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魔女Re禍★魔女√化~首吊り令嬢の優雅な復讐劇~  作者: 杏仁堂ふーこ


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61.ロザリオの悪夢②

「……ふう。それでは、貴方たちへの裁きについて説明しましょう」


 さっきとは打って変わって落ち着いた様子を見せる代理人。

 しかし、相変わらずその手には手斧があり、刃の反対側――峰でトントンと肩を叩いている。教会に属する人間とは思えない振る舞いだった。


「これから、私が貴方たちに向けていくつか質問をします。

 正直者の数だけ聖水の入った金の杯を、嘘つきの数だけ猛毒の杯をテーブルに出します。出された杯を皆さんで相談の上で飲みきってください。猛毒は様々な種類がありますのでどんな効果があるかは飲んでからのお楽しみです」


 彼女の持つ手斧がやけにギラついており、刃が鋭い。アデルたちを怯えさせるには十分なほどに。

 そして、ゆっくりと司祭台から離れ、一人ひとりの前にカードを二枚ずつ置いていった。アデルは恐る恐るカードを手にとって見る。

 カードの裏側には「はい」「いいえ」という簡単な単語が記されていた。


「質問に対しては今お配りしたカードをテーブルの上に伏せて出してください。

 他の皆さんには見えませんが、私からはしっかり確認できます。

 ああ、杯が配られた後、内訳に納得ができない場合は誰がどちらの回答をしたのか――その場で聞いていただくこともできます」

「……少し、聞いてもいいだろうか」


 様子を伺いながら切り出したのはテオドールだった。彼女は顔を彼に向けて首を傾げる。


「何か?」

「な、何故俺達がここに? というか、何故裁きなんかを受けることになったんだ……?」

「それはいずれ明らかになるでしょう。……ふふ。心当たりがないなんて、教義を破っている自覚がないんですね」


 彼女が嘲笑う。信徒席からもクスクスと笑う声が聞こえてきた。

 テオドールは顔を赤くして俯いてしまった。そんな彼を見たベルトランもエルネスタも何も言えなくなり、観念したようにカードを手に取った。

 全員がカードを手にしたのを確認し、代理人が手斧で肩を叩きながら口を開く。


「最初はわかりやすく簡単なものから参りましょう。

 ――あなたは不貞を犯したことがありますか?」


 静かな沈黙が落ちた。聖堂内も静まり返っている。

 アデルも、テオドールも、ベルトランも、エルネスタも――四人とも黙り込んで視線を伏せてしまった。

 やがて、示し合わせたように四人の手が動き、それぞれ一枚のカードをテーブルの上に伏せる。

 代理人の赤い唇がゆっくりと弧を描いた。


「回答が揃いましたので杯をお配りします」


 代理人の言葉に呼応して、どこからともなく顔をヴェールで隠したメイドが現れる。

 テーブルの上に金の杯を四つ置いて去っていった。

 四人ともがホッとする。

 直後、ガァンッ! と手斧を司祭台に打ち付ける音が響き渡った。アデルはビクッと肩を震わせる。


「はーーーーい! それじゃ、全員の回答を公開しまァァァす!!!」

「なっ?!」


 声を上げたのはベルトランだったが、アデルたちも彼と同じ反応をしていた。

 彼女の横に壁画かと思うほどに大きな額縁が現れている。額縁には布がかけられており、何が描かれているのかは見えない。しかし、それがどういう役目を果たすのか、聞かなくてもわかった。

 ガタッと立ち上がったのはテオドール。


「ま、待ってくれ! どうして公開なんか……?!」

「はあああ!? お前が『何故ここにいるのか』って聞いたんだろうが! その答えがココにあんだよ!? 納得しましたかァ~~~!?」


 テオドールを嘲笑う代理人。最後の語尾の上げ方は聞いているだけで苛立つものだった。

 そして、それ以上止める間もなく額縁にかけられた布が代理人の手によって剥ぎ取られる。


 アデル/はい

 テオドール/はい

 ベルトラン/はい

 エルネスタ/はい


 金の杯の数の通り「はい」が並んでいた。信徒席からのざわめきが多くなり「全員が不貞を?」「熱心な教会派であるシュタールベルク家が?」と聞きたくもない言葉の数々が雪崩込んでくる。

 アデルの顔は羞恥によって真っ赤に染まった。


(こ、こんな……こんなことをするなんてッ、あの代理人……!!!)


