答えは君の隣にあった― カールとオリアナのその後 ―
ロザリウム学舎の卒業式の日。
春の風が薔薇園を揺らし、花びらが舞っていた。
カールは騎士科の制服に身を包み、
静かに校舎を見上げていた。
(……ここで過ごした時間も、今日で終わりか)
訓練場で汗を流し、
図書塔でオリアナと勉強し、
すれ違い、仲直りし、
少しずつ距離を縮めてきた。
そのすべてが、胸の奥に温かく残っている。
「カール」
振り返ると、卒業式のローブをまとったオリアナが立っていた。
淡い紫の髪が春風に揺れ、
その瞳はいつもより少し潤んでいる。
「……来てくれたのね」
「お前が呼んだんだろ」
「ふふ、そうだったわね」
オリアナは胸に手を当て、深呼吸した。
「卒業、おめでとう。
あなたと同じ学舎で学べて、本当に良かった」
「……俺もだ」
二人はしばらく言葉を交わさず、
ただ風の音だけが流れた。
卒業後、カールは王国騎士団への入団が決まっていた。
その実力は学園でも群を抜いており、
将来を期待されている。
一方、オリアナは王立魔術研究院への推薦を受けていた。
魔術理論の才能を高く評価され、
研究者としての道が開かれている。
「カールは……騎士団へ行くのよね」
「ああ。お前は研究院だろ」
「ええ。
……離れ離れになってしまうわね」
オリアナの声は、少しだけ震えていた。
カールは言葉を探した。
だが、胸の奥にある不安は、彼自身も同じだった。
(離れるのは……正直、怖い)
訓練場で剣を振るときも、
図書塔で本を読むときも、
いつも隣にいたのはオリアナだった。
その存在が、どれほど自分を支えていたか。
今になって痛いほど分かる。
「……オリアナ」
「なに?」
「俺は……お前と離れたくない」
オリアナは驚いたように目を見開き、
やがて微笑んだ。
「私もよ、カール。
でも……それぞれの道を選ばなきゃいけないわ」
「分かってる。
だけど……」
カールは拳を握りしめた。
(どうすればいい……?
どうすれば、この気持ちを伝えられる?)
卒業式が終わり、
学園の門が閉じられる頃。
カールはオリアナを薔薇園へ誘った。
夕暮れの光が二人を照らし、
花びらが静かに舞っている。
「オリアナ。
俺は……お前のことが好きだ」
オリアナは息を呑んだ。
「知ってるわ。
あなたの気持ちは、ずっと伝わっていたもの」
「なら……俺と一緒に来てほしい。
研究院じゃなくてもいい。
俺のそばに――」
「カール」
オリアナはそっと彼の手を握った。
「あなたが騎士団に入るのは、
あなたの夢でしょう?」
「……ああ」
「私が研究院に行くのも、
私の夢なの」
カールは言葉を失った。
「夢を捨てて一緒にいるのは……違うと思うの。
あなたも、私も」
オリアナの瞳は涙で揺れていたが、
その声は強かった。
「だから……離れてもいいの。
離れても、あなたを想っているから」
カールの胸に、
熱いものが込み上げた。
(……こいつは、強い)
自分よりずっと強い。
だからこそ、惹かれたのだ。
「……分かった。
俺も、お前の夢を応援する」
「ありがとう、カール」
二人はそっと抱きしめ合った。
その温もりは、離れても消えないと信じられるほど確かなものだった。
それから数年。
カールは騎士団で頭角を現し、
若くして小隊長に任命された。
オリアナは研究院で成果を上げ、
魔術理論の新しい論文を発表して注目を集めていた。
忙しい日々の中でも、
二人は手紙を交わし続けた。
「今日、初めて部下を率いて任務に出た。
お前の言葉を思い出して、落ち着いて指揮できた」
「新しい魔術式が完成したの。
あなたにも見せたいわ。
きっと驚くと思う」
手紙はいつも短く、
けれど温かかった。
そして――
ある春の日。
カールは休暇を取り、
王都の研究院を訪れた。
「オリアナ!」
振り返った彼女は、
以前より少し大人びていた。
「カール……来てくれたのね」
「お前に会いに来た」
オリアナは微笑み、
そっと彼の手を取った。
「私も……ずっと会いたかった」
二人は自然と抱きしめ合った。
離れていた時間が、一瞬で埋まるように。
夕暮れの王都を歩きながら、
カールはふと立ち止まった。
「オリアナ」
「なに?」
「俺と……一緒に生きてほしい」
オリアナは目を見開き、
やがて涙を浮かべて笑った。
「ええ。
私も、あなたと生きたい」
二人は手を取り合い、
未来へと歩き出した。
夢を追い、
離れ、
それでも互いを選んだ二人。
その答えは――
ずっと、
君の隣にあった。
完




