突破口
キュロケスの脅威を前に足止めされた私たち。
何とかこの状況を突破するために思いついた方法とは……
「……ちょっと力技だけど、魔法絵札の冷却魔法を全開放しましょう」
つまりはそういう事。
上級の『絶対冷凍波』と同等の冷却魔法をもってすれば、目的地に至るまでの水路を凍りつかせる事ができるかもしれない。
そうしてしまえば、ここから先は天井も高いらしいから凍った水面を歩いていくこともできる……とは思うのだけど、そこは少し賭けになるかもしれないわね。
「ヤツを氷漬けにしちまおうってわけだ。良いじゃねえか、やってみようぜ」
「カチンコチンにしてしまうニャ!」
ジュリオとミャーコの同意も得たことだし、さっそく試してみましょうか。
鞄から冷却魔法の魔法絵札を取り出した私は水辺に近付いていく。
……そぉ〜っと慎重に足音を忍ばせ、何かあってもすぐに逃げられるよう警戒しながら。
護衛役の二人も私の両サイドを固めて襲撃に備えてくれていた。
そうやって私たちが水際に立っても、いきなりヤツが這い出てくる様子はなさそう……とホッと一息つくと、私は絵札の表面を水路に向ける。
そして……一気に魔力を流し込んだ瞬間、絵札は眩く青白い光とともに猛烈な冷気を放った。
極低温の吹雪が洞窟の奥に向かって吹き荒れると、空気中の水分が一気に凍結してダイアモンドダストのようにキラキラと輝き、水路がパキパキと音を立てながら瞬く間に凍りついていく。
そうして数十秒ほどもしてから冷却魔法が終息すると、そこには白い冷気が立ち昇る氷の道が姿を現していた。
「これで上手くいったかしら……は、ハックションッッ!!さ、寒っ!」
ただでさえ肌寒かった洞窟の中が一気に冷え込んでしまった。
たぶんしばらくはこのまま氷点下の状態が続くだろうから、水着のままじゃ辛すぎる。
早く服を着ないと……
「……こいつは凄まじいな。これならあのタコ野郎もイチコロだろ」
「マスターを虐めた報いですニャ」
見た感じ私たちが歩けるくらいには厚い氷が張ってるみたいだし……例えヤツ自体は凍りついていなくても、たぶんこれなら水上に出てくることはできないでしょう。
でも服を着たら氷が溶けないうちにさっさと通り抜けてしまったほうが良さそうね。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
水面を覆った氷はかなり分厚く、私たちが歩いてもひび割れる心配もなさそうだった。
それを確かめたあと、私たちはいよいよ氷の上を歩き始める。
あまりに凄まじい冷気が吹き荒れたためなのか、洞窟壁面の水分は凍りついてキラキラと青く輝き、天井から滴り落ちる水滴も氷柱となっていた。
私は外套まで纏ってすっかり完全防備となっているのだけど、それでも身を切るような寒さにぶるぶると小刻みに震えてしまう。
ジュリオとミャーコは平然としているのが解せないわ。
「うわっと!?あ、危ねぇ……すっ転ぶとこだったぜ。二人とも、足もとには気をつけろよ」
「ええ、ゆっくり行きましょうね」
「にゃ〜、ツルツル滑って楽しいですにゃ〜」
もともと流れも穏やかだった水面は、極低温の冷気によってほとんど波を立てることもなく瞬時に凍りついてしまった。
だからまるでスケートリンクみたいに平らでツルツルの状態なのよね。
油断してるとすぐに滑って転んで固い氷に頭をぶつけてしまうかもしれないから、かなり気をつけて歩かないと。
……ミャーコは随分楽しそうに、それこそスケートをするみたいに滑ってるけど。
ともかく、私の思惑通りに氷の道が出来上がり、これならキュロケスに襲われる心配もなさそう。
あとは最深部までこの道が続いているのを祈るだけ……と思ったのだけど。
慎重に歩いていてもどうやら泳ぐよりはペースが速かったようで、それほど時間もかからずにゴールは見えてきた。
水没地帯が終わりを告げ、再び通常の洞窟へと戻ったのだ。
「よし、なんとか抜けたな」
「ふぅ……一時はどうなることかと思ったわ」
まさか想定外の魔物に襲われて溺れかけるなんて思わなかったもの。
二人が居なかったらと思うとゾッとするわ。
ジュリオが真面目に救命措置を教わってなかったら助からなかった……っと、恥ずかしい記憶も思い出しかけたので、慌ててそれを振り払う。
ま、まあ、彼に護衛を頼んだのは間違いなかったとは思うわよ。
それはともかく……もうゴールは目前だ。
色々問題はあったけど、どうにか目的は果たせそうかしらね。




