64話
美々はパワーレベリングに勤しむ一方で、冬休み以降、迷宮公社から時折依頼を受けるようになっていた。
依頼内容は主に、不足しているドロップ品の納品。掲示されている品目を確認し、自分たちで対応できそうなものだけを選んで引き受けている。
その日、美々が受けたのはシャボンクラブのドロップ品の納品依頼だった。
以前は、防御陣地を破壊されることで戦術が崩れ、モンスター寄せのお香を使った効率的な狩りができなかった。しかし【陣地化】を習得した今は違う。
陣地そのものの耐久と安定性が向上し、多少の妨害では崩れない。加えて、レベリングによって底上げされた戦力がある。
――シャボンクラブの大群相手でも、問題なく対処できる。
必要な物品を揃え、美々は迷宮の入口へと向かった。
その途中で、見覚えのある姿が目に入る。
小鳥遊ひよりだった。
ひよりは数人のチームメンバーと一緒にいるようだった。男性が三人、ひよりともう一人の女性で、合計五人のパーティ。
(……あれ?)
だが、様子がおかしい。
距離があるにもかかわらず、空気が張り詰めているのが分かる。どうやら言い争いになっているようだった。
美々は足を止め、少し距離を取ったまま様子を窺う。
断片的に聞こえてくる声と身振りから、対立しているのは男性陣と、ひより、そしてもう一人の女性の側らしい。
意見の衝突。
それも、かなり感情的なものだ。
やがて――
均衡は、あっけなく崩れた。
「もういい、俺たちは行く」
吐き捨てるような言葉と共に、男性たちは踵を返す。
引き止める声は上がらなかった。
そのまま三人は振り返ることもなく、その場を離れていく。
残されたのは、ひよりともう一人の女性だけだった。
二人はその場に立ち尽くしたまま、しばらく動かなかった。
やがて、女性の方が何かを言い、ひよりが小さく頷く。短いやり取りを交わした後――
ひよりが、ふと顔を上げた。
その視線が、まっすぐ美々を捉える。
一瞬の驚き。
だがすぐに、何かを決めたような表情に変わる。
隣の女性に声をかけると、二人は連れ立って美々の方へ歩いてきた。




