65話
美々の元にやってきたひよりは、困ったように眉を下げた。
「兎見さん……見てた?」
その問いに、美々は小さく頷く。
「まあ、だいたいは」
それだけで十分だった。
ひよりは軽く息を吐くと、隣に立つ少女へ視線を向ける。
「紹介するね。この子、朝日奈るな。中学のときからの友達で……私を迷宮に誘ったのも、この子」
「どーも、朝日奈るな。よろしく」
るなは気さくに手を上げる。
見た目は完全にギャルだった。
明るい茶髪に、ゆるくウェーブのかかった長い髪。美々より十センチ以上は高い身長に、プロテクター越しでも分かるほどの大きな胸。
思わず目が行き――
(……でかい)
内心で呟きながら、美々はわずかに腰が引けた。
るなはそんな様子には気づかないのか、あるいは気にしていないのか、そのまま話を続ける。
「さっきの連中、マジで最悪だったから」
ひよりが苦笑しながら説明を引き継ぐ。
「私たち、最初は知り合いの探索者チームにパワーレベリングしてもらってて……基礎を教えてもらってから独立したんだ」
「でも、そのあとがね。全然人が集まんなくてさ」
るなが肩をすくめる。
「やっと組めたのが、さっきの三人ってわけ」
「探索の方針で揉めて……」
ひよりが言い淀むと、るながその先を引き取った。
「向こうはガンガン先行きたい派。こっちは慎重に行きたい派。まあ、それだけならまだいいんだけどさ」
そこで、るなの表情がはっきりと険しくなる。
「視線がキモいのよ」
吐き捨てるような一言。
自分の胸元を軽く叩く。
「ずーっと見てくんの。装備越しでも分かるとか言ってニヤニヤしてさ」
ひよりが申し訳なさそうに俯く。
「最初は気のせいかと思ってたんだけど……」
「限界来て言ったら逆ギレ。『それくらい我慢しろ』だってさ」
るなの声には、はっきりとした怒りが滲んでいた。
「ふざけてんのかって話でしょ」
美々は静かに頷く。
(……完全にアウトだな)
もはや方針の違い以前の問題だ。
信頼できない相手と迷宮に潜るのは、命に関わる。
「それで、喧嘩別れ?」
「そーいうこと」
るなはあっさり言い切る。
その後、ひよりとるなは一度顔を見合わせた。
短い無言のやり取り。
そして――
ひよりが少し困ったように、美々へ向き直る。
「……あのね、兎見さんって、一人で迷宮に入ってるよね」
「うん」
「よければ……その、チーム組まない?」
その提案に、るなが目を見開いた。
「え、ちょっと待って――一人!?」
勢いよく美々を見る。
「それ大丈夫なの!?」
純粋な驚きと、少しの心配。
見た目に反して、素直に他人を気遣う声音だった。
美々は少しだけ考える。
(……どうするか)
【眷属召喚】のこと。
見せれば話は早い。戦力としても納得させやすい。
だが――
(まあ、いいか)
せっかくの機会だ。
ひより達と組むことで得られるものもある。
情報、連携、そして――人との関係。
美々は小さく頷いた。
「いいよ」
その一言に、ひよりの表情がぱっと明るくなる。
「ほんとに?」
「うん。ちょうど公社の依頼も受けてるし」
「手伝ってくれるなら助かる」
その言葉に、るなが首を傾げる。
「依頼?なにそれ」
「迷宮公社のやつ。ドロップ品の納品依頼」
るなの目が丸くなる。
「え、そんなのあるの!?」
完全に初耳、という反応だった。
美々は肩をすくめる。
「あるよ。ちゃんと報酬も出る」
「マジで?それ、普通に美味しくない?」
食いつきが早い。
その様子に、ひよりが少しだけ苦笑する。
「るな……」
「いやだってさ、どうせ狩るならそっちの方が良くない?」
合理的な意見ではある。
美々は軽く頷いた。
こうして三人は――
即席パーティとして動き出すことになった。
ただし。
この時点ではまだ、ひより達は知らない。
目の前にいる“ソロ探索者”が――
常識から外れていることを。




