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薔薇の学舎ロザリウム  作者: 愛庵苦労


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9/10

けれど、君を信じたい― カールとオリアナのその後 ―

ロザリウム学舎の春は、風がよく通る。

石造りの校舎の間を抜ける風は、

新しい季節の匂いを運んでくる。


カールは訓練場で剣を振っていた。

いつもより力が入りすぎているのは、自覚していた。


(……オリアナ、今日は来ないのか)


図書塔で勉強を教えてもらう約束をしていた。

だが、時間になっても彼女は現れなかった。


「カール、今日はやけに荒れてるな」


キッドが呆れたように言う。


「別に」


「別に、って顔じゃないぞ。

 オリアナと何かあったのか?」


「……何もない」


そう言い切ったものの、

胸の奥に小さな棘が刺さったままだった。


翌日。

カールは図書塔へ向かった。


扉を開けると、

オリアナが誰かと話している声が聞こえた。


「……本当に助かったわ、クリストファー。

 あなたがいなかったら、魔術式の修正が間に合わなかったもの」


「気にしないで。

 オリアナは努力家だから、手伝いたくなるんだ」


クリストファー。

エミリアの恋人であり、騎士科の優等生。


二人は親しげに笑い合っていた。


カールの胸に、

言葉にできない感情が広がった。


(……なんだ、これは)


オリアナがクリストファーに笑いかけるたび、

胸がざわつく。


オリアナはカールに気づき、

ぱっと顔を明るくした。


「カール! 来てくれたのね」


「……ああ」


「ごめんなさい、昨日は急に用事が入ってしまって。

 今日こそ、魔術理論の続きを――」


「……クリストファーに教えてもらえばいいだろ」


その言葉は、

自分でも驚くほど冷たかった。


オリアナの表情が曇る。


「カール……?」


「俺がいなくても困らないんだろ」


「そんなこと――」


「じゃあ、続けてくれ。

 邪魔したな」


カールは背を向けた。

オリアナの呼び止める声が聞こえたが、

振り返ることはできなかった。


その日の午後。

カールは訓練場で剣を振り続けた。


(……何を怒ってるんだ、俺は)


オリアナが誰と話そうと、

それは彼女の自由だ。


分かっている。

分かっているのに――


(あいつが笑ってるのを見ると……胸が痛む)


それは、

エミリアに抱いた痛みとは違う。


もっと深く、

もっと苦しい。


「カール」


振り返ると、

オリアナが立っていた。


息を切らし、

必死に走ってきたようだった。


「話がしたいの」


「……今は訓練中だ」


「訓練より大事な話よ」


カールは剣を下ろした。

オリアナの瞳は真剣だった。


「さっきのこと……誤解よ」


「誤解?」


「クリストファーに魔術式を見てもらっていただけ。

 あなたに教えるための準備をしていたの」


カールは言葉を失った。


「あなたに分かりやすく説明したくて……

 だから、助けてもらっただけなの」


「……俺のために?」


「ええ。

 あなたが頑張ってるの、知ってるから」


オリアナは一歩近づいた。


「でも……あなたがあんなふうに言うから、

 私、悲しかった」


カールは胸が締めつけられた。


(……俺は、こいつを傷つけたのか)


「……悪かった」


「どうして、あんなこと言ったの?」


カールは言葉を探した。

だが、うまく出てこない。


「……分からない。

 ただ……胸が苦しくなった」


オリアナは静かに微笑んだ。


「それはね、カール。

 あなたが私のことを大切に思ってくれてるからよ」


「……大切?」


「ええ。

 だから、誰かと仲良くしていると不安になるの」


オリアナはそっとカールの手を取った。


「でもね、私はあなたを信じてる。

 だから……あなたも私を信じてほしい」


カールはその手を握り返した。


「……信じたい。

 お前のことを」


「なら、もうすれ違わないわ」


オリアナは微笑み、

カールの胸にそっと額を寄せた。


カールはゆっくりと腕を回し、

彼女を抱きしめた。


(……ああ。

 俺はこいつが好きなんだ)


ようやく、自分の気持ちを認められた。


夕暮れの訓練場。

風が二人の間を優しく通り抜ける。


「カール」


「なんだ」


「これからも……隣にいてくれる?」


「……ああ。

 お前が望むなら、ずっと」


オリアナは嬉しそうに笑った。


「じゃあ、仲直りの証として……

 手、つないで帰りましょう?」


「……ああ」


二人は手をつなぎ、

学園へと歩き出した。


すれ違いは痛かった。

けれど――


それを乗り越えた先に、

確かな絆が生まれていた。

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