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薔薇の学舎ロザリウム  作者: 愛庵苦労


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10/10

答えは君の隣にあった― カールとオリアナのその後 ―

ロザリウム学舎の卒業式の日。

春の風が薔薇園を揺らし、花びらが舞っていた。


カールは騎士科の制服に身を包み、

静かに校舎を見上げていた。


(……ここで過ごした時間も、今日で終わりか)


訓練場で汗を流し、

図書塔でオリアナと勉強し、

すれ違い、仲直りし、

少しずつ距離を縮めてきた。


そのすべてが、胸の奥に温かく残っている。


「カール」


振り返ると、卒業式のローブをまとったオリアナが立っていた。

淡い紫の髪が春風に揺れ、

その瞳はいつもより少し潤んでいる。


「……来てくれたのね」


「お前が呼んだんだろ」


「ふふ、そうだったわね」


オリアナは胸に手を当て、深呼吸した。


「卒業、おめでとう。

 あなたと同じ学舎で学べて、本当に良かった」


「……俺もだ」


二人はしばらく言葉を交わさず、

ただ風の音だけが流れた。


卒業後、カールは王国騎士団への入団が決まっていた。

その実力は学園でも群を抜いており、

将来を期待されている。


一方、オリアナは王立魔術研究院への推薦を受けていた。

魔術理論の才能を高く評価され、

研究者としての道が開かれている。


「カールは……騎士団へ行くのよね」


「ああ。お前は研究院だろ」


「ええ。

 ……離れ離れになってしまうわね」


オリアナの声は、少しだけ震えていた。


カールは言葉を探した。

だが、胸の奥にある不安は、彼自身も同じだった。


(離れるのは……正直、怖い)


訓練場で剣を振るときも、

図書塔で本を読むときも、

いつも隣にいたのはオリアナだった。


その存在が、どれほど自分を支えていたか。

今になって痛いほど分かる。


「……オリアナ」


「なに?」


「俺は……お前と離れたくない」


オリアナは驚いたように目を見開き、

やがて微笑んだ。


「私もよ、カール。

 でも……それぞれの道を選ばなきゃいけないわ」


「分かってる。

 だけど……」


カールは拳を握りしめた。


(どうすればいい……?

 どうすれば、この気持ちを伝えられる?)


卒業式が終わり、

学園の門が閉じられる頃。


カールはオリアナを薔薇園へ誘った。


夕暮れの光が二人を照らし、

花びらが静かに舞っている。


「オリアナ。

 俺は……お前のことが好きだ」


オリアナは息を呑んだ。


「知ってるわ。

 あなたの気持ちは、ずっと伝わっていたもの」


「なら……俺と一緒に来てほしい。

 研究院じゃなくてもいい。

 俺のそばに――」


「カール」


オリアナはそっと彼の手を握った。


「あなたが騎士団に入るのは、

 あなたの夢でしょう?」


「……ああ」


「私が研究院に行くのも、

 私の夢なの」


カールは言葉を失った。


「夢を捨てて一緒にいるのは……違うと思うの。

 あなたも、私も」


オリアナの瞳は涙で揺れていたが、

その声は強かった。


「だから……離れてもいいの。

 離れても、あなたを想っているから」


カールの胸に、

熱いものが込み上げた。


(……こいつは、強い)


自分よりずっと強い。

だからこそ、惹かれたのだ。


「……分かった。

 俺も、お前の夢を応援する」


「ありがとう、カール」


二人はそっと抱きしめ合った。

その温もりは、離れても消えないと信じられるほど確かなものだった。


それから数年。

カールは騎士団で頭角を現し、

若くして小隊長に任命された。


オリアナは研究院で成果を上げ、

魔術理論の新しい論文を発表して注目を集めていた。


忙しい日々の中でも、

二人は手紙を交わし続けた。


「今日、初めて部下を率いて任務に出た。

 お前の言葉を思い出して、落ち着いて指揮できた」


「新しい魔術式が完成したの。

 あなたにも見せたいわ。

 きっと驚くと思う」


手紙はいつも短く、

けれど温かかった。


そして――

ある春の日。


カールは休暇を取り、

王都の研究院を訪れた。


「オリアナ!」


振り返った彼女は、

以前より少し大人びていた。


「カール……来てくれたのね」


「お前に会いに来た」


オリアナは微笑み、

そっと彼の手を取った。


「私も……ずっと会いたかった」


二人は自然と抱きしめ合った。

離れていた時間が、一瞬で埋まるように。


夕暮れの王都を歩きながら、

カールはふと立ち止まった。


「オリアナ」


「なに?」


「俺と……一緒に生きてほしい」


オリアナは目を見開き、

やがて涙を浮かべて笑った。


「ええ。

 私も、あなたと生きたい」


二人は手を取り合い、

未来へと歩き出した。


夢を追い、

離れ、

それでも互いを選んだ二人。


その答えは――

ずっと、

君の隣にあった。


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