33.魔女の友情、のようなもの①
『えー! セレスちゃんに会ったのー?!』
その夜。
ようやく繋がったリーネとの通信の中でセレスティアーヌに出会ったことを伝えると、彼女はやけに嬉しそうに声を弾ませた。
『そのうち紹介しなきゃなーって思ってたんだよぉ。でもセレスちゃんが忙しいからなかなか時間が取れなくってぇ』
「もう! 先に教えておいてくれても良かったじゃない。すごく驚いたんだから……!」
リーネに文句を言うのだがどこ吹く風だ。コンパクトに映っている彼女はロレナがセレスティアーヌに会ったことを喜んでいる。相変わらずヘラヘラと笑っていた。
『だぁって、ロレナちゃんの復讐には関係ないし~、セレスちゃんは忙しいし~……急いで紹介する必要もないかな、って。
あ、でも、今後のことを相談するならいいかもね』
「今後のこと……?」
『復讐を終えた後のこと~。侯爵家にいたくないなら、セレスちゃんが良いところを紹介してくれるよ~』
復讐を、終えた後。
リーネの言葉に大きく目を見開いてしまった。
まだ始まったばかりなのに、終わった後のことなんて考えもしなかったからだ。いずれは考えなければいけなくても、今ではない。
「ふう」と息を吐き出し、ゆるりと首を振った。
「流石に気が早いわ。まだ先の話よ」
『そお? まぁ、もし相談したくなったり早めにセレスちゃんに会いたいなら教えてね~』
「ええ、そうさせていただくわ。……にしても”セレスちゃん”だなんて……エリオス様を呼ぶ時だって……」
『んふふ。だって、あの二人はわたしよりも年下だもーん。好きに呼んで良いんだよ、わたしは』
妙な間ができた。思わず横に座っているチャコを見るが、チャコはロレナの意図を理解せずに「え?」と不思議そうに首を傾げるだけ。
――リーネより、エリオスとセレスティアーヌが年下……?
三人を並べてみた場合、何をどう見てもリーネが一番年下にしか見えない。口を開けば、その差は更に開く。
もう一度コンパクトに映るリーネを見つめると、彼女はさっきと同じく「んふふ」と楽しげに笑っていた。これはどう考えてもロレナの反応を楽しんでいるとしか思えない。
「……え。本当、なの……?」
『そうだよ~。ロレナちゃんがびっくりするから年齢は明かさないでおくけど、わたしが一番長生きなんだ~』
反応に困っているとリーネがけらけらと笑う。ロレナの反応をお気に召したらしい。
真実だと言われてしまい、余計に混乱してしまった。
(えっ。え!? だ、だって、チャコが長生きなほど魔力が高くて強いって……、じゃ、じゃあ、リーネさんはどれだけ魔力が高いというの!?)
『あはは。ロレナちゃんの反応は素直でいいな~。
あ、そうそう。エリくんに防護魔法のことを教えてもらったでしょ? 早めに試してみなね~。
身を守る術は早めに身に着けた方がいいし、やってみると色々とわかることもあるから』
「わ、わかったわ」
ロレナが頷くと、リーネが満足げに笑みを深めた。
思えば、魔女化してからリーネには世話になりっぱなしだ。魔法の使い方を教えてもらったり、エリオスと関係を繋げてくれたり、今だってロレナのことを気にしてくれている。
最初に「信用できない」と言ったことを思い出し、少しばかり気まずくなってしまった。
「あの……リーネさん」
『ん? なぁに?』
「最初に会った時――信用できない、なんて言ってごめんなさい……」
リーネが目を丸くする。口をぽかんと開けて、呆気にとられたようにロレナを見つめている。
最初にあった夜、つまりロレナが蘇って魔女になった時のことだ。声をかけてきたリーネに対して「悪いけど、信用できないわ」と言った。突然現れたリーネに不信感しかなかったし、その後の行動もなかなか信じられなかった。
しかし、今は違う。
こうやってあれこれと話をしてくれることに感謝をしているのだ。
ロレナはコンパクトに映るリーネの驚き顔を真っ直ぐに見つめた。
「あれからこうして色々教えてくれたり、相談に乗ってくれたり……本当に感謝しているの。
私一人じゃどうなってたかわからないわ。だから、ありがとう」
リーネの返事はなかった。コンパクトには彼女の驚いた顔がずっと映っている。
まだ魔女になって数日しか経ってないが、タチアナとイヴォンに対して悪夢の実験ができたのはリーネのおかげでもある。魔法の使い方を教えてもらったこともそうだし、こうして侯爵家に戻ることを提案してくれたのもそう。今使っているコンパクトだってリーネがわざわざくれたのだ。
(きゅ、急に謝罪とお礼だなんて変だったかしら……? で、でもリーネさんには失礼なことを言っちゃってるし、今言わないと次いつ言えるかわからないし……!)
リーネの反応がないのでそわそわしてしまった。
友人らしい友人がいないため、普通の令嬢同士の関係性がよくわからない。しかも互いに魔女だから余計に。
視線を落としたり持ち上げたり、手を握りしめたり緩めたりして反応を待つ。
不意にリーネが俯き、ふるふると肩を震わせるのがわかった。
『……ぷっ! あははははははははっ!』
リーネは耐えられないとばかりに吹き出し、盛大に笑い出した。彼女が笑い出した意味すらわからなくて、今度はロレナの方が驚く番だった。
笑うリーネをぼけっと見つめていると、リーネが涙を拭いながらロレナを見つめ返す。
『んもう、ロレナちゃんったら……急に何を言うのかと思ったら~!
最初に会った時のわたしが信じられないなんて当然だよ~。自分でも怪しいな~って思ってたけど、魔女になったロレナちゃんを放置するわけにもいかなかったからさぁ……それに、あの後強制的に連れてちゃったでしょ? どっちかって言うと、わたしの方が悪いよぉ。
まぁ、あの時はしょうがなかったって納得してもらうしかないけどね?』
一頻り笑ってリーネはケロッとした様子だった。あの時「信じられない」と言ったことなど今の今まで忘れていたと言わんばかりだ。
『それにね~、お礼を言われるほどのことじゃないんだよぉ。ロレナちゃんはわたしの暇つぶしになってくれてるもん。その点に関してはわたしがお礼を言いたいくらい。ほんとーにありがとね、楽しい時間をくれて』
ね。と、リーネが楽しげに微笑む。
その表情も仕草も何もかも――どこにでもいる普通の少女にしか見えない。ましてや、エリオスやセレスティアーヌよりも年上だなんて信じられなかった。
こちらが感じていた申し訳なさなどが霧散し、ほっと胸を撫で下ろす。
「そう言ってくれて嬉しいわ。でもね、リーネさん、貴女に感謝してるのは……本当に本当なのよ?」
『んふふ。そう言われると悪い気はしないから、もっと言って~?』
「もうっ! こっちは真剣なのに……」
笑いながら茶化されて口を尖らせてしまった。どうやら彼女はシリアスではいられないらしい。
コンパクト越しに見つめ合うと――リーネが猫のように目を細めた。
『で。次は誰をどんな悪夢を見せて地獄に叩き落すのか決めてるの?』
楽しそうににんまりと笑うリーネ。その表情は愉悦に染まっており、ロレナの復讐を楽しんでいるのが伝わってくる。
ロレナが復讐を完遂することこそ、彼女への何よりの礼になるはず――。
そう思ったところで、ロレナの思考がピシッと止まった。
――誰を、どんな悪夢を。
リーネのその言葉に、奇妙な違和感を覚えた。
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更新遅れてすみません…!




