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Ⅳ 皇帝

「お待ちしておりました。神奈絵梨様。

 こちらにどうぞ」


 黒塗りの高級車というにもメリットがある。

 馬鹿が突っ込んでこないという。

 こんな車に乗っている連中は、えてして権力を持っているか、金を持っているか、その両方か。

 で、そんな車の後部座席に制服姿で納まるというのも慣れると不思議と落ち着くものである。


「あなたはいいわよね。

 制服着ていればオフィシャルOKなんだから。

 わたしなんて、何着ればいいかいつも考えるんだから」


 それすら、姉弟子様クラスだと何を着ればいいか『見える』らしい。

 恐るべし。


「で、今回のご依頼なんですが、○○地区新規再開発事業に絡む……」


 人が住むというのは、それだけで因縁が溜まる。

 その因縁を払う為に、家を建てる時に地鎮祭なんてのを今でもやっている所は多い。

 あれは結構馬鹿にならないのだ。

 そして、私達のメイン収入でもある。


「神奈様にはいつものように、それを見てもらいたく」


 この手のお仕事は寺社の独占事業だったのだが、近年変わりつつあるのは生活様式が西洋化しているのと、外国人居住が増えてきたのも大きい。

 日本人ならば神主さんかお坊さんで大丈夫なのだが、外人さんには神父さんの方が理解ができるのと同じ理由である。

 私は無言のままで依頼の再開発事業の書類をめくる。

 都市部に近い元工業団地跡地を再開発して大規模マンション十数棟を中心とする団地を形成する。

 完成時における予想想定居住者数はおよそ一万人で学校やショッピングモールなども建設予定の大規模公共事業だ。


「で、お願いしていた資料はありますか?」

「座席の後ろに」


 で、私が呼ばれた理由が元工業団地の時に安価な労働力として外国人労働者をかなり雇っており、それがらみでオカルト的な騒動が以前発生していたのだ。

 工場は円高によって外国に移転し、その時の外国人労働者の処遇についてはこの町の問題になっていた時期もある。

 かくして、私がお呼ばれされた訳だ。

 その手の確認をして問題があるなら姉弟子様にご報告と。

 それだけの信用は姉弟子様が得ているし、100万単位の依頼領とて何十億何百億の公共事業から考えると『はした金』の経費でしかない。

 有権者が聞いたら激怒しそうな話だが、完成のあかつきにはこの町に一万人の有権者が住むのだからその安全費用と言えば納得してもらえるかな?かな?

