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薔薇の学舎ロザリウム  作者: 愛庵苦労


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7/10

きざしは静かな図書塔で― カールとオリアナのその後 ―

ロザリウム学舎の図書塔は、いつも静かだった。

古い本の香りと、差し込む光の粒が漂うその場所は、

カールにとって“余計なことを考えずに済む場所”になっていた。


だが最近は――

そこに行く理由が、少し変わりつつあった。


「カール、今日も来たのね」


柔らかな声が響く。

本を抱えたオリアナが、微笑んで立っていた。


「……ああ。魔術理論を教えてもらう約束だったからな」


「ふふ、あなたって本当に真面目ね。

 でも、そういうところ……嫌いじゃないわ」


カールはわずかに目をそらした。


(……こういうとき、どう返せばいいんだ)


エミリアのときとは違う。

胸の奥が痛むのではなく、

静かに温かくなるような感覚。


それが何なのか、まだ分からない。


「カール、ここの式はね……こうやって魔力を流すの」


オリアナはカールの手元にそっと手を添えた。

その距離は近いのに、不思議と落ち着く。


「……なるほど。お前は教えるのが上手いな」


「あなたが素直に聞いてくれるからよ」


オリアナは微笑む。

その笑顔は、どこか安心させる力を持っていた。


「ねえ、カール。

 あなた、最近少し表情が柔らかくなったわ」


「そうか?」


「ええ。前よりずっと……話しやすい」


カールは少しだけ照れたように視線を落とした。


(……こいつと話していると、確かに気が楽だ)


それは、エミリアに抱いた想いとは違う。

もっと穏やかで、静かで、

気づけば隣にいるのが自然に思えるような――

そんな感情だった。


「カール」


オリアナが本を閉じ、まっすぐに彼を見つめた。


「今度の休日……一緒に市へ行かない?

 新しい魔術書が入るって聞いたの。

 あなたにも見てほしいの」


カールは驚いた。

だが、すぐに答えは決まっていた。


「……ああ。行こう」


オリアナの顔がぱっと明るくなる。


「嬉しい。じゃあ、約束ね」


その笑顔を見て、

カールの胸に静かな温かさが広がった。


(これは……悪くない)


エミリアへの想いは、もう痛みではなく、

過去の大切な記憶として胸に残っている。


そして今、

新しい感情がゆっくりと芽を出し始めていた。


図書塔の窓から差し込む光が、

二人の未来をそっと照らしていた。

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