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魔女Re禍★魔女√化~首吊り令嬢の優雅な復讐劇~  作者: 杏仁堂ふーこ


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2/17

2.魔女の復活は、罵倒とともに

 何故かロレナは目を覚ます。

 周りは真っ暗だった。

 どちらが上か、どちらが下なのかすらもわからない。不思議な空間の中にいた。

 ああ、死んだのね。と思いながら母の姿を探す。


「やっほやっほ、おはよう。ロレナ!」


 歩き出そうとした瞬間、目の前に謎の生き物が現れた。

 周りは真っ暗なのに、その生き物の輪郭だけははっきりとわかる。

 黒い体毛、しなやかな体躯。目はオレンジ色で、この真っ暗な中でも輝いて見えた。額には魔法陣のような文様がある。

 見慣れないところはあっても造形は間違いなく猫だった。


「あ、あなた、誰……!?」

「僕の名前はないんだ。でも、君の使い魔に内定したから、君が自由に名前を付けていいよ!」

「つ、つかい、ま……?」


 普通、動物の表情などそう変わるものではないと思うが、彼の表情は面白いくらいにくるくると動く。楽しそうなのがはっきりと伝わってきた。


「そうそう、使い魔。君はねぇ、魔女になったんだ」


 ――魔女。お伽噺の世界にしかいない存在。魔法を自由に扱えるという話しか聞いたことがない。

 急に「魔女になったんだ」と言われても、ロレナは混乱する。


「私が、ま、魔女……!?」

「そうそう。細かいことは省くけど……君はね、死んで魔女になったんだ。君の体は仮死状態になっているよ。

 ねえねえ、どうする? 魔女としてもう一度生きてみる?」


 ロレナは訝しみ、そして鼻で笑ってしまった。


(魔女として生き返るかどうか? どうせ生き返ってもあの家、あの義妹、あの婚約者でしょ?)


 何もかもが嫌になって首を吊ったのに、生き返るわけがない。

 断ろうとしたところで、黒猫は目の前でくるりと楕円形を描くように飛んだ。すると、そこに大きな鏡が現れた。


「これは……?」

「君が死んだ後のことが見えるよ」

「え?」

「まぁまぁ、見ていてごらん」


 促されるまま、鏡の中を覗き込むとぼんやりと何かが映し出された。

 首を吊ったロレナが映り、メイドがそれを見て悲鳴を上げる。それを見てほくそ笑んでいると、わらわらと使用人が集まってきて、やがて父親、エルネスタ、アデルが現れた。

 ロレナは期待していた。

 青褪めたり叫んだり、「こんなつもりじゃなかった」と彼らが後悔し、泣き叫ぶような――自分自身の死後を。

 父親であるシュタールベルク侯爵とエルネスタが使用人たちに命じて、ロレナの体を下ろさせる。

 そして、何故か死体を部屋から運び出し、あろうことか部屋を出た先にある階段へと放り投げたのだ。


「──は?」


 あまりの光景に頭が真っ白になった。

 ロレナの死体は勢いよく投げられたため、ごろごろと階段を転げ落ちていく。途中で首や手足が変な方向に曲がり、若いメイドが「ひっ」と声を上げた。


「君の首吊りを隠蔽しようとしてるね。階段からの転落死ってことにするらしいよ」


 黒猫が淡々と言う。

 階下まで転げ落ちた死体。自分の死体だったが無様な格好だった。

 それを見たアデルとエルネスタがせせら笑う。


『んもう、おねえさまったら~。首吊りなんて汚いことせずに階段から落ちてくれればよかったのにぃ』

『本当だわ。部屋の片付けも大変なのに、最後の最後まで……』


 アデルとエルネスタの声が聞こえる。メイドたちが二人に同調している。流石に父親は何も言わず、眉間に皺を寄せているだけだ。けれど、嘆く様子も悲しくも様子もない。処理に思い悩んでいるのがありありと伝わってきた。

 父親の態度はもちろんのこと、アデルとエルネスタ、そしてメイドたちの態度に唖然としてしまった。


「……ロレナ、君は死んでなおこんな扱いだよ? このままでいい?」


 ロレナの喉はからからに乾き、怒りで手がぶるぶると震えていた。

 死んでなおこんな扱い。

 その言葉がロレナに刺さる。

 鏡の中の映像は更に進み、アデルとテオドールが映し出される。アデルの部屋だった。その夜、テオドールはアデルの部屋にいたらしい。さっき出て来なかったのは父親とエルネスタには言ってなかったからだろう。一体いつからこんなことを続けていたのだろうか。


『テオドールさまぁっ! おねえさまが、おねえさまが~!』

『アデル! ああ、可哀想に。……でも、これで正式に君と結ばれることができるね。ああ、アデル……』

『テオドールさま……』


 口づけを交わす二人。そして──。

 ブツンッ! と、ロレナの頭の中の何かが切れる音がした。


「クソがアァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」


 腹の底から絶叫するロレナ。

 淑女にあるまじき低い声と言葉遣いで叫び、目の前にある鏡へ拳を打ち付ける。


「あのクソ(アマ)がぁ! なぁにが”おねえさまが~”だ! その喉潰して引き裂いてやろうか?! クソうるせぇ声で喚きやがって、朝の鶏や発情期の犬猫の方が全ッ然静かで可愛いくらいだよ! 万年発情期がッ!

