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魔法絵師マリカの不思議なアトリエ  作者: O.T.I
空と海の青《アズーロ》

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救命措置


 ふわふわと水の中で揺られるような感じがしたあと、誰かに引っ張り上げられていくような気がした。

 そして、私の意識も水の中から浮かび上がるように次第にはっきりとしていく。


 ゆっくりまぶたを開いていくと、薄暗い洞窟の天井がまず目に入った。

 ゆらゆらと揺れるオレンジ色の光はランタンのものかしら?

 そっか、私が気を失ったから光明(ルーチェ)の魔法も切れて…………

 っ!!

 そうだった!!


 記憶が途切れる直前の出来事を思い出すとぼんやりしていた頭が一気に覚醒し、私はガバっと跳ね起きた。


「あいつはっ!?」


「に゛ゃっ!?」


 突然起き上がった私に、傍らで見守っててくれたらしいミャーコがびっくりする。

 そして慌てて周りを見渡すと、すぐ近くにいたジュリオの姿も目に入った。


「お、目ぇ覚ましたか」


 そう言いながら彼は安堵の表情を私に向ける。

 私もどうやら全員無事だった事が分かり、安心してほっと胸を撫で下ろした。


「マスター、大丈夫ですかニャ……?」


「ええ、大丈夫よ。心配かけてごめんね」


 特に身体の異常も感じられないし、問題はないなさそう。

 心配そうな顔をしていたミャーコを安心させようと頭を撫でてやると、彼女は嬉しそうに目を細めた。


 それから改めて周囲を見渡すと……この場所は、もともと休憩しようと考えていた上陸ポイントのようね。

 と言うことは、何とかヤツ(・・)の追撃を振り切れたというこということかしら?


「マリカの魔法に驚いて触手を離してくれたから、急いでここまで避難してきたんだ」


 私の考えを見透かしたようにジュリオが説明してくれた。

 一か八かの賭けはどうやら成功したようね。

 でもそれで私は溺れかけて、二人がここまで引っ張り上げてくれたということみたい。


「二人ともありがとう。助かったわ」


「いや、あんたの機転がなかったらどうにもならなかった。全く……護衛なのに情けねぇぜ」


「にゃ……ミャーコもお役に立ちませんでしたニャ……」


 二人とも、不甲斐ないとばかりに沈んだ表情を見せる。

 でもあんな状況だったんだから仕方がない。

 私は何とか魔法を撃つので精一杯だったし、そのあと気を失っちゃったんだから、二人がいなければ今ごろ私はヤツの腹の中……よ。

 こうして全員無事だったんだから、万事オッケーでしょう。


「あんな化け物相手に水中戦なんて、どうにもならないわよ。それにあなた達がいたから賭けにも出る事ができたのだし、こうして助かることもなかった。本当に感謝してる」

 

「そう言ってもらえると助かるが……しかし本当に危なかったんだぜ?あんた、たらふく水を飲んじまって呼吸も止まっちまってたし……」


 うそっ!?

 そんなにヤバい状態だったの!?


 自分が死ぬ寸前だったことを聞かされて驚き、今更ながらその時の恐怖が襲いかかってくる。


「よくそんな状態から助かったわ……ジュリオが助けてくれたのよね?」


「あ、あぁ……ギルドで受けた救命措置の講習が初めて役に立ったな」


「へぇ、ギルドってそんな事もやってくれるのね…………って、どうしたの?」


 私はギルドの取り組みに感心したのだけど、どういうわけかジュリオは私から目を逸らして顔を赤くしている。


「い、いや、なんでも……」


「ジュリオがマスターにチューしてたですニャ」


「あ!?こらっ、そんな誤解を与える言い方するんじゃねーよ!!……い、いや、違うんだ……水をたらふく飲み込んで呼吸が止まってたから、仕方なくだな……」


 ああ、そういうこと。

 私の呼吸が止まってたから、彼が人工呼吸をしてくれたってことね。

 うん、大丈夫よ。

 私の命を助けるためだったんだから、そんなの全然気にしないわ。


 ……と、努めて冷静に、それはあくまでも緊急的な救命行為だったと自分に言い聞かせようとしたのだけど。


「お胸も触ってたですニャ」


「ばっ!?おま……だから、それは!!心臓マッサージっつって……と、とにかく!やましいことは何もしてねぇぞ!!」


 大丈夫……大丈夫よ。

 あくまでも私を助けるためだもの。

 命を救われて文句を言うなんてありえないわ。


 だけど……


「な、なあ……俺ぁ、本当にただの救命措置で……」


「うん!分かってる!大丈夫、気にしてないわ!本当にすっごく感謝してる!ありがとう!」


「お、おう……」


 私は救命行為に文句をつけるような恩知らずじゃないわ。

 でも恥ずかしいものは恥ずかしいから、ついつい口調が強くなってしまうのは許してちょうだい。



 それにしても……さっきの着替え中のことと言い、ジュリオってば相当なラッキースケベ属性の持ち主のようね……これは油断ならないわ。


 それに私も前世込みでもう〇歳だけど、恥じらう気持ちが残ってるあたりまだまだ枯れてないわね。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「さて……とりあえず、ここまで追ってくる様子は無ぇみてえだが……どうしたもんか」


 気を取り直して現状確認。

 何とかキュロケスから逃れることはできたのだけど、依然として脅威は去ってない。

 ヤツが水中に潜んでいる以上、それを何とかしなければここから動くこともできない。

 だけど水中で戦うのは現実的ではないでしょう。


「何とかヤツを地上におびき寄せる事ができれば、俺らならどうにかできるとは思うんだが……」


「ニャ……ここなら遅れは取りませんニャ!」


 確かに……キュロケスは水棲の魔物だけど、ある程度は陸上でも活動できるから可能性はないわけじゃないけど……

 さっきの私の魔法で向こうも警戒してると思うし、ちょっとそれは難しいかもしれない。

 それはジュリオも分かってるみたいで、厳しい表情をしている。


 そんなふうに打つ手無しの状況のように思われたのだけど……

 でも私には一つ閃いたことがあった。


「……ここから目的地までは、けっこう天井は高くなってるのよね?」


「ん?……ああ、地図の情報ではそうなってるな。でも舟は入り口に置いてきちまったし、水上を歩けるわけでも…………あ!?まさか……!?」


 あら……私がちょっと確認しただけで彼もピンと来たみたい。

 そのへんジュリオはかなり頭の回転が速いわね。


 上手くいくかどうかは分からないけど……ここでいつまでも手をこまねいているくらいだったら、やってみる価値は十分にある。


 そうと決まれば、さっそく試してみましょうか。



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