66話
迷宮に入る前に、美々たちは簡単な打ち合わせをすることになった。
ひよりが少し不安そうに口を開く。
「それで……何のドロップ品を取りに行くの?」
「シャボンクラブ」
美々があっさり答えた瞬間――
ひよりとるなの表情が、揃って微妙に歪んだ。
「……あー」
「よりによって、それ?」
二人の反応は分かりやすかった。
話を聞けば、知り合いの探索者チームに同行していた頃に、一度だけ討伐経験はあるらしい。だが独立してからは、決定力不足でまともに倒せていない相手だという。
(まあ、そうなるよな)
美々は内心で納得する。
シャボンクラブは防御寄りのモンスターだ。中途半端な火力では押し切れない。
自然と、美々は二人の装備に視線を向ける。
ひよりは片手持ちのメイス。
以前使っていた特殊警棒の流れで【打撃】スキルを習得し、そのまま打撃武器に移行したらしい。
(方向性は悪くない)
対甲殻という意味では、相性自体はいい。
問題は――
(火力が足りてるか、だな)
そして、るな。
手にしているのはボウガン。
(……これは相性悪いな)
シャボンクラブの硬い甲殻に対して、矢は通りにくい。
とはいえ、るなも【射撃】スキル持ちだ。完全に無力というわけではない。
(バフかければ、補助火力としては十分使える)
美々は一通り確認すると、簡単に作戦を説明することにした。
「やることはシンプルだよ」
二人の視線が集まる。
「防御陣地を作って、お香でモンスターを集める」
その一言に、二人は一瞬固まった。
「……え?」
「ちょっと待って?」
理解が追いついていない顔。
美々はそのまま続ける。
「集まってきたのを、まとめて処理する。それだけ」
沈黙。
そして次の瞬間――
「そんなことできるの!?」
「そんなことしてたの!?」
驚きが同時に弾けた。
無理もない。
通常の探索では、敵は“分散して処理するもの”だ。自分から集めるなど、リスクが高すぎる。
ひよりが不安そうに眉を寄せる。
「でも……モンスターが大勢集まったら、三人じゃ対応できないよ……?」
声は弱々しい。
るなも腕を組んだまま、真剣な顔で頷く。
「正直、それは思う」
当然の懸念だった。
普通なら、無謀としか言えない。
だが――
美々はあっさりと答えた。
「大丈夫」
迷いのない一言。
その声音には、不思議な確信があった。
ひよりが思わず問い返す。
「……ほんとに?」
「うん。詳しいことは中で説明する」
それ以上は語らない。
だが、その態度には余裕があった。
るながじっと美々を見る。
(……ハッタリじゃない)
直感的にそう感じる。
だからこそ、逆に気になる。
「……ま、いいか」
るなは肩をすくめた。
「やってみりゃ分かるでしょ」
ひよりはまだ少し不安そうだったが、それでも小さく頷く。
「……うん」
こうして三人は――
それぞれに思うところを抱えたまま、迷宮の入口へと足を踏み入れる。
薄暗い通路の奥へ。
日常とは切り離された、異質な空間へ。
そしてこの先で――
ひよりとるなは知ることになる。
“安全に大量の敵を処理する”という、一見矛盾した戦術が、
現実として成立する瞬間を。
その中心にいるのが――
目の前の、小柄なソロ探索者であることも。




