第74話 属性多め 中編
なんとか部屋まで辿り着き、私はローブをクローゼットのハンガーにかける。宿屋の主は変だけど、部屋はちゃんと整っている。
…なんて思っていると、扉が開いて平然と宿屋の主が入ってきた。
「そういえばまだ名を名乗っていなかった」
「いや…、別に名乗る必要もないと思うけど…」
「勝負する相手には名乗るのが礼儀だっ!」
ビシッと指差す宿屋の主。…まだ勝負引きずってた。お腹もすいたし、もう勘弁してほしい。
「夕食食べに行きたいんだけど…」
「夕食?それならあたしが作ってあげるよ」
「えっ…!いいの?」
まさか夕食を作ってくれるなんて思ってなかった。変だけど優しいところもあるようだ。
「もちろん。一人分が二人分になるだけだし。じゃあささっと作ってくるから待っててね」
「私も手伝うよ」
「えっ!ほんと!?同年代の女の子と一緒にごはん作るの夢だったんだー!」
宿屋の主はウキウキになる。今度は可愛らしい夢だった。そういうのなら全然良いのに。私もクッキー以外作るのなんだかんだ久しぶりだし、二人で作る料理は楽しそうだ。
調理場に向かっていると、前を歩く宿屋の主が何か思い出したようにハッとした。
「あっ!まだ名前言ってなかった!」
「そうだね」
天然系宿屋の主の唐突な想起に対して冷静な私。なんとも妙な組み合わせだ。宿屋の主はくるりと回ってこちらに目を向け、ニコッと笑みを浮かべる。
「あたしはセリーヌ。十七歳の魔法使い!」
「私はシエル。同じく十七歳の魔法使いだよ」
同年代どころか同い年だった宿屋の主改めセリーヌ。同じ言い回しで私も名前を答える…と、セリーヌが目をキラキラさせて私の両手を掴んできた。
「同い年!嬉しい!」
「そ、そんなに…?」
セリーヌのリアクションは少々オーバーだと思った。確かに同い年の女の子同士というのは、気兼ねなく接することができて良いけれど、感激するほどのことでもないような。まぁでも、感情豊かな女の子を見てるのは、慣れれば楽しいから良いか。
調理場も綺麗に清掃が行き届いていて、汚れ一つ見当たらない。他に従業員は居なそうだし、部屋の掃除とかも含めて、セリーヌ一人でちゃんと管理できてるのは凄いな。
「部屋もそうだったけど、調理場もきちんと掃除してて偉いね」
「ほんとっ!?あたしえらい!?」
セリーヌはまたもや手を掴んで目をキラキラさせた。これでは料理が始められない…。
「セリーヌ、早く夕食食べたいな…」
「あっ!ごめん!嬉しくて思わず…!」
確かに、褒められて嬉しいと思うのは私も同じ。褒められた時の反応が、私の場合は照れるのに対して、セリーヌはハイテンションになっちゃうだけの違いだ。…いや、結構違う?
その後はお喋りしながら料理をしていき、お腹もだいぶすいた頃、私とセリーヌは食卓についた。本日のメインは鶏肉と野菜のオリーブオイル焼き。オリーブオイルはアリコ島で採れたオリーブを使っているらしい。私が実際にアリコ島に行った話をすると、セリーヌは興味津々で耳を傾けていた。
「良いな〜!あたしもポルト海の島々に行ってみたいんだよね。ここって周りが森で景色が単調だから、海にたくさん島がある風景って憧れちゃう」
「セリーヌは空も飛べるんだから、二日あればポルト海まで出れると思うよ」
「二日で行けるかな…。シエルはメリーベルからここまで何日で来たの?」
「えっと…一日で」
「一日!?」
セリーヌはフォークを持つ手を止めて目を丸くする。…確かに、だいぶ無理した行程なので、普通の人は一日でここまで来ようとは思わないだろう。
「シエルって…実はすごい魔法使い?」
「いやいや…別にそんなことないよ」
私は困り笑いを浮かべる。途端、セリーヌは探偵モードへと切り替わった。
「怪しい…。そんなことないと口では言ってるけど、強者の余裕というかそんな空気が漂ってる…」
「どんな空気…?」
推理にしては根拠が無さすぎるけど、セリーヌは妙なところで鋭い。私は変に勘繰られないように、黙々と食を進める。すると、セリーヌが身を乗り出して、私の顔を凝視してきた。…お行儀が悪いですよ?
「っていうか、シエルってやっぱりかわいいよね」
「かっ…!急に…!?」
私は頬を赤らめてアタフタする。真面目な顔でそう言われるとドキッとしてしまう…。
「まず顔がかわいいけど、リアクションもかわいい。素直だけど知的な雰囲気もあってかわいい。実は超強いんじゃないかって疑いたくなるけど、見た目そんな風に見えないギャップがかわいい」
「真顔で褒め倒さないでおくれ」
「愛人が二人いるのも納得か…」
「いやだから愛人じゃないって…」
勝手に納得されてしまったので、決まり文句のように否定する。
終始セリーヌのテンポに飲まれているけど、意外と楽しんでいる自分がいる。この町はただの中継地点のつもりだったけど、こういう出会いも良いもんだな。
お腹を満たした私は、セリーヌにお礼を言うと、明日に備えて部屋に戻ろうと立ち上がる。…すると、セリーヌに呼び止められた。
「シエル…明日の朝には出ちゃうんだよね?」
セリーヌは座ったまま、上目遣いで私を見つめる。私のことを褒めちぎっていたけど、セリーヌだって十分かわいい。そんなかわいい子が、そうやって寂しそうな顔をするのは……結構来るものがある。




