第73話 属性多め 前編
日が沈んで紫がかった空の色が広がる中、私はテルミの町に到着した。パルメ地方の北の端に位置し、この町を越えると、いよいよグラツェが属するグラン地方に入る。
町はエクサロと同じくらいの規模感で、外を出歩いてる人は少なめ。さっそく宿屋を見つけたので、降り立って扉を開けた。
「いらっしゃいませー。……ん?」
中に入ってさっそく宿の人と目が合う。私と同年代の女の子で、茶色の髪をハーフアップにしている。向こうは私を見るや、不審なものを見るかのような目を向けてきた。…え?なんで?
「あなた…魔法使いですか?」
「え、えぇ…まぁ」
なんでか圧が強い…。目を細めて睨みつけるような鋭い視線を私に送り、カウンターに手をついて身を乗り出してきた。
「魔法使いですかそうですか。じゃあ勝負ですね」
「えっ!?なんでそうなる!?」
魔法使いだとわかったら勝負を挑んでくる宿屋の主?どういう宿屋?…え、他のところにしようかな…。
「えっと…、やっぱり別のところにします…」
私は困り笑いを浮かべながら断りを入れて、扉に手をついた……けど、開かない。いつの間にか鍵がかかったようだ。顔を振り向けると、宿屋の主が杖を向けていた。
「ふふふ…。もちろんあたしも魔法使い。あたしに勝つまでここから出られないよ」
魔法使いの宿屋の主は不適な笑みを浮かべている。…え、まさかこの狭い空間で勝負するの?普通に考えて危ない。
「あの…屋内で魔法勝負は危険だと思いますけど」
「はっ…!そうだった…!危うく宿が壊れるとこだった…!」
どうやら天然系のようだ…。魔法勝負を仕掛けたくなる天然系の宿屋の主か。なんとも属性が多い。
「それならっ…!表へ出ろっ!」
今度はビシッと指差して、外での勝負を持ちかけてきた。慣れない言葉だったのか、若干ぎこちない。何がそこまで彼女を突き動かすのだろう…。外出たら普通に逃げますけど。
「あっ…!でも、扉を開けた瞬間逃げ出しそう…!うぅ…どうしよう…!中で勝負したら建物が危ないし…、外だと逃げられたら終わりだし……うわぁぁ〜!どうすれば〜!」
宿屋の主は頭を抱えて叫んでいる。中で勝負するか外で勝負するかでこんなに悩む人初めて見た。…私は勝負せずに普通に泊まりたいんですけど。
どうしようか。鍵は魔法で開ければ良いけど、この悶え苦しんでいる人を放っておくのもなんか気が引けるというか…。
「なんでそんなに勝負したいんですか?」
とりあえず、まず訊くべき質問を投げかける。すると、今度は両手を頬に当ててホワホワし出した。
「同年代の女の子の魔法使いを見ると無性に勝負したくなるんだ〜。これが人間の性ってやつかな〜?…あ、でも男はムリ。見た瞬間拒絶したくなる」
かと思えば、急に真顔になる宿屋の主。表情の移り変わりが激しい。
「いきなり拒絶されても困っちゃうと思いますけど…」
別に男子の肩を持つわけじゃないけど、至極真っ当な返しだと思う。
すると、今度はカウンターから出てきて、ガン見しながら私のそばまで寄ってきた。私は思わず体をのけ反らせる。
「…かわいい」
「へっ…?」
唐突な一言に私はついて来れず、冷や汗を垂らす。
「かわいくて、ちょっと気が強そうだけど純真な優しさが溢れ出てる!あたしはそんな子と魔法で勝負したいの!」
「も、物好き…」
「クンクン…。んん…!?でもあなたからすでに愛人の匂いがする」
突然探偵を始めてしまう宿屋の主。また一つ属性が増えた。
「しかも二人っ!?あなたまさか浮気性!?」
「違います」
勝手に罪をなすり付けられそうだったので、すかさず否定。……いや待て、匂いでわかるもの…?
「探偵になった方がいいのでは?」
「探偵?それも良いかも!宿屋兼探偵事務所って斬新〜」
「普通の宿に泊まりたかった…」
早くベッドのある部屋に行きたいと思う私であった。




