってなんだよ!お前だけか!生きてんのは!」
お前が言うな、いちいち目の前をはしりやがって。
俺だって早く逃げたいんだ、それをお前らは見向きもしないでよ、どの口が言えるのか…殺意が湧いてくる
「すいません…!」
「てめぇ、後ろ走れやカス!」
こいつ…だめだ…なめすぎてる…
「ふざけんじゃねぇ!!考えてものいえや!イカれてやがんのか!」
あまりにふざけた発言に逃げながら、怒号を相手にぶつけていた最中
微かな声が脳裏に響いた
「おにぃ…ちゃん?」
「ぇ…」
消えてしまいそうな、霞んだ声だ。何かを堪えていた声だった
「何で一人なんだ?」
「どうしよぉ おにいちゃん どうしたらいいのぉ」
今にも泣き出しそうな、堪えた声でそういった。
「まてまてどうしたの」
「おいてめぇ、ガキもいるのに人の気持ちがわからなぇのか!」
子供が泣いている前でよくも続きを始められるものだ、今は黙ってやがれ。
「子供が泣いたんだよ、怒鳴るな…逃げたきゃ逃げたらいいだろ」
「…そうかよ…すっきりしねぇな」
「おじさんはどこいったの」
「ひと…りで…いきなさぃ..て」
「….そっか、どこにいったかわかる」
その少女が手を動かし、指をさした方向は…
「うそだろ….」
胞子雲の方向に指を指していた
「あっちにいったの…ひとりはやだ!」
よりによってなんでそんなとこに、自殺行為そのものだ。
助けに行くか、いや、行くべきなのか、この子のために、、いやそれだと、おれが…
それにこの子も…
俺が行ったらこの子は一人になって放置される、場合によってはこの子も…
周りの人間が保護してくれるとは限らない。
どさくさに紛れてってこともある…
別に俺が行かないことに非はないんじゃないのか、この子が死ぬ可能性があるなら、誰だって…そうだろ、しょうがないよな…
俺は間違ってない…
「ッ!!」
「おにいちゃんがあの人を助けに行く…必ず連れて帰る…」
「うん…わたしも」
「いいか…よく聞いて…その代わり、君は先にあの飛行機に乗るんだ」
「えぇ…でも」
一人で逃げろと言われて、震えた声で戸惑う少女、そらこの年じゃ一人は不安だろうな。
「なーくーな!縁起悪いなーまだしんでないぞー後で連れてくから、ちょっとまってなさい、おっけ」
鼻をすすりながら少女は力なく「うん…」も返事をした。
「よし強い子だ、それじゃ、乗ってきな」
「うん…わかった…」
とても不安だろうけど、がんば………
刹那の光景だった、迫ってくる胞子雲にあの憂鬱な男の影を見た、その瞬間だ。
何かが落下し鈍い音が聞こえた、その何かは、心臓に近い形相をしていた、血管のような茎が表面に張り付き、僅かに脈打っていた、歪な円形を帯びた本体はまるで、そう、心臓もしくは内臓のようだ。
本能と理性が警鐘を鳴らしていた、
これは異常な何かだと
「お嬢ちゃん!!逃げッ!!」
「あ!すいません」
遅かった
落ちてきたそれを見た民衆どもは一目散に走りやがった、目の前の物などまるで障害物のように気に留めない、例えそれが、小さな子供であったとしても、それは彼らにとって障害物でしかないのか…
それに巻き込まれ、蹴り飛ばされた少女が、落下地点の近辺に横たわっていた。
涙を堪えながら、立ちあがろうとする姿に、諦念と僅かな期待、その刹那に全てが入り混じっていた。
俺は体を動かしていた、体は重い、遅い、頭は回らない、全てが足らない。
知恵も精神も、全てが、全てが結果に出ている。
そして、それは突然、爆発した。
残酷なほど、あっけなかった、そして一瞬だった。
それは胞子を大量に含んだ爆発だった、爆発が止むと、辺りは霧のように、胞子に包まれていた。
一体それは何を意味するのだろうか…
走り始めた、その視界に、形のはっきりしない赤いものと黒いシミが、点々と地面に落ちていた。
それが少女のものではないことを、信じたかった。
「…お…ぃ」
「おにいちゃん、大丈夫…?」
胴体は腹部が血まみれで引きちぎられたように、赤い何かが飛び出していた、足も片方がなくなっており、その傷口も良くある切断されたきれいな断面なのではなく、何かが、傷口から飛び出ていた。激痛なはずだ、痛みで狂いそうなはずだ…
「おにちゃん…おじさん大丈夫かな…?」
「ああ…そうだよ…大丈夫だよ」
痛いはずなのに、痛みよりもこの少女にとっては重要なことなのか。
気持ちが分からない、すごいと思う、この歳で。
吐き気を催すような光景に何とか順応できてきたが、とうすればいい…
この子の傷は深いなんてものではない、このままでは
すると突然背後「あの…」と、今すぐにでも殴り殺したい、あのクズの声が聞こえた。
「すいません…ぶつかってしまって…ぁ…」
「おい、アンタよぉ、すいませんだと?ぶつかってしまって?殺されたいのか?」
「いや…なにぃっ…」




