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68話 小鳥遊ひより視点

小鳥遊ひより視点

兎見さんがモンスター寄せのお香に火を付けると、不思議な香りが周囲に広がっていく。

甘いような、けれどどこか違和感のある匂い。

(本当にやるんだ……)

正直、信じられなかった。

モンスターを“集める”なんて、探索者の常識ではあり得ない。危険すぎる行為だ。

けれど――

兎見さんは、迷いなく「大丈夫」と言い切った。

その姿は、学校で見ている彼女とはまるで別人だった。

おとなしくて、少しおどおどしていて、目立たないクラスメイト。

そんな印象は、もうどこにもない。

(……なんで、あんなに自信があるの?)

答えを考える間もなく――

カサ、カサ、と。

迷宮の奥から音が響き始める。

一つじゃない。

二つでもない。

明らかに、数が多い。

そして――現れた。

「……多いっ!」

思わず声が漏れる。

視界に入ってきたのは、シャボンクラブの群れ。

一匹でも厄介な相手が、何体も、何体も押し寄せてくる。

足が、すくみそうになる。

やがて、最前列の個体が土嚢壁に到達する。

ドンッ、ドンッ、と鈍い音が響く。

その衝撃音が、心臓に直接響くようで――怖い。

(無理……これ、無理……!)

そう思った瞬間。

一体が壁を乗り越え、こちらに侵入してきた。

大きな鋏を振り上げる。

狙いは――前線に立つ、兎見丸。

「危な――」

声を上げかけた、その時。

ガンッ!!

金属同士がぶつかるような、重い衝突音。

だが――

「……え?」

兎見丸は、微動だにしていなかった。

一歩も下がらない。

一切揺れない。

ただそこに、“壁”として立っている。

「すごい……」

思わず呟く。

こんなの、今まで一緒にいた探索者チームでも見たことがない。

完全に、攻撃を受け止めている。

その隙に――

「――」

兎見さんが、前に出た。

自然な動き。

迷いのない一歩。

そして、その手にある武器を見て――

息が止まる。

(え……なに、あれ)

巨大な戦鎚。

自分の体より大きいんじゃないかと思うほどの質量。

とてもじゃないが、自分には持てない。

なのに――

彼女は、それを軽々と振り上げた。

そして。

一撃。

ゴッ――!!

鈍く、重い音。

次の瞬間、シャボンクラブの巨体が宙を舞った。

壁に叩きつけられ、そのまま動かなくなる。

「……」

言葉が出ない。

(違う)

分かってしまう。

(私とは、全然違う)

レベルが違う。

その後は――もう、一方的だった。

兎見さんと、その眷属たちが、次々とシャボンクラブを処理していく。

兎見丸が止め、巳未が突き、辰見が射抜く。

そこに兎見さんの一撃が加わるたび、確実に一体ずつ消えていく。

完璧に組み上げられた流れ。

(これが……本当の戦い……?)

自分も、動かなければ。

そう思って、隙を見てメイスを振るう。

手応えはある。

だが――

(……全然、足りてない)

自分がいなくても、この戦いは成立している。

それでも、必死に食らいつく。

少しでも役に立てるように。

――どれくらい時間が経ったのか。

気づけば、シャボンクラブの気配は消えていた。

「はぁ……っ、はぁ……っ……」

肩で息をする。

足に力が入らず、その場に座り込む。

全身が重い。

腕も、足も、もう動かしたくない。

隣を見ると、るなも同じようにしゃがみ込んでいた。

「……無理……これ、キツすぎ……」

息も絶え絶えに呟く。

それなのに。

兎見さんは――

平然としていた。

まるで軽い運動でもした後のような顔で、淡々とドロップ品を回収している。

(……嘘でしょ)

同じ時間、同じ場所で戦っていたはずなのに。

差が、ありすぎる。

やがて回収を終えた兎見さんが、こちらに歩いてくる。

そして――

にこりと、いつも通りの柔らかい笑顔で言った。

「もう一度行ける?」

「……え」

思考が止まる。

「マジか……」

るなが、心底引いた声を漏らした。

ひよりも同じ気持ちだった。

(この人……どこまでやるつもりなの……?)

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