表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『一日一回肘から唐揚げが出る能力』  作者: 保土ヶ谷暗褐色


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/9

『酔うと面倒臭いタイプの赤鬼』



 山のてっぺんに、赤鬼が住んでいた。


 角は立派、体はでかい、顔は怖い。だが中身は、拾った石ころを「かわいい」と言って棚に飾るくらいには繊細だった。


 悩みがあった。人間と仲良くなりたいのである。


 試しに洞窟の入り口に看板を立ててみた。


**『気さくな鬼の家 どなたでもどうぞ』**


 一週間、誰も来なかった。二週間目に猟師が来たが、看板を見るなり踵を返して全力で走り去った。三週間目には看板ごと燃やされた。


「なんでだ……」


 赤鬼はひざを抱えて洞窟の奥にこもった。そこへ、隣の山から青鬼がやってきた。幼なじみで親友で、この世でいちばん赤鬼の扱いに慣れた存在である。


「どうした、また看板燃やされたのか」


「アオ……おれ、人間と友達になりたいだけなんだよ」


「知ってる」


「なのになんでだ。おれのどこがいけないんだ」


「顔」


「顔は変えられん」


「あと角」


「角も変えられん」


 青鬼はしばらく考えて、膝を打った。


「一つ、いい作戦がある」


 青鬼の提案はシンプルだった。自分が村に乗り込んで暴れる。そこへ赤鬼が現れて撃退する。村人の目に「人間の味方をした鬼」として映れば、打ち解けるきっかけになる、というものだった。


「でも、お前がそんなことしたら……」


「村を出ていけばいい。どうせおれは一人でも平気だ」


 青鬼はけろりと言った。赤鬼は目を潤ませた。


「アオ……」


「泣くな、まだ何もしてない」


---


 翌日、青鬼は村の広場に降り立った。


「うおおおおおっ! 人間ども、覚悟しろ!」


 演技とは思えぬ迫力だった。村人は悲鳴をあげて逃げ惑い、村長は卒倒しかけた。そこへ赤鬼が飛び込んできた。


「やめろ! 青鬼! 人間に手を出すな!」


 取っ組み合いの末、青鬼は「ぐぬぬ、覚えておれ」と捨て台詞を残して山へ消えた。名演である。


 村人たちはおそるおそる赤鬼を見た。


「た……助けてくれたのか?」


「そうだ! おれは人間が好きなんだ! 友達になりたかっただけなんだ!」


 赤鬼の目から、本物の涙がぼろぼろ落ちた。村人たちはざわめき、やがて拍手が起きた。村長が手を差し出した。感動の瞬間だった。


 そこで赤鬼は、懐から酒瓶を取り出した。


「よし、祝おう!」


 青鬼が遠くの山の陰からそれを見て、小さく呟いた。


「あ、やばい」


---


 一時間後、村の広場は宴会場と化していた。


「お前ら! おれはなあ! ずっとお前らのことが好きだったんだよ! ずっとだぞ! わかるか! ずっとだ!」


 赤鬼は村長の肩を抱いて離さなかった。村長は愛想笑いが限界を超え、もはや能面のような顔になっていた。


 青鬼は回収に来たのだが、玄関で捕まっていた。


「アオ! お前が一番の親友だ! お前がいなきゃおれはだめだ! な! そうだろ! な!」


「わかったから離せ、臭い」


「泣くなよアオ! おれも泣くから!」


「泣いてない」


「おれが泣いてる!」


 赤鬼は本当に泣き始めた。青鬼は天を仰いだ。


 そうこうするうちに赤鬼は「武勇伝」を語り始めた。かつて川で子どもを助けた話である。細部が毎回違うが、今日は川が滝になっていた。聞いていた若者たちは、最初は感心していたが、三回目の繰り返しに入ったところで静かに席を立ち始めた。


「待て、まだ終わってないぞ!」


「お、おれ、そろそろ……」


「まあ飲め!」


 赤鬼は逃げ場をふさぐように仁王立ちした。青鬼はため息をついて若者の隣に座り直した。こうなると夜明けまでかかる。経験上わかっていた。


 村長の奥さんが青鬼に小声で言った。


「大変ですね、いつもこうなんですか」


「毎回だ」


「仲いいんですね」


 青鬼は答えなかった。


---


 翌朝、赤鬼は洞窟の前で目を覚ました。なぜそこにいるのか、まるで記憶がなかった。手に村長からもらったらしい手ぬぐいが握られていた。


「……昨日、なんかあったっけ」


「いろいろあった」


 青鬼が岩の上で腕を組んで座っていた。目の下に隈がある。


「村人と仲良くなれたか?」


「なれた」と青鬼は言った。「ただし、友達というより、飲み仲間として認識されている」


「それでいい!」


「よくない」


 赤鬼は会心の笑顔だった。青鬼はまたため息をついたが、口元がわずかに緩んでいた。


 後日、村から赤鬼のもとへ使いが来た。秋祭りに呼びたい、とのことだった。


 赤鬼は飛び上がって喜んだ。青鬼は使いの者に静かに確認した。


「酒は出るか」


「はい、たっぷりと」


「……介抱料はもらえるか」


 使いの者は首をかしげた。青鬼は諦めて空を見上げた。山の向こうに、秋の雲が流れていた。


 まあ、いい。こいつの面倒を見るのは、昔からおれの役目だ。


 誰に言うでもなく、そう思った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