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『一日一回肘から唐揚げが出る能力』  作者: 保土ヶ谷暗褐色


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6/9

『祖父の遺言が箇条書きだった』


 祖父は几帳面だった。

 引き出しはラベル付き、本棚はあいうえお順、冷蔵庫の中も賞味期限順。

とはいえ、流石にやりすぎだと思った出来事がある。


遺言が箇条書きだったのだ。


 葬儀の翌日、居間で三人が遺言を聞いた。健二、母、叔父。

 母が紙を読む。


「・通帳は引き出しの左」


 実務的な祖父らしい始まり。

その後もいくつか、事務的な箇条書きが読み上げられていく。

すると、唐突に母の読み上げ止まった。


二度、三度と紙の上を目が滑っている。


「・田辺さんのご飯は引き出しの右」


 読み上げた母の声は僅かに戸惑っていた。

 全員が首を傾げた。

 叔父がぽかんとしている。健二が母を見た。母は紙をもう一度見て、また読み上げた。


「・田辺さんのことが好きだった」


 居間の空気が変わった。

 叔父が顔を上げた。「誰だ」と言ったが、声が出ていない。健二の心臓が速くなった。

祖母が亡くなって、十年以上経っている。

祖父にも色々あったのかもしれない。

 母は続きを読む。感情をなくしたように、淡々と。


「・バイクで北海道を走ったのが一番楽しかった」

「・アキコに謝れなかったことがある」


 母の声が詰まった。


「・健二は小さいころ泣き虫だった。よく足にひっついてきて、可愛かった」


 健二は目頭が熱くなった。小学校まで、祖父の家に預けられるたびに泣いていた。昔ながらの和風の家は、幼心には何故か怖く思えた。

祖父は何も言わず、ただそばにいた。


「・人生で怖いと思ったことは一度もない」


 叔父が頷きかけた。


「・嘘だが」


 叔父の頷きが止まった。

 母が最後の項目を読んだ。


「・ありがとう」


 二行分のスペースがあるのに、一行だけ。

 叔父が先に泣いた。それから母。最後に健二。誰も喋らなかった。



 しばらくして、猫が廊下からひょこりと入ってきた。

 白い小柄な猫。祖父の足元によくいた。仏壇の前で座った。

 健二はふと、立ち上がった。直感だった。

引き出しの右を開ける。

 猫のエサの袋が入っていた。

 健二が猫を見た。


「……田辺さん?」


 猫が、にゃあと鳴いた。



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