 顔を真っ赤にしたまま代理人を睨みつける。代理人は斧で肩を叩きながら、仮面に覆われた顔をアデルへと向けた。口元が微笑みの形を作るだけで何も言わなかった。


「では、杯をお飲みください」


 全員が恐る恐る配られた杯を手にし――ごくりと喉を鳴らしてから、四人はほぼ同時に一気に飲み干す。

 杯をきちんと飲んだからか、信徒席からはまばらに拍手が送られた。

 アデルは飲み干した杯を見つめて目を丸くする。


(甘くて美味しい……。……少しお酒が入ってるみたいね)


 杯をテーブルに下ろすと、ヴェールを被ったメイドが回収していく。聖水は他の三人にとっても美味しく感じられたのか、アデルと同じように驚いた顔をしていた。

 代理人が場を引き締めるように、手斧でコンコンと司祭台を叩く。


「では次に参りましょう。――家族のものを盗んだことがありますか?」


 またもや大聖堂内が静まり返った。信徒席からの視線が痛いくらいに注がれており、空気がひりついている。

 四人とも少し悩んでからカードを置いた。

 悩んだのは、代理人によって全員の回答が公開されるからだ。教義に反する受け答えをすると信徒席から蔑みの言葉や視線を向けられることになる。だが、正直に答えなければ毒の杯。

 アデルの手が震える。


(……あたしは、”家族”のものは、盗んでないわ……!)


 自分にそう言い聞かせながらカードを置いた。他の三人の方が少しだけ早く、アデルが一番遅い。

 代理人が静かに頷く。


「カードが出揃いましたので杯をお配りします」


 置かれたのは金の杯が二つ。漆黒の黒色をした毒の杯が二つ。

 アデルは三人を見た。ベルトランも、エルネスタもテオドールも、他の三人に疑いの眼差しを向けていた。

 代理人がクスリと笑う。


「あらあら。嘘つきが二人いるようですね……?

 すぐに皆さんの回答を見せましょうか? それとも四人で話し合いをされますか?」

「回答を見せてくれ! 俺は嘘をついてない! 正直に答えた! 嘘つきは俺以外の誰かだ!」


 真っ先に答えたのはテオドール。アデルとエルネスタはギョッとし、ベルトランは難しい顔をしている。しかし、誰もテオドールの言葉に異を唱えなかった。

 代理人は口元を歪めながら、コンコンと斧で司祭台を叩く。先程と同じく布がかけられた額縁が現れた。


「では、回答をお見せしましょう。どちらの杯を誰が飲むかは、皆さんで話し合って決めてください」


 彼女はそう言って司祭台を離れ、もったいぶった様子で額縁を覆う布に手をかけた。

 ドクン、ドクンと心臓が煩く鳴っている。

 緊張が最高潮に達したタイミングで布がバサッと取り払われた。

 

 アデル/いいえ

 テオドール/はい

 ベルトラン/はい

 エルネスタ/いいえ


 信徒席がどよめく。彼らのお喋りがまるで耳元でされているかのようにはっきりと聞こえてきた。

 「盗んでないのに、はいと答えるかしら?」「いや、わざとそんな回答はしないだろう」「じゃあ、アデルさんとエルネスタさんが?」「そうとしか考えられない」と、嘘つきはアデルとエルネスタとだと決めつける会話が聞こえてきた。

 アデルは思わず椅子を蹴倒して立ち上がる。


「あたしは盗んでないッ! 家族のものを盗むなんて、そんなことはしてないですよぉ!」


 高い声が大聖堂に響き渡って静かになった。しかし、それも一瞬のこと。すぐに信徒席がざわめく。

 テオドールが溜息をつき、アデルを睨んだ。


「アデル。家族のものは、というのは、どういうことだい?」

「そのままの意味ですわ!」

「君がロレナの持っていたアクセサリーをつけているのを何度か見かけたが……ロレナは家族じゃないと?」

「当たり前ですぅ! 血は半分しか繋がってませんし、元々あたしがいるべきところにあの女がいたんですよぉ?! 盗まれたのはあたしの方で、あたしはあたしのものを取り返していただけだもんッ!!!」


 しん。と、場が静まり返る。

 それまでうるさかった信徒席のお喋りが静まり返り、代わりに侮蔑の視線が向けられた。テオドール、そしてベルトランがアデルを信徒たちと同じ目で見つめている。


「な、何よぉ……なんでそんな目で見るのぉ……?! あんな女、家族じゃないもん! あいつが持っていたものは、本来ならあたしのもの! あたしのものになるはずだったものを取り返して何が悪いのよぉッ!!!」

「――家族とは、血の繋がりだけのものではありません。そうでなければ夫婦を家族とは呼ばないでしょう?

 血縁がある者たちを”中心に”、共に生活を営む集団のことを家族と定義します」

「なッ……あ、あたしは認めないわ、あんな女が家族だなんてッ――!!」 


 奥歯を噛み締めて代理人に抗議をしている隙に――コトン、と黒色の杯がアデルの前に置かれた。

 置いたのは、テオドール。


「君の分だ、アデル」

「テ、テオさま……?!」


 冷めた目のテオドール。唇を震わせて、その名を呼ぶのだった。

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