 大体! お前は! ただ私のモノを奪いたいだけだろうが! 最初から……ずっと、ずっとずっとずっと!!!!」


 鏡に映されたアデルの顔面を拳で殴る。ピシリと鏡にヒビが入る。

 今度はアデルを抱きしめるテオドールが映し出された。


「そんなクソ(アマ)にコロッと騙されて、まんまと喰われるお前もお前だよ、テオドール! てめーの倫理観は、脳みそと一緒にアイツの股に吸い込まれてったのか?! あァ!? 超軽量の倫理観と脳みそで人間を語ってんじゃねぇぞ、ゴミカスナルシストが!」


 テオドールの顔に蹴りをお見舞いした。更に鏡にヒビが入る。

 最後に父親とエルネスタが映し出された。


「お前らはほんっっっとにお似合いだよなぁ?! よく考えたら全員クソ不倫野郎じゃねぇか!

 強欲メスガキに脳みそ軽石ナルシスト、保身まみれの置き物、厚顔無恥女……!

 あははは! ははははッ! どこに出して恥ずかしいクソみたいなゲロカス侯爵家だよお前らは!!」


 口汚く罵りながら、鏡に向かって拳を打ち付けた。ガンガンと何度も何度も。手の痛みなど感じなかった。

 最後の一言とともにお見舞いした蹴りで、鏡はガシャンと音を立てて崩れ去る。

 ──貴族らしく、淑女らしくあろうとした生前のロレナからは考えられないくらいに下品で汚い罵倒だった。

 だが、ロレナの心は叫ぶ度にスッキリとしていく。まるでロレナじゃない誰かが代わりに怒ってくれているような気さえした。


「ロレナ♪ 今なら魔女として復活し、彼らに復讐ができるよ♪」

「なるわ、魔女に。どうすればいいの?」


 即答だった。迷う必要などない。彼らに地獄を見せるまでは死んでも死にきれなかった。

 彼はにこりと笑って、目の前でくるりと回った。


「僕に名前を付けて。そして僕を正式に使い魔にして! それで君は立派な魔女になれるよ!」

「名前?」

「そう、名前。僕はまだ何者でもない存在なんだ。魔女になりうる人から名前を貰うことで僕は正式に君の使い魔に、使い魔を得た魔女候補は正式に魔女になれるんだよ」


 魔女なんて歴史や本の中にしかいないお伽噺の中の存在だった。実感など沸くはずもない。

 「名前を」と言われて、少し考えながら黒猫を見つめる。


「どんな名前がいいのかしら? 希望はある?」

「ううん、ないよ。ロレナの呼びやすい名前にして欲しい」

「難しいわ……」


 これまで動物に名前をつけたことがないから悩む。

 目の前にいる尻尾の長い生き物。見た目は完全に黒猫である。黒や猫で連想するような名前を考えていくが、そうやって考えているうちにぱっとひらめいた名前があった。


「じゃあ、チャコにしましょう」

「チャコ? なんだか不思議な響きだね」

「……そうね、今頭の中にふっと浮かんだの。とても懐かしく感じる名前なんだけど、理由はわからないわ」


 自分でも何故この名前が浮かんだのか、何故この名前にしようと思ったのかわからない。


「そっか。ひょっとしたら前世の記憶かもね」

「前世……?」

「一度死んで再構成された影響で前世を思い出すことって、魔女にはちょくちょくあるみたいなんだ。全部じゃなくて、断片的に思い出したり、全部一気に思い出したり……ロレナのさっきの乱暴な言葉遣いも、多分前世の影響じゃないかな」


 そう言うとチャコはじっとロレナを見つめた。奥にあるものを探っているような目である。


「なんかねー、前世の君は『じょしこーせー』ってやつだったみたい」

「じょしこーせー……ううん、ちょっとピンと来ないわね。でも、私の苛立ちや感情を相応しい言葉にしてくれるみたい。ちょっと乱暴で恥ずかしいけれど、感情を吐き出せてすっきりするわ」

「そうだね。君はずっと辛い気持ちを溜め込んできたし、ああやって発散するのはとてもいいと思うよー。……さて、そろそろ戻ろうか?」

「待って」


 楽しそうに言うチャコに向かってストップをかける。チャコは不思議そうに首を傾げた。


「どうかした?」

「急に戻ってもあいつらにどうやり返したらいいか……考える時間が欲しいわ」

「なるほど。それは確かに。君の能力がどんなものかも確かめる必要があるけど、戻らないことには確かめようがないから……とにかく一度戻ろう? 万が一、君の体が埋められたり燃やされたりすると戻るのが難しくなる」


 さっきチャコは今は魂だけの状態だと言ったから、とにかく体には戻らないといけないらしい。

 確かにあの調子だと翌日には葬儀の手配をしてしまいそうだった。ならば、体に戻ることが最優先となるだろう。

 ロレナは納得して「戻るわ」と告げると、チャコの額の紋様が光を発する。

 その光に包まれた直後、ロレナは意識を失っていた。



 そして、目を覚ます。

 ロレナは汚れたドレスのまま階下で倒れていた。妙な方向に折れ曲がっていた首や手足は目を覚ます時には元通りである。痛みもなく、死ぬ前と同じように動かすことができる。

 時間は真夜中だった。

 使用人たちも一部の警備を除いて眠っている時間。死体だからと誰かが見張るわけでもなく、ただ放置されていた。

 首を吊った死体を下ろし、階段から放り投げて自殺を偽装──随分とずさんなやり方だと苦笑する。だが、ようやく家族や使用人たちの考えがわかった。その存在の軽さも。

 彼らに良いように扱われ、自死を実行してしまったことはロレナにとって人生最大の汚点となった。


(──絶対に復讐してやるわ。……私の手で、苦しめてやる……)

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