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薔薇の学舎ロザリウム  作者: 愛庵苦労


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6/10

カール視点・後日談

エミリアがクリストファーの隣を選んだあの日から、

季節はゆっくりと移り変わっていった。


ロザリウム学舎の薔薇園は、春の名残を抱えながら、

新しい蕾をつけ始めている。


カールはその中を歩きながら、

胸の奥に残った痛みを確かめるように息を吐いた。


(……あの日のことは、忘れられない)


エミリアが自分ではなく、

クリストファーの手を取った瞬間。


胸の奥が、ひどく冷たくなった。

けれど同時に、どこかで納得していた。


(あいつなら……エミリアを幸せにできる)


そう思ったからこそ、

背を向けて歩き出せたのだ。


それから数日後。

カールは訓練場で剣を振っていた。


ただ無心に、何度も、何度も。


「……お前、最近やけに気合入ってるな」


キッドが呆れたように言う。


「別に。普通だ」


「普通のやつが、剣を折るほど振るかよ」


折れた木剣を見て、カールは小さく舌打ちした。


「……余計なことを考えたくないだけだ」


「エミリアのことか?」


カールは答えなかった。

だが、沈黙がすべてを物語っていた。


キッドは肩をすくめ、

それでもどこか優しい声で言った。


「お前は不器用だな。

 でもまあ……失恋ってのは、悪いもんじゃないぜ」


「……何が言いたい」


「お前は初めて誰かを好きになったんだろ。

 それは、ちゃんと前に進んでるってことだ」


カールは目を伏せた。


(前に……進む、か)


その日の夕方。

カールはひとり、薔薇園のベンチに座っていた。


ふと視線を上げると、

遠くの道を歩く二人の姿が見えた。


エミリアとクリストファー。


寄り添うように歩き、

時折笑い合っている。


その光景は、胸に少し痛みを残した。

けれど――


(……悪くない)


そう思えた。


自分が好きになった少女が、

幸せそうに笑っているのだから。


それだけで、

胸の痛みが少しだけ和らいだ。


「……エミリア」


名前を呼んでみる。

風に溶けて消える声。


(お前の笑顔を見て、胸が痛くなるのは……

 きっと、まだ好きだからなんだろうな)


でも、いつか。


この痛みが、

優しい思い出に変わる日が来るのかもしれない。


カールは立ち上がり、

夕暮れの空を見上げた。


「……俺も、前に進む」


その言葉は、

誰に向けたものでもなく、

自分自身への誓いだった。


薔薇園を吹き抜ける風が、

彼の背中をそっと押した。


翌朝。

カールはいつものように訓練場へ向かった。


だが、その足取りは昨日までより少しだけ軽い。


「おはよう、カール」


声をかけてきたのは、

魔術科の少女――オリアナ。


本を抱え、柔らかく微笑んでいる。


「……おはよう」


「今日も訓練? 頑張ってるのね」


「まあな」


オリアナは少しだけ頬を染め、

勇気を振り絞るように言った。


「よかったら……今度、図書塔で勉強しない?

 あなた、魔術理論が苦手でしょう?」


カールは驚いたように目を瞬いた。


そして――

ほんの少しだけ、笑った。


「……ああ。頼む」


新しい風が、静かに吹き始めていた。

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