67話
迷宮に入ってしばらく進んだところで、美々は足を止めた。
「ここでいいかな」
周囲を一度見回してから、二人に向き直る。
「2人に、私の仲間を紹介するね」
その言葉に、ひよりとるながきょとんとした顔をする。
「……仲間?」
「え、1人じゃなかったの?」
美々は小さく頷いた。
そして――
「出てきて」
静かにそう告げると、スキルを発動する。
【眷属召喚】
足元に、淡く光る幾何学模様の円陣が浮かび上がる。
光が広がり、空気がわずかに震える。
その中心から――
一体、また一体と、人影が現れた。
最初に現れたのは、盾持ちの戦士――兎見丸。
続いて、弓を携えた辰見。
そして、鋭い槍を構えた巳未。
完全に統率の取れた、戦闘要員。
「――え」
ひよりの口から、間の抜けた声が漏れる。
「は?」
るなは目を見開いたまま固まっていた。
美々は何事もないように紹介する。
「前衛タンクの兎見丸。後衛の辰見。アタッカーの巳未」
「私の眷属」
沈黙。
数秒遅れて、るなが声を上げた。
「ちょ、ちょっと待って!?なにそれ!?」
「召喚……ってこと!?」
ひよりもようやく言葉を絞り出す。
美々は簡単に頷いた。
「まあ、そんな感じ」
詳細を長々と説明する気はない。
最低限の仕組みだけを伝える。
「スキルで呼び出してる。ある程度自律して動くし、指示も通る」
二人は顔を見合わせた。
理解が追いついていないが――
一つだけは分かる。
(戦力、全然足りてるどころじゃない……)
「……すご」
るながぽつりと呟く。
ひよりも、小さく頷いた。
「……うん」
半ば無理やりではあるが、納得するしかなかった。
そして、その驚きはまだ終わらない。
「じゃあ、準備するね」
美々はそのまま【陣地化】を発動する。
空気が変わる。
足元を中心に、じわりと領域が広がっていく。
次の瞬間――
地面が盛り上がり、土嚢が次々と形成されていく。
さらに、その外側には逆茂木。
まるで最初からそこにあったかのように、自然に、防御構造が組み上がっていく。
「……は?」
るなの声が、完全に素のトーンになる。
「ちょっと待って、え、なにこれ」
「え、え……?」
ひよりも言葉を失っていた。
「こんなの……見たことない……」
美々は構わず作業を進める。
配置、導線、侵入経路。
全てを頭の中で組み立てながら、最適な形に整えていく。
やがて、防御陣地は完成した。
「こんな感じ」
振り返ると、二人はまだ呆然としていた。
美々は軽く手を叩く。
「じゃあ、作戦をもう一回」
強制的に意識を引き戻す。
「お香でモンスターを集める。ここで迎え撃つ」
指で陣地をなぞる。
「外は逆茂木で足止め。削れるところは削る」
「侵入経路から入ってきたやつは――」
兎見丸へ視線を向ける。
「【挑発】と【不動】で固定」
重々しく頷く兎見丸。
「その隙に、小鳥遊さんと巳未で叩く」
ひよりが緊張したように頷く。
「は、はい……!」
「朝日奈さんと辰見は後ろから援護。外の個体を削って」
「了解」
るなはすぐに順応した。
「兎見さんは?」
ひよりが問う。
「全体見ながら、前線寄りで動く」
短く答える。
全員の役割が決まった。
美々にとっては、いつもの形。
だが――
ひよりとるなにとっては、未知の戦いだった。
「……ほんとに、大丈夫なんだよね」
ひよりが小さく呟く。
美々は迷いなく答える。
「大丈夫」
そして、懐から香を取り出す。
「じゃあ――始めるよ」
火をつける。
甘く、しかしどこか異質な香りが広がっていく。
その匂いが、迷宮の奥へと流れていく。
静寂。
数秒の間。
そして――
遠くから、微かな音が響いた。
カサ、カサ、と。
何かが這う音。
それが一つ、二つではないことは、すぐに分かる。
るなが小さく呟く。
「……来るよ」
その声には、わずかな緊張と――
高揚が混じっていた。
美々は前を見据えたまま、静かに構える。
(ここからだ)
シャボンクラブの群れが――
こちらへと、押し寄せてくる。