 古くは京都や江戸なんかがそうなのだが、良くできた都市計画には必ずオカルト的な加護が付与される。

 それがないと人というのは生まれては死ぬものだから、人の営みにおける因果の輪廻がさばききれないのだ。

 なお、家探しの一つの目安として、近くにそこそこ由来のある神社かお寺があって、その境内が綺麗かどうかでその地区の判断ができる。

 つまり、その地区に寺社を維持するだけの氏子が機能しているからだ。

 これが外国だと教会になるのだが、日本の場合は絶対人口が少ない事があって結婚式場としてしか使われない教会があったりするから困る。

 車が止まり、ドアが開く。

 工事現場のプレハブの前に一人のスーツを着た中年男性が頭を下げた。


「神奈絵梨様。

 今回の案件についてご説明させていただきます、帝建ホールディングスの相良と申します」


「神奈絵梨と申します。

 今回はよろしくお願いしますね」


 双方握手の手が痛い。

 とはいえ、我が父はジャパニーズビジネスマンよろしく仕事対応で我が娘を出迎えてくれたのがこの場ではありがたかった。



「今回の案件ですが、神奈で応対するかどうかの事前調査です。

 一応報告書は読ませていただきましたが、現場の相良さんからもお話を聞かせてもらってよろしいでしょうか?」


 プレハブの事務所内の机には工事区画の地図が張られており、その上にコーヒーカップが置かれる。

 灰皿も置かれているが、今は私がいる事で禁煙に協力してもらっている。

 臭いって思った以上に人間に影響を与えるのだ。


「はい。

 報告書に記載しておりますが、工業団地内に外国人労働者の居住区があり、そこでのトラブルが発生しています。

 日本人女性との痴情のもつれからの殺人事件および、類似案件による水子供養です。

 また、生活習慣の違いから、信仰に使っていた部屋の存在も確認されています」


 水子とは、生まれてこなかった子供。

 この場においてはつまり堕胎したという訳で、世に隠す事が多いから実は一番厄介な案件だったりする。

 そのくせ、生きている人間には呪いを残すからたちが悪い。

 新興宗教や霊感商法などの代表にもなっており、近年の医療技術の発達とオカルト関連のブームが絡んで私達みたいな人間の一番の飯の種となってしまっている。


「事件そのものの風化については?」


「工業団地の閉鎖と外国人労働者帰国支援事業によって表向きは沈静化しているはずです。

 問題は……」


 我が父親がとある一点の土地を指差す。

 学校建設予定地に書かれた名前は、近年拡大している信仰宗教団体の名前が書かれていた。


「この団体がかつて水子を使った霊感商法で訴訟になった事もあり、我々も警戒している次第で。

 関係各所に連絡した結果、神奈様のご足労を願ったと」


 権力側が抱えるそれが安全を主張した場所でそれに異を唱えるにはリスクが大きすぎる。

 で、一番やっいかなケースは、本当にオカルト的な何に触れてしまいそれを呼び出してしまい霊的災害を勃発させてしまう事だろう。

 私はタロットカードを広げ、占いを紡ぐ。

 占いは呪いにもなりうるが、呪いだからこそその方向性は固定化できる。

 毒も弱ければ薬にもというあれだ。


 そして、当然のように出てくる『皇帝』の正位置。

 権力者の象徴であり、父性の象徴でもある。

 だが、この場合においては事業推進の確固とした意思とでも解釈しておくか。

 このカードが正位置で出る場合、大雑把だが方向性は間違ってはいないし、何かトラブルに巻き込まれてもそれを解決する能力はある事が多い。

 さて、問題の水子だが……うわ。

 『法王』が逆位置で出ている。

 これは、学校を作る予定の例の宗教団体に間違いなさそうだな。

 向こうが水子の事を知っているかどうか知らないが、確実に騒ぎにする腹積もりらしい。

 で、『月』の正位置か。

 やばい。

 状況から見て、事業遂行に問題はないだろうが、確実にトラブルが発生すると出てやがる。

 あとは……『隠者』の正位置。

 これは私の事かな?それとも何か別のものか?


「占いの結論から申し上げます。

 事業遂行において問題はないと思いますが、確実にトラブルが発生するので姉弟子様にご報告させていただきたいと。

 つきましては、この学校建設予定地を視察したいのですがよろしいですか?」



 私はヘルメットをつけて工事現場を歩く。

 目の前にいる父の背中はこんなにも小さかったのだろうか。

 いや、そもそも父とこうして父と話をするのはいつぶりだろうか?


「元気にしていたか」

「はい」

「たまには帰ってこい。

 母さんも喜ぶ」

「はい」


 淡々とした会話。

 私がこの道を進むと決めた時に、父も母も猛反対をした。

 姉弟子様の強引な説得もあったのだが、最後は私の意志が両親の反対を押し切ったのだ。

 私の見えているものが、両親には見えない。

 結局、それが今の関係になってしまったわけだ。

 早すぎた親離れは、私にも父にも微妙に傷を残している。

 学校建設予定地はまだ工事が始まっておらず、整地もされていなかった。

 そんな場所を眺めながら、私は一つの社を見つける。


「あれは?」


 私の言葉に父が資料を見て告げる。


「かなり古い社ですね。

 祭られているのはこの土地の神みたいで、氏子も既におらず荒れたままに。

 取り壊しが決定していますが、取り壊す前に神主を呼んでお払いをしてもらう予定です」


 これか。

 日本の神様はご利益がある神という側面に祟り神という側面も持つ。

 『触らぬ神に祟りなし』という言葉が生まれるだけの歴史的背景はもっているのだ。

 問題なのは、この神様が信仰の対象として祭られていたのか、その土地の霊脈を押さえるパワースポットとして祭られているかで、新興宗教が絡んでいる以上はまず後者と見た。

 日本でオカルトにかかわる場合、信仰がちゃんぽんになっているので最低限どころかかなり神道や仏教系の知識も必須となる。

 新興宗教にとって、ここがパワースポットならば信者のご利益としてさぞ美味しいだろう。


「これですね。

 姉弟子様にご報告する為の資料をお願いします」


「わかりました。

 神奈様」




「で、ご両親と親子の会話もなく帰ってきたと。

 馬鹿?」


 電話で報告した姉弟子様冒頭の一言である。

 一応仕事とプライベートを分けていると考えているつもりなんだが。


「それこそいらぬお世話よ。

 ご両親がいるんだから親孝行ぐらいしてあげなさい。

 それが理解できない親でもないでしょ」


 オカルト関連なんていかがわしいもので仕事をする場合、まず間違いなく両親から親類縁者の反対が入る。

 その為、親子の縁が切れてしまうなんて事もこの世界では多い。


「何を言えばいいかわからなくて……」


 さすがに電話向こうの姉弟子様も考えているらしいが、出てきた言葉は、


「彼氏でも連れて帰ってくれば?」


とたわけた一言だった。


「冗談だったら切りますよ」

「冗談言っている訳じゃないけどね。

 オカルトなんていかがわしいものに娘が溺れているよりも、男に溺れている方が両親も安心するでしょ。

 いざとなったら、お父さんが彼氏を殴って円満解決」

「子供でもできたらどうするんですか?」

「それこそ、いいことじゃない。

 孫には甘いわよ。

 師匠よろしく」


 別の所で書いている二次創作『戦記風伝説のプリンセスバトル (伝説のオウガバトル)』も彼女が主人公なので、二次創作分を削った異世界召喚タロットファンタジーになおす構想もあり。

 とはいえ、両方ある程度できあがらないとちゃんぽんにはできないのでこうして進める事に。


2014/11/10 『昨日宰相今日JK明日悪役令嬢』に話を統合させるのでこっちは終了させます。

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