69話 朝日奈るな視点
朝日奈るな視点
気に食わない男どもとチームを解散して、次をどうするか考えていた。
正直、面倒くさい。
ああいう連中でも、三人まとめて確保するのはそれなりに大変だった。
人の身体を舐めるように見てくるカスだったけど、それでも“戦力”ではあったのだから。
(ほんと、最悪)
そんなタイミングで出会ったのが、兎見美々。
ひよりのクラスメイトらしい。
ひよりが「一緒に組まない?」なんて言い出した時は、正直不安しかなかった。
小さい。細い。頼りなさそう。
オドオドして、目も泳いでる。
どう見ても探索者向きじゃない。
(マジで大丈夫?)
そう思った。
けど――
ひよりが言った。
「この子、ソロで潜ってる」
「……は?」
思わず聞き返した。
ソロ探索者。
いないわけじゃない。
でも、普通はやらない。やれるもんじゃない。
驚いたのと同時に――
(無茶してるだけじゃないの?)
心配にもなった。
だけど。
迷宮に入った瞬間、それは全部ひっくり返った。
「ここでいいかな」
そう言った彼女は、さっきまでとは別人だった。
動きに無駄がない。
迷いがない。
テキパキと状況を整理して、自然に指示を出していく。
気づけば、誰も逆らってなかった。
(……なに、この感じ)
気がついたら、この即席チームの“軸”はこいつになっていた。
そして――作戦。
「モンスター集めて、まとめて処理する」
(は?)
正直、頭おかしいと思った。
自殺志願者かってレベル。
でも、こいつは言い切った。
「大丈夫」
その顔が――妙に自信満々で。
(……マジでいけんの?)
半信半疑のまま、ついていくことにした。
で。
結果がこれ。
「……多すぎでしょ」
思わず口から漏れた。
シャボンクラブの群れ。
普通にやってても厄介な相手が、何体も、何体も押し寄せてくる。
後方にいる自分ですら、普通に怖い。
(これ、前やばくない?)
ちらっと前を見る。
ひよりの顔が強張ってる。
そりゃそうだ。
でも――
崩れない。
前線が、全然崩れない。
兎見丸とかいう盾が、全部止めてる。
(いやいやいや、なにあれ)
攻撃食らってんのに、ピクリともしない。
完全に壁。
ありえない。
そして。
その後ろから――
「……は?」
声が出た。
兎見美々。
あの小さい体で。
バカでかい戦鎚を、軽々振り回してる。
(嘘でしょ)
一撃。
それだけで、シャボンクラブが吹き飛ぶ。
叩き潰される。
(なにそれ)
ギャップとか、そういうレベルじゃない。
別の生き物だ。
さらにやばいのが――後ろ。
「ちょ、連射速すぎない?」
辰見。
あいつが放つ矢、全部当たる。
しかも硬い甲殻、普通に貫いてる。
ダメージ入ってるのが目に見えて分かる。
(は?なんで?)
しかもそれだけじゃない。
蒼い火の玉。
ボン、と弾けて、シャボンクラブを焼く。
(いや、意味わかんないんだけど)
完全に、自分の上位互換。
いや、上位とかいうレベルじゃない。
(格が違う……)
それでも。
「っ……!」
ボウガンを構える。
分かってる。
相性が悪いのは。
甲殻に弾かれるのも。
でも――
(だからって、何もしないわけにいかないでしょ!)
動き回る。
狙う。
関節、隙間、柔らかい部分。
少しでも通る場所を探して、撃つ。
撃って、撃って、撃ち続ける。
それしかできない。
気づけば――
敵はいなくなっていた。
「はぁ……っ……」
その場に座り込む。
足が笑ってる。
腕も重い。
隣を見ると、ひよりも同じ状態だった。
「……無理……」
思わず呟く。
マジでキツい。
でも――
視線の先。
あいつは、普通に立ってた。
兎見美々。
平然と、ドロップ品を回収してる。
(……バケモンかよ)
同じ時間戦ってたとは思えない。
全部終わってから、こっちに歩いてくる。
そして。
にこっと笑って――
「もう一度行ける?」
「……は?」
思考が止まる。
数秒遅れて、口が動いた。
「マジか……」
思わず漏れた本音。
(いやいやいや)
(またあれやんの?)
ありえない。
普通なら帰る。
休む。
今日は終わり。
それが当たり前。
でも――
こいつは違う。
(……でも)
少しだけ、口元が歪む。
(ついていけば、強くなれそうだな)
そう思ってしまった自分に、
小さく苦笑した。




